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エネルギー政策の選択について思うこと

国のエネルギー・環境会議が「革新的エネルギー・環境戦略(平成24年9月14日エネルギー・環境会議決定)」を出した。このページ http://www.npu.go.jp/policy/policy09/archive01.html からPDF文書へのリンクがある。ひとまず目次を紹介する。

はじめに
1.原発に依存しない社会の一日も早い実現
(1)原発に依存しない社会の実現に向けた3つの原則
(2)原発に依存しない社会の実現に向けた5つの政策
(3)原発に依存しない社会への道筋の検証
2.グリーンエネルギー革命の実現
(1)節電・省エネルギー
(2)再生可能エネルギー
3.エネルギー安定供給の確保のために
(1)火力発電の高度利用
(2)コジェネなど熱の高度利用
(3)次世代エネルギー関連技術
(4)安定的かつ安価な化石燃料等の確保及び供給
4.電力システム改革の断行
(1)電力市場における競争促進
(2)送配電部門の中立化 ・広域化
5.地球温暖化対策の着実な実施
着手にあたって 〜 政府と国民が一体となった検証実行〜

わたしはこの文書を少し読みかけたところであり、この内容については別の機会に議論したいと思う。【とりあえずの感想は、「グリーンエネルギー革命」という用語の選択にはとても不満だが、全体としてはもっともなことが多いようだ、しかし全体として賛同できるかどうかは注意深く読まないとわからない、というものだ。】

しかし、それを待たずに少し発言しておきたくなった。政府の方針が正式に発表される少し前からの、マスメディアやネットメディアで話題になりかたに、不満を感じたからだ。

今回出された政府の方針の第1の要点は「2030年に原子力依存をゼロにする」と要約することができる。これは、すぐに原子力を全廃するのとも違うし、原子力への依存度を長期的に維持しようとする政策(原子力政策への依存を高めようとしていた福島原子力事故以前の政策を含む)とも違う。

わたしに届く議論のうち、エネルギー専門家によるものではその区別はされている。しかし、マスメディアやネットで、一般市民の世論の代表を自負するような態度の発言のうちには、次の2通りのものが多い、という印象をもった。(印象はわたしの主観であり客観的に計測したものではないが。)

  1. 原子力発電をすぐゼロにするのではなく20年近くかけてゼロにする構想であり、今ある原子力発電所は当面維持されるのだから、要するに原子力依存体制の継続にすぎない。
  2. 無責任な「反原発」論に屈した政治的対応であり、化石燃料の輸入増加かエネルギー供給減のいずれか(へたをすると両方)によって経済を減退させ日本人の生活を貧しくする政策である。あるいは、停電による国民の生命の危険を高める政策である。

このいずれも、政策選択の幅を二つだけに分類した二分論であり、それぞれ、政府を自分の敵の側にまとめたものだ。これでは、自分は体制批判の正義の側にいるという気分は高まるかもしれないが、実際に世の中を変えられる効果は小さいのではないだろうか。同じ二分論でも、自分の側を広くとって、政府の考えは自分と違うが近づいてきた、できればもう少し近づいてほしい、と述べるのが積極的態度ではないだろうか?

なお、これもわたしの目にふれたものからの印象にすぎないが、第1の立場をとる人には、「核エネルギーを使うことは人間としてまちがっている」という価値判断に至っている人が多いようだ。2011年3月の原子力事故以前にはあまり多く聞かれなかったのだが、前からそう考えていて、言ってもむだだと思っていた人もいるだろう。【わたしから見ると、本人がそう思うのはけっこうなのだが、社会の共通認識にすることはむずかしいと思う。わたしの考えでは、核エネルギーを使うことは不自然だが、化石燃料を地下から掘り出して使うことも不自然だ。環境破壊についても、原子力によるものと化石燃料によるものの一方が他方よりも圧倒的に重大だとは言い切れず、両方を含めて害をなるべく減らすように考えるべきだと思う。】

第2の立場をとる人には、「各産業の生産活動が継続すること、あるいは経済成長が続くことが、国民の幸福のための必要条件であり、政策の最優先課題だ」という価値判断があるようだ。【わたしから見ると、ときには一部の産業をつぶすことを含めて産業のしくみを変えたり経済成長をあきらめたりするような政策転換も必要になりうると思う。しかし、その過程で、貧乏に苦しむ人を出さないためには、所得分配のしくみも変えることが必要になる。エネルギー政策にとどまらず、産業政策、労働政策、福祉政策まで変えなければならない時代なのだと思う。】

なお、これまでにTwitterに書いた論点を2つそのまま再録しておく。

長期的政策をたてるのに、今ない技術が開発されるにちがいないと仮定するのは楽観的すぎる。しかし、今ある技術の限界の中で考えるのは悲観的すぎる。現実みのある新技術を含めたシナリオを正面に、新技術を見こまないシナリオを控えに立てて、ものごとの進展を見ながら軌道修正していくべきだろう。(2012-08-28 02:40:51)

社会全体に影響する技術を採用する政策判断を、倫理あるいは正義の問題として考える必要があるという指摘はもっともだ。しかし、科学・工学をおろそかにして倫理だけで判断してよいわけでもない。とくに、影響のおよぶ時間空間範囲や確率が違った複数のリスクがからむ場合はその構造の理解が必要だ。 (2012-09-01 13:44:40)