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「千葉県立中央博物館みらい計画(案)」に関する意見

2023年 3月 7日しめきりで、千葉県が、県立博物館の将来計画についての意見 (パブリックコメント) 募集をしていることを知った。わたしは県民ではないが、千葉県立博物館は自然誌をふくんでいることが貴重だと思っているので、つぎのような意見を送った。

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自然誌の研究が縮小されることを予想して憂える発言をネット上で見かけてあわてましたが、計画案を見るかぎり自然誌の研究は今後も重点のひとつとされると思われます。したがって計画案に反対するものではありませんが、自然誌に関する期待を述べます。ここでいう自然誌は、生物、生態系、環境、地学をふくみ、その歴史と現状をふくみます。

『千葉県史』には自然誌編12冊が含まれています。都道府県でこれだけの地方自然誌をまとめたところはおそらくほかにないでしょう。博物館だけの事業ではありませんが、県立博物館の自然誌研究が充実していたからできたものです。他県と横ならびでよいと考えるのではなく、他県よりもしっかりした自然誌をつくる活動を続けていただきたいです。表現形式は紙の本にかぎられませんが、個別の展示企画にとどまらず、収蔵品や研究成果とその背景にわたる総合的な知識を提供しつづけていただきたいです。

地質年代区分として「チバニアン」が決まり、専門家にかぎられるかもしれませんが世界に知られるようになりました。これは千葉県市原市に約77万年まえの地磁気逆転を明確に示す地層があることが認められたものですが、その結果「チバニアン」は約77万年まえから約13万年まえまでの時代をさすことになりました。幸い、千葉県にはこの時代にわたる地層があり、その化石から生物相や環境の変遷も研究されています。64万年間におよぶ「チバニアン」の時代を知ろうとする世界の人びと (もちろん県内の人びともふくむ) に、千葉県の地層をつかって解説することは、千葉県の博物館に期待される機能だと思います。

自然誌と人間社会の歴史 (文化史をふくむ) とは、概念体系も専門技能もちがうので、むやみに融合するべきではありませんが、両方がかかわる課題については積極的に協力できる体制にしておくべきだと思います。

自然と人間社会の両方にかかわる資料の一例として、博物館の件ではありませんが、「千葉県史編さん資料」のうちに1997年に出版された『千葉県古気候資料調査報告書』という本があります。これは千葉県史の自然誌編のうちの『千葉県の気候・気象』を編集する過程で、編集委員のひとりの高橋正清さんが、江戸時代に銚子で書かれた『玄蕃日記』から天気の情報を抜き書きしたものでした。『千葉県の気候・気象』の内容が現代の気候を主とするものになったので、この資料はその中では活用されなかったようです。しかし、いま、気候変動への適応が重要な課題となる中で、気候は人間社会にどのような影響を与え人間社会はそれにどのように応答してきたかについて考えるうえで、これは有意義な資料です。

大利根分館の廃止は残念ですが、人員にかぎりがあることを考えると本館への集約はもっともと思います。そこにあった自然誌関係の資料は本館の自然誌の部門でひきついでいただきたいと思います。「千葉県の農業」は本館であつかう主題のひとつとして続けていただきたいと思います。「利根川の自然と歴史」も、洪水災害や河川利用は今後の気候変動への適応との関連でも重要な主題ですから、本館で扱うとともに、必ずしも県内にこだわらずにこの主題に重点を置いている施設に引き継ぐことを考えていただきたいと思います。