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2012-01-01から1年間の記事一覧

DJF、JJA

気候学者や気象学者にとって、季節が重要なものごとであることはまちがいない。しかし、いつからいつまでを何という季節と呼ぶべきかとなると、こだわるかこだわらないかの両極端に分かれるようだ。直前の記事で紹介した「日本には6季がある」と主張する人々…

梅雨、秋雨/秋霖

日本の気候あるいは季節の話をしようとすれば、梅雨を無視はできないだろう。一般の日本語圏では、「梅雨」と書いて「つゆ」と読む熟字訓がよく使われる。しかし気象学用語の「梅雨」は「ばいう(Baiu)」である。第2次大戦後の国語政策で学術用語には熟字訓を…

「EM (有用微生物群)」と科学教育の問題 (3)

[8月12日の記事][9月26日の記事][10月4日の記事]に続く話題。今回もtwitterでの呼吸発電(breathingpower)さんからの話題をもとに少し調べたことと感想。必ずしも「科学教育」に直接関係するものではないが、問題関心は続いているのでこの表題にした。== EMは…

世界の食料需給についての心配

世界の食料問題について(およそ2050年ごろまでを展望して)、食料危機は起きないとする楽観的見かたと、起きるかもしれないというやや悲観的な見かたの話を聞く機会があった。(きっと起きるという非常に悲観的な話はなかった。) 公開の会合ではなかったので、…

活断層かどうかと原子炉稼動の判断は分けて考えよう

原子力発電所の立地場所に活断層があるかどうかの判定は前から問題になっている(渡辺ほか, 2012)。そのうちで最近ニュースになったのは、福井県大飯(おおい)原子力発電所の構内にある断層らしいものが活断層かどうかということだった。NHKは次のように報道し…

風向のデータ伝達は要注意

原子力規制委員会が、原子力発電所にもし事故が起きた場合に放射性物質が風によってどう広がるかのシミュレーションの結果を発表したが、シミュレーションの材料となった風の観測データの風向の表現の解釈がまちがっていたので、結果もまちがっていた、とい…

科学的情報を伝える際のむずかしさ

環境問題に関する科学的知識を、社会的意思決定につなぐために、多くの人々に理解してもらう必要がある。ところが、そこに、なかなか説明がむずかしいことがある。(どうむずかしいかを説明することさえ簡単ではない。ひとまず自分用の覚え書きとして書き出し…

二十四節気、七十二候

「気象むらの方言」の中で季節についての用語にふれることがまだできていない。なかなか書きにくい。思うに、気象学者にとって季節は重要なのだが、季節に関する用語を意味を統一して使っているわけではないのだ。しかし、Twitter上で5日ごとに「七十二候」…

(空)

(このページの題目は「そら」ではなく「からっぽ」のつもりでした。まぎらわしかったですね。)「はてなダイアリー」の構造上、同じ日付に複数の記事があると、全部まとめて消すことはできるが、ひとつずつ選んで消すことはできないようだ。中身をからにする…

不確かな科学情報を社会に提供すること - 地震発生見通しの場合 (2)

[8月19日の記事]の続き。イタリアのラクイラの地震に関して、国の専門行政官と科学者専門委員が刑事告発されていた事件の一審の判決が出た。求刑を上まわる実刑判決で、被告は控訴するそうなので、決着がつくまでにはまだかかりそうだ。日本の新聞などの見出…

海洋鉄散布が実行されてしまった

大気中の二酸化炭素などの増加による温暖化は意図しない気候改変だが、これを打ち消すために意図的な気候改変をするべきだという提案がある。英語では geoengineering と言われることが多いが climate engineeringとも言われる。日本語では「気候工学」で知…

わたしの個人言語と共通語の違い

(わたし以外の人に意味のある情報ではないと思うが、頭の中の「場所をあける」ために書き出すことにする。)わたしは静岡県と愛知県の数か所で育ったが、そのいずれの地域の方言も身につけなかった。方言の要素をとりこんでしまったところはあると思うが、わ…

科学報道の質を高めるために

2012年10月18日、iPS細胞の臨床応用に関する読売新聞ほかの報道が、自称研究者のうそを真に受けたものであるらしいとわかったところで、科学に関する報道の質が問題になっていた。その中で、日経サイエンス記者の古田彩(ayafuruta)さんがTwitterで一連の発言…

不確かな科学情報を社会に提供すること - 地震発生見通しの場合 (3)

イタリアの裁判の件よりも前にこの話題について書こうと思っていたのだった。大木聖子さんのTwitterでの紹介をきっかけに、毎日新聞 2012年9月2日 (東京) 1面+4面の記事「予想超えた巨大地震 学者たちの限界と使命」の、地震学者の纐纈一起 (こうけつ かずき…

「ニセ科学」と仮称される問題群

物理学者の菊池誠さんのブログKikulogが、しばらく休みだったのだが[7月1日の記事]、10月10日に再開された。これを機会に、菊池さんが「ニセ科学」と呼んでいるものの問題を考えてみたい。菊池さんは「ニセ科学」とは「見かけは科学のようでも、実は科学では…

