【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたか、かならずしも しめしません。】
【わたしは農政や農業統計を専門としていませんが、農業統計の利用者として、それを理解する努力をしています。そのたちばから、農業統計のありかたについてコメントしています。社会への意見としての現時点のまとめは1節に、研究者の作業経過報告としての現時点でのまとめは4節にあります。】
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2025年6月、「作況指数」がニュースにでてきた。小泉 進次郎 さんが農林水産大臣になってすぐにうちだした方針のなかに「作況指数を発表するのをやめる」というのがあった。その報道をみた人のおおくが「農政のしろうとの小泉さんが、農政の基本である作物統計をぶちこわす、ひどい農業政策をはじめた」という論調の発言をしていた。しかし、わたしがみたところでは、作況指数の発表をやめるのは、小泉さんが大臣になるまえからの農水省の方針である。
わたしは、農業は専門ではないが、気象・気候 (「天候」という表現がよいとおもっているが、この記事では「気象」で代表させることがある) の農業への影響についての研究にとりかかっており、過去の研究者が農業側の指数として作況指数をつかっていたので、その理屈をおいかけているところだった。そして、作況指数は定義にあいまいなところがあってつかいにくい指標だと感じていた。だから、作況指数の発表をやめることには賛成したい。しかし、(そんなことはないとおもうが) もし、収穫量や作付面積をふくむ作物統計調査をやめようとしているのならば、それには大反対だ。
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作物調査統計の情報は、農水省のつぎのウェブページから公表されている。
- (農水省) 統計情報 > 分野別分類/作付面積・生産量、家畜の頭数など > 作物統計 https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/index.html
その下につぎのページがある。
- (農水省) 統計情報 > 分野別分類/作付面積・生産量、家畜の頭数など > 作物統計 > 作況調査(水陸稲、麦類、大豆、そば、かんしょ、飼料作物、工芸農作物)https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/sakkyou_kome/index.html
そのぺージの「第1報 統計表一覧」の「水陸稲」の「令和6年産」の「公表資料」として「令和6年産水陸稲の収穫量」がある。(なぜか、「公表資料」「統計表」「調査の概要」はリンクになっていないが、「お知らせ」のうちの「令和7年2月28日に確報を掲載しました。」が e-stat のこの項目へのリンクになっている。)
しかし、その公表資料のまえに、つぎのような文書へのリンクがある。
- 水稲収穫量調査の課題と見直しの方向について (PDF:999KB) https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/sakkyou_kome/attach/pdf/index-97.pdf
また、その「参考」としてつぎの2つの文書もあるが、「現在の水稲収穫量調査の制度を基にした資料であり、「水稲収穫量調査の課題と見直しの方向について」の内容が反映されたものではありません。」という注がついている。
- 水稲収穫量調査のしくみ (PDF:2,406KB) https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/sakkyou_kome/attach/pdf/index-94.pdf
- 水稲収穫量調査と生産現場の実感について (PDF:503KB) https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/sakkyou_kome/attach/pdf/index-95.pdf
「水稲収穫量調査の課題と見直しの方向について」には、作況指数について、「令和7年産から公表の廃止(今後、統計委員会での審議・総務大臣の承認が必要)」と書かれている。残念ながら、この文書には文書作成日付が書かれておらず、いつの時点のものかわからないが、大臣が小泉さんにかわってからいそいでつくられたものとは考えがたい。大臣の交代のまえから、農水省の担当部署の官僚にとって既定方針になっていたにちがいない。
公表をやめる理由としては、「収穫量全体が平年と比べ多いか少ないかを示したものであるとの誤解を与えている面」があることと、「生産現場の実感と合わない」ことがあげられている。(「生産現場の実感」の件については、わたしはじゅうぶん理解できたとはいえないが、理解できた範囲のことは、あとの 5節で論じる。)
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「収量」あるいは「単収」とは、作付面積あたりの収穫量のことである。面積の単位に「反 [たん]」がつかわれていたころは「反収」と書かれることがおおかった。上記の農水省の文書での用語は「収量」だが、それはわたしにとって「収穫量」とまぎらわしいので、ここでは (こじつけかもしれないが「単位面積あたり収穫量」と解釈できる)「単収」をつかうことにする。
「作況指数」は、単収の、単収の「平年値」を100とした百分率である。
ただし、気象では過去のどの年をみるときにも同じ平年値からの偏差をみるのだが、各年の作況指数をもとめるためにつかう「平年値」は、その前年までの情報をつかって計算された、各年ごとにことなる値だ。年々の単収がもつ情報のうち、技術の発達による変化傾向を、平年値のほうにとりこみたいからだ。
平年値の計算方法は、上記の「水稲収穫量調査のしくみ」にも書かれているが、ウェブ検索で、もうすこしくわしく書かれた、プレゼンテーションファイル (おそらくPowerPoint) からつくられたとおもわれる PDF ファイルをみつけた。ただし、このファイルがリンクされた親ページをみつけておらず、どこに発表されたものかわからない。URL中のディレクトリ名からみて 2017 (平成29) 年度中に発表されたものとおもわれる。
