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持続可能性を考えた産業社会の見なおし (2) 鉄とセメント

現代の建造物には鉄筋コンクリートを使ったものが多い。世界のうちでも日本はとくに建物が地震と火事に耐えることを建築基準にしてきたので多いのだと思うのだが、密度の高い市街地の住宅や、公共の建物で新築されるものも、また鉄道・道路の高架などの社会基盤構造物も、ほとんどが鉄筋コンクリートか、土台をコンクリートでかためてその上に鉄やその他の金属で組み立てた構造物だと思う。しかし、数十年前の建物の老朽化がすでに問題になっている。塩分などに注意すれば比較的ながもちするらしいが、それでも百年の持続はむずかしそうだ。そして、解体されればコンクリートは埋め立てるしかない廃物になってしまい、鉄筋の鉄が回収再利用されることは少ないだろう。

鉄はふつう、酸化鉄を主成分とする鉄鉱石を、石炭を精製したコークスを還元剤およびエネルギー資源として、還元することによって作られる。これは世界の化石燃料利用の無視できない割合をしめる。世界の代表ではないが、たとえば日本では消費される石炭の、量で4割、値段で半分が製鉄に使われているそうだ。使用済みの鉄のリサイクルは、化学エネルギーだけ考えれば鉄鉱石からの還元よりも有利なはずだが、鉄製品の多くがさまざまな合金になっていることや、コンクリートをはじめとする他の物質とかたく結びついていることが多いので、新たに鉄鉱石から作る鉄との競争に負けがちだ。

セメント製造も地球温暖化の原因である二酸化炭素排出に関して問題になる。燃料消費もさることながら、セメント生成自体が二酸化炭素を出す反応なのだ。(自然界で大気中の二酸化炭素がゆっくりと吸収されるしくみである、カルシウムを含むケイ酸塩岩石が風化して炭酸カルシウムに至る過程の、逆反応にあたる。)

社会全体として、化石燃料消費や二酸化炭素排出を減らすとともに、廃物が一方的にたまるのではなく資源として循環するようにするにはどうしたらよいだろうか。

鉄については、製品を作る際に、リサイクルをしやすいように設計する必要があるだろう。合金は、すでにプラスチックスについてされているように、製品自体に分類コードを入れるとともに、自動判別もできるようにするべきだろう。鉄筋コンクリートは、鉄とコンクリートが離れにくいところに特徴があるのだが、今後は、野外の条件では離れにくいが、なんらかの処理をすれば離れやすいような物質の組み合わせを開発するべきだろう(どちらかというとセメント代替物質に関する課題になるが)。

コンクリートについては、必要なのは特定の物質ではなく耐震性を含む強度のある材料なので、これまで使われてきたポルトランドセメントという物質にこだわることなく、建材としての能力を果たすとともにリサイクルに適した物質をさがすべきだと思う。

ただし、セメントは現在、産業廃棄物のリサイクル(というよりもカスケード利用)にとって重要な生産物になっている。これは今後も必要なのかもしれない。もちろん、セメントを使った構造物が解体された際にセメント中に含まれた物質が環境中に広がることも考えて、セメントの有害物質濃度を管理することが必要だ。

たぶん、鉄とコンクリートを使うことを前提としたこれらの対策だけでは不足で、鉄とコンクリートの需要を減らすことも必要になるのではないかと思う。そこで、建物を使う今の世代の地震や火事に対する安全性の面からは最適でないとしても、建築物として、木造や石造のものをもっと認めていく必要があるのではないだろうか? もちろん無制限に認めるのではなく、安全性と持続可能性のバランスをとるように新しい基準を決めていくべきだと思う。たしか1年ほど前テレビで見たのだが、学校の校舎を木造3階建てにした場合、火事が起きたら避難できるかという実験をやっていた。木造なりに耐火性を高めるくふうや、避難しやすい設計も考えられているのだろうと思う。こういった技術再検討作業が、もっと必要になるのではないだろうか。