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NHKの番組にあらわれた比嘉照夫氏の「EM」(有用微生物群、いわゆる「EM菌」) (1) 水質改善にならない泥だんご投入

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

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NHKのテレビ番組で好意的にとりあげられた 環境保全 あるいは 農業 のとりくみが、いわゆる「EM菌」を推進する活動にかかわるものである、ということが 2件つづいた。番組で直接に「EM菌」に言及してはいなかったものの、NHKによる報道には結果として「EM菌」推進に加担する効果があっただろう。 関連分野の科学者からみて、「EM菌」には、環境保全の効果はなく、農業生産への効果もとくに高くはない。しかし、「EM菌」の発案者はそれが万能であるかのようなことを、しろうとには科学的にきこえる用語をつかってひろめている。公共放送はそれに加担すべきではない。もしそれをつたえるのならば、それへの批判をもしっかりつたえてほしいとおもう。

「EM菌」ということばは、本来は単に「EM」で、英語の effective micro-organisms、日本語では「有用微生物群」の略である。単純にかんがえて、醸造などに有用な微生物群があることはたしかであり、土壌や水域の微生物が有機物を分解することも人間生活にとって有用なので、普通名詞としての「有用微生物群」を活用すべきだということならば、ほとんどみんな賛成することだろう。ところが、琉球大学 農学部 名誉教授 である 比嘉 照夫 氏が、特定のレシピにしたがって培養した微生物群を「EM」とし、それを売ることが「EM研究機構」という名まえの会社を中心とする企業群の事業になった。「EM」は、だいたい細菌と酵母 (真菌類) なので、「EM菌」と通称されることがおおい。

比嘉氏やEM研究機構は、「EM」のうちわけを、酵母、乳酸菌、光合成細菌などを含む と のべていた。無所属の片瀬 久美子さんによる、EM製品のひとつ「EM1」にふくまれていた細菌と真菌 (酵母など) のメタゲノム解析の報告がある。それによれば、おもな微生物は、乳酸菌、酢酸菌、酵母、糸状菌であり、光合成細菌はふくまれておらず、乳酸菌のうちわけはEMの業者が例示していたのとちがっていた。

「EM」の肥料資材としての効果については、1990年代後半に、日本土壌肥料学会や日本土壌微生物学会でさかんに議論された。一例として、日本土壌微生物学会の学術雑誌にでた論文をあげる。

  • 後藤 逸男, 1999: 微生物資材の土壌肥料学的評価 (農業における微生物利用と土壌微生物研究,シンポジウム)。『土と微生物』 53 (2): 91-101. https://doi.org/10.18946/jssm.53.2_91

これによれば、「EM」によって米ヌカ、油カス、魚カスおよび糖蜜を発酵させた「EMボカシ」の肥料効果はとぼしかった。効果があったように見えた事例は、前年までの施肥の結果、土壌がリン過剰になっていて、それが「EM」によってとけだしたことによると判断された。

「EM」が肥料資材にとどまっているならば問題はちいさいのだが、比嘉氏は「EM」が万能の環境浄化能力をもつという言説をひろめている。それを信奉する集団が形成され、自治体や環境保護の住民運動に「EM」を採用させようとすることがおおい。自治体、教育機関、報道機関などは、たとえ有用微生物の活用という総論はもっともであっても、(微生物や環境の専門家からみて) 無益であることがわかっている「EM」を採用するべきではない。

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このブログ記事では、ひとつめの番組をとりあげる。NHK総合テレビのニュース解説番組「クローズアップ現代」の2024年11月20日 (水) の回である。題目は「「この景色をいつまでも...」 “持続可能な観光” 実現のカギは?」だった。ウェブページは 2024-12-01 現在 NHKウェブサイトのこの2か所にあり、どちらも簡単な番組紹介だけだが「放送内容のダイジェスト版を近日公開予定です。」とある。

番組の内容の主題はたしかに「持続可能な観光」だった。「EM菌」にかかわる事業の紹介は 30分番組のうち最後の1分にあらわれた。結論をのべたあとのおまけのようなものだったが、視聴者には結論の代表例にみえたかもしれない。