海洋学者Shizuo Ishiguro、日本出身地球物理学者の波

(人の名まえに敬称をつけるかどうかはいつも迷うが、今回はとくに意味もなく不ぞろいになることをおことわりしておく。)【[補足 (2017-10-08)] ネット上(Twitterほか)のいろいろなかたのご指摘によって知った情報を追加した。】【[補足 (2018-09-05)] 日本海…

病的科学 (2)

[6月24日の記事]の続き。== Langmuirのいう病的科学 ==Wikipedia日本語版「病的科学」(2012-10-06現在)より 病的科学(びょうてきかがく, pathological science)とは、観察者や実験者の主観やミスによって誤って見出される現象や効果を指す用語である。アーヴ…

皇族に基本的人権を。あるいは空位の時代へ。

前からときどき考えてきたことではあるが、「政府 女性宮家の論点整理を公表」(10月5日 NHK)の報道を見てまた考えた。国の制度だから、決めるのは皇族ではなくおそらく立法になるから国会の仕事であり、その原案を行政府が作るのも当然なのだが、当事者であ…

「EM (有用微生物群)」と科学教育の問題 (2)

[9月26日の記事]の続き。Twitter上の議論は呼吸発電(breathingpower)さんによるまとめ「EM教育問題」http://togetter.com/li/383244 があるが、その中で、JST (科学技術振興機構)あるいは文部科学省が関与している教材に関する話題での、自分の発言について…

持続可能性を考えた産業社会の見なおし (4) 食べもの

現代日本人はたくさんの魚を食べている。しかしこの大量消費を長期的に続けることは不可能だろう。仮に今の世界の漁獲量が続けられるとしても、世界のいろいろな国の需要がふえるので、日本の分けまえは減るだろう。今年の夏にはウナギがちかぢか貴重品にな…

持続可能性を考えた産業社会の見なおし (3) 情報・通信

今の情報処理先進国では、莫大な情報が通信され処理されている。そのうちには確かに人々の生活に役立っているものもあると思う。しかしその情報処理のために電力や半導体をはじめとして多くの資源を消費している。情報量あたりで必要な資源量が少なくなるよ…

持続可能性を考えた産業社会の見なおし (2) 鉄とセメント

現代の建造物には鉄筋コンクリートを使ったものが多い。世界のうちでも日本はとくに建物が地震と火事に耐えることを建築基準にしてきたので多いのだと思うのだが、密度の高い市街地の住宅や、公共の建物で新築されるものも、また鉄道・道路の高架などの社会…

持続可能性を考えた産業社会の見なおし (1) 序論

近ごろ、日本の政策、とくにエネルギー政策に関する議論は、たがいにあいいれない主張の間で分裂しているように見える。実際は複雑だがあえて単純化すると、二つのグループの人々がお互いに相手の主張を「非現実的だ」と言っているようだ。もちろんその意味…

113番元素の名まえに関するいろいろな考え

理研(理化学研究所)の研究者によって113番元素が合成されたという論文が出された。113番元素の合成の報告は外国からもあるので、世界の科学者の合意として理研の仕事が113番元素の発見と認められるかどうかは確定していない。したがっていわば「とらぬタヌキ…

ニッポニウム -- まちがっていたが、まっとうな科学

113番元素が話題になっている。この件は別に書きたいと思うが、これがニッポニウムと呼ばれることはないだろう。ニッポニウムということばは科学の歴史、しかも思い出す価値のある歴史の一部となっているからだ。小川正孝(1865-1930)は1908年に43番元素を発…

「安全・安心」論に関する覚え書き (2)

8月12日の記事「『安全・安心』論に関する覚え書き」の続き。次の論文を読んだ。 神里 達博, 2004: 序論: 「安全・安心」言説の登場とその背景。 科学技術社会論研究, 3, 72-84. 英語目次での表題では、著者は「安全」をsafetyとし、「安心」をsecurityとし…

「EM (有用微生物群)」と科学教育の問題

[8月12日の記事「有用微生物は活用すべきだが、比嘉ブランドのEMは勧められない」]に続く話題。スーパーサイエンスハイスクールの事例 呼吸発電(breathingpower)さんによるtogetter「科学技術立国日本の未来を蝕むEM菌」http://togetter.com/li/377682 にま…

西進

わたしがほぼ毎日通勤で通る道ぞいに「西進」という看板がある(ということにしておく)。これは商標つまり固有名詞にちがいない。しかし、わたしは、仕事で使う用語[3月18日の記事参照]として読んでしまう。この道はほぼ東西にのびている。朝晩の一方は、わた…

エネルギー政策の選択について思うこと

国のエネルギー・環境会議が「革新的エネルギー・環境戦略(平成24年9月14日エネルギー・環境会議決定)」を出した。このページ http://www.npu.go.jp/policy/policy09/archive01.html からPDF文書へのリンクがある。ひとまず目次を紹介する。 はじめに 1.…

どういう意味の科学者の合意(コンセンサス)が望まれるのか

2012年9月15日に仙台で開かれた環境経済・政策学会のシンポジウム「気候変動に対処するための分野横断的研究を目指して: 研究分野間の対話の試み」(趣旨説明ポスターPDF http://www.managi-lab.com/seeps/poster.pdf )に参加した。シンポジウムの話題の紹介…