- (農水省) 水稲10a当たり平年収量の算定方法と課題 https://www.maff.go.jp/j/study/suito_sakugara/h29_2/attach/pdf/index-4.pdf
この資料の4ページめをみると、平年値のもとめかたは、基本的には過去の単収の統計にもとづいている。しかし、3ページをみると、その方法はたびたび変更されている。6, 9, 10ぺージをみると、1997年以後の平年値を得るには気象データ (アメダス) も利用されている。そのつかいかたは、平年値が気象の年々変動になるべくよらないようにすることをめざしているようだ。
他方、農水省の作物統計調査の、陸稲のばあいは、平年値にあたるものとして (「平年値」ではなく「平均値」という表現をしていて、単純な平均値とまぎらわしいのだが)、前年までの7年のうち最大・最小をのぞいた5年の平均値をとっている。一般的な統計処理の用語でいう trimmed mean である。「水稲10a当たり平年収量の算定方法と課題」の3ページめによれば、水稲についても、1904-1920年と 1948-1951年については、これとおなじ trimmed mean がつかわれていた。
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気象と農業生産との関連を知りたい研究者としては、公定の作況指数は、定義が長期にわたって一定していないし、気象の情報をいくらかとりこんでしまっているので、農業生産側の指標として、まずいものだ。単収にもどって、平年値の定義を一定にして、計算しなおしたほうがよいとおもっている。
長期累年の単収や、そのもとになった収穫量と作付面積のデータは、e-stat のつぎのページにある。2節にあげた農水省の「作況調査」のページの「長期累年」の「作物統計(普通作物・飼料作物・工芸農作物)〔e-Stat〕」からのリンクさきでもある。
- (e-stat) 作物統計調査 (提供分類1: 作況調査(水陸稲、麦類、豆類、かんしょ、飼料作物、工芸農作物) ; 提供分類2: 長期累年) https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00500215&tstat=000001013427&cycle=0&tclass1=000001032288&tclass2=000001034728&tclass3val=0
ただし、ここには全国のデータは 1883 年から最近 (現在 2024年) までの毎年の値があるが、都道府県別のデータは 1958年以後の値だけである。わたしがこれまでに見たかぎりでは、都道府県別の1957年以前の値は、オンラインではどこにもない。しかし、紙の形でつぎの本にあった。
- 加用 信文 監修, 農林統計研究会 編, 1983: 『都道府県 農業基礎統計』。(財団法人) 農林統計協会, 824 pp. ISBN 4-541-00408-9. [読書メモ]
時代によって統計のとりかたがかわることがある。とくに、収穫量の単位が、1956年までは体積の単位である「石 [こく]」、1957年からは質量の単位である t 「トン」( = 1000 kg) となっている。加用氏による序論によれば、1石 が 何kg にあたるかの情報は散発的にはあるが継続的にはなく、1 石 = 150 kg (1 俵 = 4 斗 = 60 kg) という概算によるしかないとのことだ。e-stat の全国の値は全部の年について収穫量は t 、単収は 10 a あたり kg になっている。どのように換算されたかを記述した文書はどこかにあるとおもうがわたしはまだ見つけていない。なお、面積の単位も、町歩 (その 1/10 が 反) から ヘクタール (ha、100 a) へのきりかえがあるが、これは誤差の範囲で同一視してもよさそうだ。
ひとまず青森県について、trimmed mean を平年値として作況指数のようなものを計算しなおしている。その結果についての議論は別の機会にしたい。
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農政の話題にもどる。農水省が「生産現場の実感と合わない」と認識している件は、平年値のきめかたではなく、収穫量の測定方法についての問題であるらしい。とくに「ふるい目」が問題になっている。米粒は割れることがあり、どのくらい割れたものまで米にふくめて流通させるかという問題がある。農水省の作物統計調査では、1.7 mm のふるいで残ったものを計量してきた。しかし、ちかごろ農家がつかっている ふるいは、1.8, 1.85, 1.9 mm のものがおおい。そこで、「水稲収穫量調査の課題と見直しの方向について」では、1.7 mm のほかに、農家が利用するふるい目 (の都道府県別代表値) による収穫量の計測もおこなって収量を計算する方針だ。
農家が利用するふるい目による作況指数はすでに計算されている。現在 e-stat に収録されている「作物統計調査」のうち長期累年の全国の水稲のデータファイル (2025-06-27 ダウンロード) の「注 7」をみると、この表に収録された2015年以後の作況指数は「農家等が使用しているふるい目幅ベースで算出した数値である」とのことだ。もはや「作況指数は農家の実感とあわない」といわれることの原因は「ふるい目」の問題ではないようだ (では何なのかはわからないが)。 [この段落、2025-06-29 改訂]
ただし、作況指数を今後もだしつづけることにすると、一定の質の統計の継続性の面から 1.7 mm のふるいでの計測をつづけることを要請されるし、政策の根拠としては「農家等が使用しているふるい目」での計測をすることも要請される。職員数がふえないのに業務がふえることは、役所としてはさけたいだろう。 [この段落、2025-06-29 追加]
「水稲収穫量調査の課題と見直しの方向について」によれば、生産者は30年ほどの期間の趨勢よりも直近年との比較を重視するから、作況を説明するには、前年との対比によるのがよく、作況指数は不要、というのが農水省の担当者の判断らしい。
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統計指標についての一般論として、データの質が一貫したものであってほしいという要請と、政策や経営に直接に有用であってほしいという要請は、衝突することがあるのかもしれない。(政策や経営の目的にも、客観的な調査結果をもとめる際には、データの一貫性が必要になるのだけれど。)