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気象庁からの警報・注意報などの制度変更 (2026年5月予定) について、とりあえず

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

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2025年12月16日、日本の気象庁が、警報や注意報などの防災気象情報のだしかたを、2026年5月下旬ごろに変更する予定であることが発表された。

気象庁のウェブサイトには、この件についてのページがつくられている。

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わたしは警報などの制度について専門的においかけておらず、今回の変更についてもただしく理解しているかどうか自信がない。しかし、大学教員として学生に気象学をおしえるなかで、警報などの制度にもふれることはあるし、ちかごろはとくに大雨警報と降水量の関係について関心のある学生の疑問に応じていくらかしらべたこともある。世間一般よりはこの件について知識がある人なのだ。このレベルの人が知りえたことを全世界から見えるウェブサイトに書くことは有益なのか、有害なのか、なやむところがある。実際以上に権威のある情報として読まれないことをねがいながら、参考情報として提示することにする。

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今回の変更の要点は、Twitter に「気象庁防災情報」(@JMA_bousai) のアカウントがだしていた次の図表にしめされたことだと思う。

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この表の縦軸は「警戒レベル」となっている。

かつて、警戒情報は「注意報」と「警報」の2段階だった。しかし、同じ用語の情報が出されるうちでも予想される災害の強さはさまざまである。とくに重大な災害が予想されるばあいには「特別警報」を出すことや、「注意報」にいたるまえの段階で「早期注意情報」を出すことなどの制度の追加がおこなわれてきたが、災害の種類によって不ぞろいで、行政の現場でもおぼえきれなくなった。そこで、おおまかに避難行動の必要性の度合いを想定して、5つの「警戒レベル」を設定した。警戒レベルごとに色をきめて表示することにした。警戒情報の名まえは、レベル2が「注意報」、レベル3が「警報」、レベル5が「特別警報」はほぼいままでどおりだが、レベル4を (これまで聞きなれていない連語だが) 「危険警報」とよぶことにした。

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表の横軸をみると、大雨・洪水関係の災害の分類が、(海岸の高潮を別として) 「大雨」「土砂災害」「氾濫」の 3つに再編成された。

これまでは、警報でいえば「大雨警報」と「洪水警報」があった。また「指定河川洪水予報」というものがある。つぎのページによれば、「気象庁は国土交通省または都道府県の機関と共同して、あらかじめ指定した河川について、区間を決めて水位または流量を示した洪水の予報を行っています。」とのことだ。

現在の警報・注意報の発表基準は、つぎのウェブページにある。

ただし、地域 (都道府県、さらに市町村のレベル) ごとに設定された基準が書かれたPDFファイルへのリンクがならんでいて、全体像がわかりにくい。わたしは、たまたま関心のあったいくつかの地域の基準を記述したファイルを見て、おそらく全国どこでも (地域によってありえない災害の形があるほかは) 考えかたは同様であり数値がちがうだけだろうと推測した。

ちかごろ気象庁では、警報などをだす根拠として、「土壌雨量指数」 「表面雨量指数」 「流域雨量指数」を計算している。その説明は、気象庁の上記ページからリンクされたページにあるほか、牧原 (2020) の本に紹介されている。

  • 牧原 康隆, 2020: 『気象防災の知識と実践』 (気象学ライブラリー 1)。朝倉書店, 164 pp. ISBN 978-4-254-16941-6. [読書メモ]

気象庁では、レーダーと雨量計を組み合わせて緯度経度の格子をうめつくす降水量を推定した「解析雨量」というデータセットをつくっている。また、降水の短時間予測をおこなっている。この降水量の観測値と予測値を入力とし、陸面水文の数値モデルによって、その水がどれだけどこに行くか予測する。ただし、そのモデルのパラメーター設定は、水文学の研究でつかわれるような精密なものではなく、おおまか (たとえば、土壌雨量指数のばあい、全国一律) である。

現行の大雨警報は、「土砂災害」と「浸水害」を別々に考え、どちらかで基準レベルに達したときに出される。

土砂災害は山くずれ・地すべりなどである。そのリスクを評価するために「土壌雨量指数」をつかう。これは雨が土壌にたまって少しずつ流出することを想定したモデルで水がたまっている量で、これが大きくなると土砂災害がおこりやすいと考えている。

浸水害は、ひとまず河川の氾濫は想定せず、その近くにふった雨が陸上にたまって水面が上がり農地や住宅などが水没する事態をさす。そのリスクを評価するために「表面雨量指数」をつかう。これは地表水を想定したモデルで水がたまっている量である。

現行の洪水警報は、洪水のリスクを評価するのに「流域雨量指数」をつかう。これは河道網のそれぞれの部分を流れる水の流量と水位が時間とともに変化していくようなモデルでの流量に関連する量である。(流量の平方根をとっているとのことだが、おそらく平方根に物理的意味はなく、確率分布をいくらか対称に近づける意味があるのだと思う。)

このたびの変更では、指定河川洪水予報からでてくる警報が「氾濫警報」としてくみこまれ、現行の大雨警報のうち土壌雨量指数にもとづくものが「土砂災害警報」として独立する。大雨警報は、これまでの大雨警報の浸水害に関するもの (表面雨量指数にもとづくもの) と、これまでの洪水警報のうち流域雨量指数にもとづくものをふくむことになるようだ。

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4節の話題にもどって、専門家としてでなくひとりの市民 (ただし「専門家の役わり」という問題を考えることがたびたびある者) としての意見をのべる。

5段階の警戒レベルは、避難行動の必要性とむすびつけられた発想でできている。しかし、住民に避難指示を出すのは市町村 (東京都の特別区をふくむ) であって、気象庁ではない。

リスク管理とリスク評価を峻別するたちばでは、気象庁のしごとはリスク評価であってリスク管理ではない。さらに、気象庁はそれぞれの家の立地条件まで見ていないから、各人の避難の必要性に直結するリスク評価はできない。行政とそれへの科学的助言を区別するたちばでは、気象庁は科学的助言者である。

このような理屈によって、気象庁が警報などを出すにあたって避難の必要性があるかのように述べるのは越権行為であり、違法である、と言う言説もある。わたしが見かけた発言者は学者だったが、自治体のうちにも、避難指示は自治体が責任をもってやるから、気象庁はそれとまぎらわしいことを言わないでほしい、と思っているところもあるだろう。

しかし他方、市町村には、気象庁がだす警報などを理解し自治体の事情とくみあわせて的確な指示をだすのにじゅうぶんな能力をもつ人がいないところも多いだろう。むしろ、気象庁が避難の必要性を明示してほしい、市町村の現場はそれにしたがって指示をだすほうが自分かってにやるよりもよい、と考えているところもあるだろうと思う。

これはむずかしい問題だが、わたしは、両方の状況を許容すべきであり、自分がたまたま知っている自治体の事情にもとづいて他の自治体と気象庁との関係を批判するのはうまくないのだと思う。