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2025年11月の東南アジア (タイ、インドネシア、スリランカなど) の大雨について、とりあえず

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

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2025年 11月 後半、タイ、インドネシア、スリランカなどで、大雨による災害がおきた。わたしは、(Twitterをきっかけとして) 放送局や新聞社などのいくつかの報道記事をみて認識した。

20-00年代のわたしならば、東南アジアの気候・水循環とその変動を主題とする研究者として、どんなことがおきているかつかむ努力をしただろうし、おそらくブログのような場でそれを説明する努力もしただろうとおもう。

しかし、いまのわたしは、大部分が日本国内の気象に関心のある学生の卒業研究指導などをしており、気象庁が提供する日本国内のデータをすぐみられるように準備をしているが、外国の情報を探索する時間があまりとれない。たまたま目にふれた報道記事でよくわからないことがあっても、なかなか確認できないでいる。

なお、東南アジアと南アジアを区別するならば、スリランカは南アジアにふくまれる。わたしもふつうはそうしているのだが、この記事では便宜上スリランカを東南アジアにふくめて論じることがあるかもしれない。

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気象庁から 2025年 12月 12日 につぎの報道発表があった。

(被害は別として) 気象現象としてなにがおきたかの概略はこれでよいとおもうので、わたしが質問をうけたらこの資料を紹介することにしたい。

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ただし、わたしからみると、基本的な季節性と、季節のうちでの変動とを、実際にはいりまじっているのだが、概念としてわけて論じたほうがよいとおもう。

熱帯のおおくの地域で、雨はモンスーン (季節風) と関係がある。モンスーンには「夏のモンスーン」と「冬のモンスーン」がある。ここで「夏」「冬」は、かならずしも気温の高い・低い時期ではなく、太陽直下点が自分の側の半球にある時期 (太陽高度が高い時期) を夏、その反対の季節を冬といっている。つぎのブログ記事に、東南アジアの北半球側について「夏のモンスーン」に対応する5-8月と「冬のモンスーン」に対応する11-2月の降水量分布図をしめした。

  • [モンスーン、monsoon、季節風 (2)] (2017-10-31)
    • [注] その図の色のつけかたは、いまからみると、たくさんの色相をつかいすぎで、うまくなかった。降水量の大小をしめすには、色相を1つか2つにしぼってその濃淡を数量に対応させるべきなのだ。(なぜこうなったかというと、この図をつくったのは、降水量の観測値をもとに格子点データをつくる作業をしていたときであり、そのときは、それぞれの格子点の数値がどの階級にふくまれるかを確認することのほうが、数量の空間分布をつかむことよりもだいじだったからだ。) これから、適切な色のつけかたで図をつくりなおしたいとおもっているが、まず適切なデータを手もとにもつところからはじめなければならず、今週のうちにはできそうもない。

東南アジア北半球側の陸地の大部分では、雨季は夏の南西のモンスーンにともなって生じる。インドシナ半島の大部分 (ミャンマーの大部分、タイ中部、ラオス、カンボジア、ベトナム南部など) がそうだ。フィリピンの大部分もそうだ。この図では値をしめしていないが、インドの西海岸や中部もそうで、それが「熱帯モンスーン気候」の代表としてよくとりあげられる。

ところが、冬の北東のモンスーンでふる雨のほうが多い地域もある。フィリピンの東海岸、ベトナム中部の東海岸、タイ南部・マレーシア半島部にわたるマレー半島の東海岸、マレーシアのボルネオ島の北海岸などだ。冬の季節風は、大陸を出る段階では温度が低く水蒸気量が少ないのだが、海をわたるあいだに水蒸気を受け取り、陸の山にぶつかって上昇して降水をもたらすのだ。日本の日本海側で冬の季節風で降水がおきる (ここでは風向が北西であり、温度が低いので降水が雪になることがおおいが) のと同類の現象だ。

今回、大雨による災害があった (ことが報道された) ところは、いずれも、おおまかにみると、冬のモンスーンで雨が多い地域にあたるようだ。ただし、わたしがそれを正確にとらえているかどうかはわからない。日本で例をあげると関東平野や十勝平野のように、冬のうちで降水がおきるのが、季節風が強いときではなく、低気圧をはじめとする擾乱 (じょうらん、disturbance, [2023-09-17 の記事] 参照) が発達・通過するときである地域もふくまれているかもしれない。季節風で降水がおきる地域でも、おそらく大雨には、季節風の強まりと擾乱とがくみあわさっているだろう。

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ここから、これまでに見つけた報道と気象庁の報道発表資料をみて気づいたことを書きとめておく。わたしがたまたま気づいたことであって、今回の大雨について展望したものではないことに注意いただきたい。

引用した報道が BBC ばかりになったが、これは Google で日本語のキーワードで検索し、みつかった5つほどのウェブ記事のうちで報道記事としてしっかりしているとおもわれるものをえらんだ結果である。Google の検索システムが、わたしが BBC をえらんだことからの学習によって、BBC をしめすことがふえているかもしれない。

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タイの事例については、つぎの報道記事が気にかかった。

これは、つぎの英語版記事をもとにしている。

タイ南部の Songkhla (ソンクラー) 県の Hat Yai (ハート ヤイ または ハジャイ) で、この報道によれば、1日に 335 mm の降水があった。【気象庁の報道発表資料の別紙によれば、ハジャイでの日降水量 (世界時 0時をくぎりとする) の最大は 370 mm であり、Narathiwat (ナラーティワート) という地点で 624 mm であった。別項目でタイ・マレーシアに降水量が多かった日は11月22日だと言っているので、たぶんその日の降水量なのだろう。】

