【まだ書きかえます。いつどこを書きかえたかを かならずしも明示しません。】
【この記事は、大学で自然科学 (とくに気象学) をおしえる教員として書いています。】
【はっきりした結論はありませんが、いちばんいいたいことは 3節にあります。】
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Twitter で、「温度はたしざん・ひきざんできるか」というような問いについて議論がおきていた。これは、Twitterの (無料ユーザーのばあいの) 1ツイート 140字でのべるには複雑すぎる。複数のツイートによって自分の考えをのべてはみたが、それをつづけて読んでくださる人はすくないだろう。ブログもどれだけの人の目にふれるかわからないが、ここでまとめてのべてみることにした。
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あきらかにたしざんができるとおもわれる量の例をあげてみる。
30 kg の物体と 10 kg の物体を合わせると、合計の重さは 40 kg になる。(厳密には kg は質量の単位だが、ここでは小・中学生にも通じる用語として「重さ」をもちだした。) これを「30 kg + 10 kg = 40 kg」と書いてもよいだろう。ものをあわせるとき、質量 あるいは 重さ はたしざんできる。これには質量保存の法則という物理法則のうらづけがある。
体積は、厳密には保存則がなりたっていないが、あわせたことにともなって化学変化や相変化がおきないかぎり、よい近似でたしざんができる。
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30℃の水と10℃の水が同じ量だけあって、それをあわせると温度はどうなるか、という問いがあったようだ。(数値はそのとおりでなかったかもしれない。)
「30 ℃ + 10 ℃ = 40 ℃」というのは自然現象としてまちがいだ。しかし、「30 ℃ + 10 ℃ = 20 ℃」というのは算数としてまちがいだ。ものをあわせるとき、そのものにともなう量はたしざんにならないことがあり、温度はその例なのだ。
このように、ものをあわせたとき量はたしざんできるか、という問題を、算数教育の人が「量の加法性」とよんでいた、という記憶がある。
小学校の算数という科目は数学の基礎をおしえる科目だ、といいきる人がいる。しかし、温度という量がたしざんできるかどうか、というのは、数学という知識体系にふくまれる概念ではなく、実世界の経験と数学の概念とをむすびつけるときに生じる問題だ。算数教育は、数学の初歩をおしえることをふくむけれど、それを実世界とむすびつけるという、数学にはおさまらない課題をふくんでいるのだ。
さまざまな量を、extensiveな量とintensiveな量に分類しようとするこころみがある。 Extensive な量 (示量変数、外延量) はたしざんできる。Intensive な量 (示強変数、内包量) はたしざんできない。(「示量変数 / 示強変数」と「外延量 / 内包量」の概念は同じではないかもしれないが、いまの文脈に関するかぎり同じと言ってよいとおもう。)
Intensiveな量の典型として、密度 (= 質量 / 体積) がある。密度 1 kg/m3 のものを2個あわせても密度は 1 kg/m3 である。濃度にはいろいろな定義があるが、その多くのばあい、intensive な量である。
温度は intensive な量なのか? (熱力学的温度は intensive な量といってよさそうだが。)
すべての量を extensive と intensive に分類することはむずかしいし、無理に分類するべきではないのだとおもう。たしざんできない量は、intensiveな量をふくむが、それだけではない。
数学ではふつう「+」は、たしざんという演算をあらわす記号だ。ものをあわせる操作を「+」と書くのは、それとはちがう意味だ。Extensiveな量ならば、疑問におもわずにそう書いてしまいがちだが、そのほかの量に拡張するべきではないのだ。
なお、いくつかのプログラム言語、たとえば Python では、文字列についても「+」という演算子をつかうことができ、それは文字列をつなぐことをさしている。これは、数値のたしざんとまぎれる心配がないことを条件として、許容できるとおもう。
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温度はどんなときにたしざんできるだろうか?
