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(歴史研究のための) 作況指数にかわるものの試作、青森県について

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたか、かならずしも しめしません。】

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これも [(2025-06-28) 作況指数をやめてもよいが、収穫量と作付面積の公的統計をつづけることは必要] のつづきだが、研究者としてやっていることのおぼえがきである。

天候の年々変動が人間社会におよぼす影響の指標として、こめ (水稲) の作況指数というものがよくつかわれてきた。

作付面積あたりの収穫量を「単収」ということがある[注]。かつては面積の単位として「反」(たん) がつかわれたので「反収」と書かれた。単収にはいろいろな要因がはたらくが、そのなかに、天候がイネの生育にとってよくないときは単収が低くなりがちだという因果関係があるだろう。【収穫からさき人間社会への影響をかんがえる際には、作付面積あたりよりも収穫総量に注目したほうがよいかもしれないが。】

  • [注 (2025-12-28)] 「単位面積あたりの収穫量」という意味をつたえるそれよりも短い表現はなく、短く表現したいのならば約束として用語をきめるしかないだろう。「収量」を作付面積あたりの収穫量をさしてつかうこともあるが、わたしはこれは面積あたりでない「収穫量」とまぎらわしいと感じている。「反」の字を「たん」と読むことはさけたい。「単収」は (いわれてみれば、だが) 「何かの単位あたりの収穫量」と解釈可能なので、定義を思い出しやすい用語だと (わたしは) 思う。

農業経営のたちばからは、単収の数値そのものよりも、今年の単収が近年の数年間にくらべてどのくらいのレベルにあるかを考えたいことがおおい。そこで、単収をその近年の代表値 (「平年値」とよばれることがある) でわって百分率にした「作況指数」がつかわれるようになった。天候と農業の関係を長期にわたって研究するたちばでも、作況指数をつかうと、単収が時代とともにおもに技術改良 (肥料をふくむ) のおかげで上がってきた変化傾向が平年値のがわにふくまれるので、年々変動を抽出するのにつごうがよかった。

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東北地方の冷夏による凶作を論じるのに、卜蔵 (2001) は、(先近代の事例の議論は別として、近代については) 青森県の水稲の作況指数をつかい、その値が低い年を凶作年としている。しかし凶作年でない年の作況指数を示していないし、作況指数の出典も平年値の計算方法も示していない。

近藤 (1985) は、(近代については) 東北6県の水稲の作況指数をつかって論じている。そして、作況指数の出典として田中 (1982) をあげている。田中 (1982) は、東北6県の (ときには県を分割した地方についても) 凶作・不作の年の作況指数をあげているが、すべての年についてではない。やはり、出典も平年値の計算方法も見あたらない。

わたしは、作況指数をつかうのがよいかもしれないが、それならばすべての年についての値がほしいと思った。

作況指数の数値は、[(2025-06-28) 作況指数をやめてもよいが、収穫量と作付面積の公的統計をつづけることは必要] に書いたように、e-stat で公開されているものがあるが、全国の値は1926年から (そのもとになった収穫量と作付面積の値は 1883年から) あるが、都道府県ごとの値は (作況指数、収穫量、作付面積とも) 1958年以後のものだけがある。

加用 (1983) の本に、作況指数そのものはないが、都道府県ごとの1883年から毎年の収穫量と作付面積がある。(単収も書かれているが、その1956年までの数値は有効数字2けたなので、そのさきの加工に耐えないかもしれない。収穫量と作付面積から計算したほうがよさそうだ。)

のこる問題は平年値の計算方法だが、いろいろ検索した結果、(2025-06-28の記事からもリンクした) つぎの農水省内で2017年度にあった会議の資料と思われるファイルから概略の情報が得られた。

