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持続可能性を考えた産業社会の見なおし (4) 食べもの

現代日本人はたくさんの魚を食べている。しかしこの大量消費を長期的に続けることは不可能だろう。仮に今の世界の漁獲量が続けられるとしても、世界のいろいろな国の需要がふえるので、日本の分けまえは減るだろう。今年の夏にはウナギがちかぢか貴重品になるだろうという見通しが話題になったが、それに限らず、多くの種類の魚が、全く食べられないわけではないがたまにしか食べられないごちそうになるだろう。

日本人が今のように魚をたくさん食べるようになったのは1950年代からだそうだ(勝川, 2012)。冷凍・冷蔵が発達する前は、鮮魚は漁村の近くでしか食べられなかった。多くの地域では(淡水魚は別かもしれないが、海の魚は)干物や塩漬けやつくだ煮などで食べていたがその量はそう多くなかったわけだ。冷凍・冷蔵で衛生的に魚が食べられるようになったのはありがたいことだ。それがうまく普及しなかったソ連では魚を大量にとってむだにしていたそうだ(Josephson, 2002)。しかし、明らかにエネルギー資源を必要とする。現代社会のエネルギー消費量の大きな部分ではないけれども、この観点からも、鮮魚の消費はほどほどにするべきだということになるだろう。

肉などの畜産物も、飼料までさかのぼって考えると、植物起源の食べ物よりもだいぶ多くの水資源やエネルギー資源を消費しており、環境に負荷をかけている。とくに牛肉の生産には多くの水が使われている(沖, 2012)。水の得やすさは世界のうちの場所によって大きく違い、水の消費が多いことがすぐ環境負荷が高いことにはならない。しかし牛の飼料の生産地はアメリカ合衆国西部の大平原などで人間社会の時間スケールでは再生不可能な地下水資源を消費しているところが多い。食べ物の量あたりの水の消費では牛よりも豚や鶏、とくに鶏のほうが少なくてすむそうだ。しかし、たとえば鳥インフルエンザの問題がある。現代的な高密度飼育では大量の鶏が同時に感染するおそれがあるし、伝統的な飼育では鶏と人との間の接触の機会が多い。豚もインフルエンザの宿主となりウィルスの変異の場になるといわれる。もちろん水の消費とインフルエンザだけが問題ではなく、畜産の規模拡大にはさまざまなさしつかえがある。魚だけでなく肉もやはりごちそうになっていくだろう。

ヒトは雑食だが、とくに肉を含む食事ができるようになって頭脳が発達したという説もある。農業が発達してからは、多くの人の食事は穀物またはいも類に偏ったものになったが、それは栄養的には望ましくないことだったのかもしれない。化石燃料が使えるようになってから多くの人が肉や魚を多く食べるようになって、アメリカなどではそちらへの栄養の偏りによる弊害も生じているが、現代の日本程度に肉や魚を食べるのは個々人の肉体にとっては望ましいことなのかもしれない。しかし、そのような食事を世界の人々に普及させようとすると、資源がたりないだろうと思う。日本だけがぜいたくをするわけにもいかないだろう。

人はたんぱく質アミノ酸に分解して消化して自分のたんぱく質を作るのだから、動物性たんぱく質でなくても、それと同じアミノ酸組成があれば栄養価値は同じはずだ。人がふつう肉や魚に頼っているビタミン類があるかもしれないが、それも動物にしかないものではないだろう。今すぐに適当な植物起源の食材がないかもしれないが、将来には植物起源の食材で栄養を確保できるように開発を進めたほうがよいと思う。

いま日本で手にはいる植物起源のたんぱく源というと、小麦の「ふ」(麩)のほかはほとんど大豆製品で、変わりばえが乏しいように思う。大豆製品だけでももう少しくふうができると思う(たとえばテンペは納豆よりも普及できるのではないか)。また、資源を大豆ばかりに偏らないほうがよいので、もっと多様な植物性たんぱく食材ができてほしいと思う。

とくに外食のメニューが、肉や魚を含むものか、たんぱく質の乏しいものかに限られがちなのが残念だ。むしろ肉食する人の多い欧米のほうが、菜食主義者(vegetarian)のための場を用意することが多くなってきたようだ。日本も、信念としての菜食主義者や特定の動物の肉を避けたい人も生きられる世の中になってほしいと思う。しかしむしろ主力は、多少は動物起源の食材が混ざってよいから、環境や将来の世代に迷惑をかけないで、しかも健康に生きたい人への食事の提供を考えてほしいと思う。

文献

  • Paul R. JOSEPHSON, 2002: Industrialized Nature -- Brute force technology and the transformation of the natural world. Washington DC: Island Press (Shearwater Books), 311 pp. ISBN 1-55963-777-3. [読書ノート]
  • 勝川 俊雄, 2012: 漁業という日本の問題NTT出版, 246 pp. ISBN 978-4-7571-6055-2.
  • 沖 大幹, 2012: 水危機 ほんとうの話 (新潮選書)。新潮社, 331+iii pp. ISBN 978-4-10-603711-5. [読書メモ]