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観光客がおおぜいくれば観光産業はさかえるが、自然環境が破壊されたり、住民の生活にさしつかえることがある。そうすると観光の資源がそこなわれ、観光業も持続可能でなくなる。観光を持続可能にするには、観光業者と、住民と、自然環境保全をかんがえる人との要求の調整が必要だ。それが、まだ日はあさいが成功をおさめている例として、ハワイのオアフ島の (ホノルルより東の) ハナウマ湾の自然公園がとりあげられていた。ハワイ州が調整して、自然公園への入場者の人数制限をふくむルールをつくった。それで観光客数はへったが、満足度があがり、客ひとりあたりの観光支出がふえたので、観光による地元の収入はふえたとのことだ。専門家として、田中 俊徳 [としのり] さんが解説していた。

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番組としての結論までのべられたあと、最後の映像として、同じハワイのオアフ島だが、ホノルルのワイキキ地区と他地区のさかいにあるアラワイ運河の水質浄化と称して、観光客や住民がいっせいに泥だんごをなげこむ活動が紹介された。番組の趣旨としては、観光客が環境を意識した地元の活動に参加する観光の例だったにちがいない。「EM」ということばはでてこなかった。しかし、見る人が見ればあきらかに、「EM」を推進する集団が、大阪の道頓堀や東京の日本橋川で、地元の住民グループや自治体をうごかしてやってきたのとおなじ活動だ。

この件についてウェブ検索してすぐみつかった複数のページは (インターネットのドメイン名はさまざまだったが) いずれも旅行会社の HIS 社がやっているサイトだった。HIS社が「エコツアー」の一環にこの行事をくみこんでいるらしい。泥だんごは「元気玉」、Genki ball とよばれている。それが「EM」をまぜた泥であることをかくさずのべている。

さらにみていくと、ハワイの日系人むけの日本語新聞社のサイトのページもみつかった。

「同プロジェクトの技術顧問の名護ヒロミチ氏」の見解を肯定的につたえている。

NHKの番組よりあとだが、比嘉氏によるウェブ記事も出た。

比嘉氏らしい自画自賛である。それにくわえて、ハワイのこの事業が、「JATA(日本旅行業協会) SDGs アワード 優秀賞」を獲得した、という話もでてくる。(NHKの番組制作者がこの事業に気づいたのはこの賞からだったのだろうか?) また、なんと、ハワイ大学が、数学の授業の一環にとりいれたという話もある。リンクさきをみると、実際にハワイ大学の広報で好意的にあつかわれている。

日本では2000年代以来、「EM」のうたがわしさがだいぶ知られてきたが、ハワイではまだあまり知られておらず、ふれこみどおりの効果があるかのようにうけとられやすいのだろう。EM推進者はハワイでのよい評判を逆輸入して日本での印象をよくしようとしているのだろう。

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道頓堀や日本橋川やアラワイ運河など、都市域の水路の水質汚染は、おおくのばあい有機物の過剰だから、それを分解する微生物によって汚染をへらそうというのはもっともだ。しかしそれには、その水質条件の底泥で有機物を分解しながら生存できる (そしてその生産物が有害でない) 微生物をえらばなければならない。堆肥づくりの経験によって得られた「EM」の微生物群集がそれに適しているとは期待できない。むしろ、菌自体も有機物だし、菌をそだてるための培養基として入れられた有機物や栄養塩もあるから、「EM」を投入することは汚染を (いくらか) ふやすことになるだろう。泥を投入することも、たとえその水域にありふれた泥だったとしても、水の濁りという意味での汚濁をふやすことになるだろう。

沖縄県名護市で泥だんご投入がおこなわれた前後の水質を、環境化学者がしらべた報告を見つけた。

川の水中の全有機炭素 (TOC) は投入後にへっておらず、どちらかというとふえていた。投入にはすくなくともすぐに目にみえて水質を改善する効果はなかったといえるだろう。投入有無の対照実験ではないので、それ以上つよいことはいいがたい。化学分析の能力があっても、1人の学者ができることにはかぎりがある。しかし、もし、(専門家でなくても) 数人の人たちが協力してサンプリングを継続し、平常の濃度の変動はばや、雨などによる変化の特徴をおさえておけば、それに相対的に人為的なイベントの効果を評価することができるかもしれないとおもう。

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水質保全を観光の題材としてもとりあげるのはよいことだが、泥だんご投入はよくない、ということが常識になってほしいとおもう。