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Anthropocene (人類世、人新世) (9) 否決されてひと安心

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたか、かならずしも しめしません。】

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2023年 3月 6日、日経新聞でつぎのような報道があった。(リンクさきで記事が読める状態はながつづきしないとおもうが、ひとまずURLをしめしておく。)

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地質年代区分をきめているのは、IUGS (International Union of Geological Sciences, 国際地質科学連合) という国際学会だ。そのなかで、「Anthropocene」 (日本語訳は「人新世」) という時代区分をきめるかどうかが議論されてきた。そのための組織はつぎの 4段階がある。

いまのところ [2024-03-07 日本時間 15時]、4つのレベルのいずれの組織からも、それぞれのウェブサイトのトップページからみられるかぎりでは、日経が報じた決定に対応するような記事は出ていない。

(IUGS のページには Episodes という雑誌の最新号が 2024年3月に出たというニュースがあって、リンクさきの雑誌記事のうちには Anthropocene についてのものがあるが、投稿された日付からみて、2023年中の AWG の決定内容を説明したものにちがいない。)

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ひとまず、日経の記事がただしいと仮定してのべておく。2023年中に、AWG で、Anthropocene を設定するという案をまとめて SQS に提出していた。今回 (記事では会議自体の日付はわからず、日経の記者が知ったのが2024年3月6日となっているが) SQS でこれが審議され、否決された。ただし、決定のしかたについて疑問がだされており、きめなおしになる可能性がのこっているらしい。これが本ぎまりになれば、10年間は同じ議論をむしかえせないそうだ。

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まだくわしいことはわからないが、この「否決」を、「地質学者たちは、人間活動から地球環境への影響が重要でないと評価した」とうけとるべきではない。重要な影響はあるのだが、それによって時代をわけることがうまくできない、ということなのだと思う。

- 2Z [2024-03-23 追記] -
2024年 3月 21日に、上の 2節でのべた「1」のレベルの IUGS の statement がでた。わたしはまだ内容をくわしくみていないが、SQS での「否決」を IUGS のレベルでもみとめるものらしい。IUGSのホームページの News のところから statement の PDF ファイルに直接リンクされているので、ここにもそのリンクをしめしておく。(内容を読んで論評するばあいは別の記事にする予定。)

NEWS
The Anthropocene: IUGS-ICS Statement
Read the statement: short version https://www.iugs.org/_files/ugd/f1fc07_23c6f9e723bc47b9b5fdcd300f806f25.pdf
Read the statement: extended version https://www.iugs.org/_files/ugd/f1fc07_40d1a7ed58de458c9f8f24de5e739663.pdf
(Posted 21.03.2024) (new)

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わたしは、このブログで、8回、この話題をあつかってきた。そのうちでも (6) と (7) では、「人新世」ということばがもし地質年代区分名になると、人文学・社会科学の人たちの意味づけとくいちがってしまうことを心配してきた。

そのたちばからみると、否決されたのはありがたい。これで、人文学者・社会科学者にむかって「地球科学者としては、あなたの「人新世」という地球科学用語のつかいかたは、まちがっているといわなければなりません」と、いわなくてすむ。

「人新世」ということばは、地質年代区分の約束から解放されて、自由になった。つかう人は、それぞれ自分の感覚でつかってもさしつかえない。おそらく「人間活動が自然環境を変えていることがあきらかな時代」ぐらいの意味でつかう人がおおいだろう。それでよいとおもう。

ただし、「それは地球科学の学術用語ではありません」という注意をのべつづける必要はある。