ここまでは事実の報道としてはよさそうだが、BBCの記事で「過去300年で最も多い降雨量」と言っていることの根拠がよくわからない。雨量計による観測は、朝鮮 (韓国) とヨーロッパの一部の地域では 300年まえからあったが、それ以外のところには過去300年の降水量の記録はないはずだ。20世紀のはじめから100年あまり観測がつづいている地点はあるだろうから、それに確率分布をあてはめて「300年に1回」という確率の大雨だと判断したということなのだろうか。湖や川の水位の観測値ならば300年前からつづいていることもありうるし、それにもとづいて「300年で最大の洪水」ということはありうるとおもうが、水位と降水量との関係が安定しているとはかぎらないので、降水量によみかえるのはあやういとおもう。

Hat Yai はマレー半島がいちばん細くなっているところの東側の海岸から 20 km ぐらいのところ (西側の海岸からでも 50 km ぐらいだが)、Narathiwat はマレーシアに接した県で県庁所在地は東海岸に面した町だ。いずれも東側の海上からのモンスーンがふきつけて雨になるところだと思うが、大雨になったことにはなんらかの擾乱もからんでいるのだろう。

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インドネシアは赤道にまたがっているので、モンスーンとの関係は単純でない。

たとえば、ジャワ島の北海岸は、南半球にあるが、北半球の冬のモンスーンからくる北よりの風 (南半球の夏のモンスーンの一部分ということもできるが) が強いときに大雨になりやすい。わたしは2007年2月はじめにジャカルタで経験した。(ただし、雨季の大雨のときでも、一日じゅう雨がふっているわけではないことを知った。海岸のジャカルタでは明け方に雨がおおく、50 km ほど内陸のボゴールでは夕方に雨がおおかった。それは積雲の発達と海陸風循環とがからんでいるからだ。)

つぎの報道記事によれば、スマトラ島のアチェ州、北スマトラ州、西スマトラ州で被害がでている。

これはつぎの英語版記事をもとにしている。

アチェ州と北スマトラ州は、北半球側でもあり、北の海上からの風がふきつけるところでもあるから、モンスーンの強まりも関係しているとおもうが、記事によれば「サイクロン (熱帯低気圧) セニャール (Cyclone Senyar)」 (気象庁の報道発表資料別紙の表記では「センヤール」, 11月25-27日) が豪雨をもたらしたとしている。この地域の熱帯低気圧に関する情報は、日本の気象庁ではなくインドの気象庁が担当している。わたしはまだその情報を見ておらず、熱帯低気圧の階級わけで Tropical Cyclone なのか Tropical Storm なのかもまだ知らない。

西スマトラ州は赤道直下であり、北半球の冬のモンスーンがふきつけるところからも、サイクロン セニャールの経路からもはなれている。ここの大雨については別の要因をかんがえる必要がありそうだ。

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スリランカには、夏のモンスーンと冬のモンスーンの両方で雨がふり、地域によってどちらが重要かがちがう。

今回の大雨がおきた地域がどちらなのか、わたしには予備知識がとぼしい。スリランカ気象庁 (Department of Meteorology) のウェブサイト https://meteo.gov.lk/ には天気予報の情報はあるが気候値がみあたらない。 WMO (世界気象機関) の平年値 (1991-2020) のウェブサイト https://community.wmo.int/site/knowledge-hub/programmes-and-initiatives/climate-services/wmo-climatological-normals で 1地点ずつ12か月の値のグラフをみることはできたが便利でない。WMO からうけおっているアメリカ合衆国 NOAA NCEI の WMO Climate Normals のページ https://www.ncei.noaa.gov/products/wmo-climate-normals に数値データがあった。これから作図してみようとおもっている。

報道記事としてはつぎのものを見た。

これはつぎの英語版記事をもとにしている。

記事によれば、死者のおおいのは Kandy (キャンディ) と Badulla (バドゥッラ) の両県だという。いずれも、セイロン島の中央部だ。Kandy の降水量気候値は残念ながら上記のNCEI のサイトにないのだが、Wikipedia [ [ キャンディ (スリランカ) ] ] にはあった (ただし出典をしめすリンクさきを見たら数値がちがっており、どの期間の平年値なのかわからない)。 降水量が最大になるのは11月であり、第2の極大が4月にある。雨はモンスーン中間期にも夏のモンスーン期にもふるが、冬のモンスーン期がおもなのだ。高い山脈よりは東側だからそうなるのももっともだ。【残念ながら、この Wikipedia 記事は、本文の気候についての記述と降水量の表から読み取れる特徴とがあっていないところがあり、あまりたよりにならない。】

記事にはまた、「サイクロン(熱帯低気圧)ディトワ (Cyclone Ditwah) が28日に東海岸をかすめた後、離れていった。」ともある。このサイクロンの経路は気象庁の報道発表資料の別紙にもある。11月26日から30日に南から北に進んだ。そのうち27日から29日の位置がスリランカの東海岸ぞいだった。これについてもわたしはまだ Tropical Cyclone 級なのか Tropical Strom 級なのかたしかめていない。

なお、気象庁報道発表資料別紙で、降水量が多かった地点としてとりあげられている バブニヤ (Vavuniya) は 北部の、東西両海岸からの中央あたり、トリンコマリー (Trincomalee) は北部の東海岸にある。

- (ひとまず ここまで) -