温度という量は、1次元の数直線であらわすことができる。温度差は、この数直線上の2点間の (正負の符号つきの) 距離に対応する。この数直線上の位置をしめしたいことがある。ここで臨時に「温度位置」とよぶ。温度位置は、温度の原点をきめて、原点との温度差であらわすのがふつうである。しかし、概念として、温度差と温度位置はちがう。
たしざん、ひきざんの結果は、つぎのようになる。
- 温度位置 + 温度位置 は無意味。
- 温度位置 + 温度差 は温度位置。
- 温度差 + 温度差 は温度差。
- 温度位置 - 温度位置 は温度差。
- 温度位置 - 温度差 は温度位置。
- 温度差 - 温度差 は温度差。
このような関係は、温度にかぎったことではない。長さの次元をもつ量であっても、地球上の鉛直方向の長さ (高さ、深さ) を考えれば、それぞれの場所での平均海面 (ジオイド面) の位置をゼロとして、そこからの差が、位置としての高さだ。しかし、2つの「位置としての高さ」の差のことを高さということもある。 これについても、上の「温度位置」と「温度差」についてのべたことがなりたつ。
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温度については、大学で気象学をおしえていると、℃ (セルシウス度) と K (ケルビン) の両方が必要になり、両者の関係も知る必要がある。高校の化学でもそうだろう。
この両者は、温度差の単位としては同じだが、原点がちがうので、温度位置の単位としてはちがう。
K の原点は物理的 (熱力学的) に意味がある。℃ の原点は、温度という物理量にとっては、便宜上のものにすぎない。
K は単位だが、℃は単位でなく「温度目盛り」である、という人もいる。しかし、K をまだならっていない小・中学生や高校で物理も化学もとらない人にむけては、「測定した量に単位をつけなさい。温度の単位は℃」というのが順当だろう。
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量の分類について、Stevens (1946) の「尺度水準」というかんがえがある。
- S. S. Stevens, 1946: On the theory of scales of measurement. Science, 103: 677 -- 680.
Stevensの分類によれば、長さ、質量、時間は比例尺度だ。体積、密度も比例尺度だ。熱力学的温度も比例尺度だが、℃であらわされるような温度は間隔尺度だ。上にのべた、たしざんできるかどうかのちがいは、Stevens の分類とはきれいに対応しない。比例尺度と間隔尺度の区別は、おもにかけざん、わりざんに関するものだ。ここではそれに深入りしないことにする。
しかし、表やグラフに数値の単位を入れるときどうするか、という問題にはふれておきたい。凡例に、「長さ [m]」でなく、「長さ / m」と書くべきだという主張がある。表やグラフに表示される数値は無次元であるべきだから (グラフでは紙面・画面上の長さで表現されているとしても、ここでは表示対象となる量に注目している)、物理量をそれと同じ量の次元をもつ単位でわって無次元にするのが正しいのだ。
わたしはその趣旨に賛同するのだが、気象学に関するグラフをつくったり、つくりかたを指導したりするたちばで、熱力学的温度を「温度 / K」であらわすのはよいとしても、℃であらわされる温度の観測値をどう書いたらよいか、こまっている。すじをとおすとすれば、「(温度 - 0℃) / K」であり、これだけならばまだよいが、何の温度であるかの説明がくわわってかっこの中の文字数が多くなると、図表の凡例としては読みにくくなってしまう。「...の温度 [℃]」のような表現に逃げたくなる。(「セルシウス温度目盛りによる...の温度」の略記表現がほしいのだ。)
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ところで、「積算温度」というものがつかわれることがある。積算温度の典型的なものに、degree day とよばれるものがある。「温度×時間」という量の次元をもつかのようにあつかわれる。これは物理量の次元としては変だ。
積算する温度の原点は 0℃のことが多いが、ちがうこともある。冷暖房のための degree day ならば、冷暖房が目標とする温度からの差を積算することもある。吉良竜夫の「あたたかさの指数」は一種の積算温度で、時間の単位は「月」、原点は5℃である。
物理量としては、温度をたしざんするのは変だ。もうすこし考えると、温度位置どうしはたしざんできないが、温度差のたしざんならば可能ではある。しかし、それは結果がまたひとつの温度差になるばあいであって、積算温度をそのようにみなすのは無理がある。
積算温度はたしかに実用にやくだっていることがある。合理的解釈としては、温度 (たとえば0℃からの差、5℃からの差、冷暖房目標温度からの差) が、単位時間あたり供給されるエネルギーの代理変数になっていて、積算温度は、期間のあいだに供給されるエネルギーの総量の代理変数になっている、ということなのだろう。