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科学的情報を伝える際のむずかしさ

環境問題に関する科学的知識を、社会的意思決定につなぐために、多くの人々に理解してもらう必要がある。ところが、そこに、なかなか説明がむずかしいことがある。(どうむずかしいかを説明することさえ簡単ではない。ひとまず自分用の覚え書きとして書き出しておく。)

  • 現実の因果関係では、ある結果に対して複数の原因が同時に働いていることは明らかなのだ。しかし、そのうちで特に原因として重要と考えられるものを選んで議論する。(さらにそのうちで、対策という観点で重要なものが選ばれる。) この選択は気まぐれではなく根拠があるはずだが、それをはっきり認識すること、そして伝えることは簡単でない。
  • 確率的因果関係としてとらえられていることがらが多い。Xが起こっても起こらなくても、Yは起こるかもしれないし起こらないかもしれない。しかし、多数回のYについて、Xと合わせて統計をとってみれば、Xが起こった状況のほうがYが起こる確率が高くなっているという意味で、関係が認められ、因果関係があると推測されることがある。ところが、個別のYについて、その原因がXであるかないかを答えることは原理的にできない。「X=地球温暖化、Y=大雨」という問題も、「X=低線量の放射線、Y=がん」という問題も同じ構造だと思う。
  • 確率的因果関係で将来起こりうる複数の事態があるとき、将来起こりうることのリスクの見積もりは一般に人によって一致しないが、仮に2種類のリスクの評価が「起きた場合の被害の大きさ × 起きる確率」という形で同じ値になるとしても、その内わけが違えば、各人がどちらを重視するかが違う。対策に至る前に、リスク情報を伝達する段階で、どちらかのリスクについて事前警戒的(precautionary)に考えた判断を入れて要約することがあり、それが伝えられる情報内容に影響を与え、情報を受けた人の意思決定に影響を与える。