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比嘉照夫氏の EM (有用微生物群) がハワイの環境改善活動でつかわれたことへの学術的批判

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

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比嘉照夫氏のいう「有用微生物群」 [注] (effective microorganisms を略して「EM」、そのうちわけは細菌や酵母などなので「EM菌」ともいわれる) が、実際よりも有用なものとして宣伝されることの問題点は、このブログで何度ものべてきた。

  • [注] この用語についてもいいたいことがあるが、今回はみおくる。別の記事にするかもしれない。

そのうちに、EM をふくむ泥だんごを、水質改善になるというふれこみで、水域になげこむ活動がある。それが日本だけでなくハワイでおこなわれ、NHKが 2024年11月の番組のなかで好意的にとりあげた件は、[(2024-12-01) NHKの番組にあらわれた比嘉照夫氏の「EM」(有用微生物群、いわゆる「EM菌」) (1) 水質改善にならない泥だんご投入 ] の記事でのべた。

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そこで話題になっていた、ハワイのホノルルのワイキキ地区と他の地区の境になっている Ala Wai 運河に EMだんご (「Genki ball」とよばれている) を投入する活動について、科学者 (ホノルルにある Hawaii Pacific University (HPU) という大学の研究者) からの批判的検討がされている、という記事が、2025年9月にでた。

わたしはこのことをこなみひでお (@konamih) さんの9月20日夜のツイートで知ったのだが、こなみさんが「研究成果として論文になったのはまれ」という言いかたをしていたので、わたしは今回 論文が出たのだと思ってしまった (こなみさんの文の趣旨はそうではなかったのかもしれない)。しかし、Honolulu Civil Beat の記事の「failed to appear in any meaningful way」ということばからのリンクさきは、つぎの学会発表ポスターだった。

どのような学会であったのかは確認できていないが、専門外の自然科学者としてみたかぎりでは、自然科学の研究発表としてしっかりしたものに見える。Hamakua Marsh は オアフ島の Kailua 地区にある湿地である。(Hamakua という地名はハワイ島にもありそちらのほうが有名なようだが、そこではない。) ポスターの筆頭著者は大学院生とおもわれるが、記事で発言が紹介されている Vizza さんと Nigro さんは HPUの教員である。このポスター発表の題名や著者名などで Google Scholar 検索してみたが、同じ主題で論文として出版されたものはみあたらない。これからなのかもしれない。

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Hoolulu Civil Beat の記事で発言が引用されている HPU教員の Nigro さんは微生物生態学者である。研究論文を検索してみると、(Hamakua Marshではなく) Ala Wai 運河の病原性ビブリオ菌についての研究論文がみつかった。

  • Emma S. Nuss, Brian Powell, Conor Jerolmon, Olivia D. Nigro, Andrian P. Gajigan, Shaun Giancaterino, Grieg F. Steward, 2025: Simulating Vibrio vulnificus in the Ala Wai Canal using a coupled microbial-hydrodynamic numerical model. Estuarine, Coastal and Shelf Science, 313: 109113. https://doi.org/10.1016/j.ecss.2024.109113

これはシミュレーションだが、そのまえに観測事実の論文があるだろうとおもって検索したら、つぎのものがみつかった。題名にはでてこないが、対象となった場所は Ala Wai 運河である。

  • Olivia D Nigro, La’Toya I James-Davis, Eric Heinen De Carlo, Yuan-Hui Li, Grieg F Steward, 2022: Variable freshwater influences on the abundance of vibrio vulnificus in a tropical urban estuary. Applied and Environmental Microbiology, 022 Mar 22;88(6):e0188421. https://doi.org/10.1128/AEM.01884-21

Ala Wai 運河の微生物、とくにその健康との関係のことならばまずたずねるべき有識者といえるだろう。

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Vizza さんは生態学者で窒素循環を専門としている。論文業績は、陸上、とくに草原の生態系についてものが多いようだが、湿地や池についての研究もあり、内陸水域や沿岸水域の窒素固定についての全球規模のデータ整備の共著者にもなっている。

  • Robinson W. Fulweiler et al. (Carmella Vizza をふくむ), 2025: Global importance of nitrogen fixation across inland and coastal waters. Science, 288: 1205-1209. https://doi.org/10.1126/science.adt1511

ハワイの沿岸水域の富栄養化についての研究があるかどうかは確認していないが、その問題についても背景知識がある人だと思う。