そのファイルの「10a当たり平年収量の算定方式の変遷」の表によれば、算定方法はたびたび変わっている。(とくに最近の算定方法は複雑になり、算定担当部署の内部資料をもらわないかぎり再現困難である。) しかしそのうち、1904-1920年と 1948-1951年については (両者の記述のあいだに微妙なちがいがあるのだが) 7年のうち極端な値をのぞいた平均をつかっている。7年のうち5年を採用する trimmed mean と思われる。この方式は、陸稲のばあいの平年値とはいわないがそれにあたるものとも共通である。わたしとしては、これを一貫してつかって作況指数にあたるものを計算し、それによっても卜蔵や近藤の議論がなりたつことを確認することにしたほうがよさそうだ。

なお、国は2025年産の作況調査から、作況指数を発表するのをやめ、かわりに「作況単収指数」を発表することにした ([日本の国の作物統計、「作況指数」に かわって 2025年産からは「作況単収指数」が発表される (2025-12-26)]の記事参照)。この「作況単収指数」は、平年値のかわりに、5年のうち3年を採用する trimmed mean をつかったものである。これは年々の分母の変化が大きすぎて長期の変化の議論にはむかないと思う (長期の変化を論じることは作成者の視野にはいっていないだろうが)。

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加用 (1983) の本の全国と都道府県ごとの水稲の収穫量と作付面積のあるページをスキャンして画像ファイルにしたが、数値の読み取りは時間がかかる。

ひとまず、青森県についてだけやってみることにした。作業は表計算ソフトウェア LibreOffice Calc のワークシート上でおこなった。

  • 加用 (1983) の 38ページから、水稲の「作付面積」と「収穫量」 (および、使う予定はないが「反収」) の列の各年の値をワークシートに収録した。
  • 作付面積の単位は、1962年まで「町」、1963年から ha である。これはそのまま ha とみなしてしまうことにした。
  • 収穫量の単位は、1956年まで「石 (こく)」1957年から kg である。「石」は体積の単位、kg は質量の単位なので厳密には換算できないのだが、加用 (1983) の総論のページの議論にしたがって、1石が150 kg という概算で換算した。
  • 収穫量を作付面積でわって単収とする。単位は (わたしがつかいたい単位ではないが、従来のデータにあわせて)「kg / 10a」にした。
  • 他方、e-stat の作物統計 / 収穫量累年統計 / 水稲 / 青森 (f002c-001-003-000) の表 (2025年6月にダウンロードしたもの) から各年の「収穫期」の「10a当たり収量」 (および、参考として「作況指数」) の列をぬきだした。
  • 「単収」の列を、1883年から1957年までは加用 (1983) にもとづく計算値、1958年から2024年までは e-stat からの値によって構成した。
  • 「仮作況指数」の列をつくり、第9行 (8年めのデータのある行) につぎのような計算式を入れた。ただし「単収」の列が J列となっている。
    • =J9*100/TRIMMEAN(J2:J8, 2/7)
  • この式を J列の下の2024年のデータのある行までのセルにコピーした。計算式中の J につづく 9, 2, 8 は順にふえていく。
  • この「仮作況指数」を、e-stat からの1958年以後の作況指数、および卜蔵 (2001) が収録した凶作年の作況指数とくらべることにした。

なお、同様につぎの式によって「作況単収指数」も計算してみている (例は第7行つまり6年めのデータのばあい)。

  • =J7*100/TRIMMEAN(J2:J6, 2/5)

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くわしい検討はこれからだが、ひとまず LibreOffice Calc のグラフ機能による quick look 画像をしめしておく。

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図1. 青森県の水稲の単収の変遷
加用 (1983) から計算した単収 (1980年まで) と、e-stat の累年統計の単収 (1958年から) をあわせてみた。1960年ごろにすこしちがいがあるが、ほぼ一致している。単収は1970年代までは明確な上昇傾向がある。それはおもに技術や肥料などの資源投入によるものであり、天候との関連をみるうえではこの傾向をとりのぞいてみるのがよさそうだ。

- 図 2 -

図2. 青森県の水稲の作況指数にかわる指標
ここで計算した「仮作況指数」と、e-stat の累年統計の作況指数 (1958年から) をあわせてみた。両方のある期間についてみると、前後の年よりも値が大きい年で「仮作況指数」のほうが大きく出ることがあるが、凶作年についてはだいたいあっている。

- 図 3 -

図3. 青森県の水稲の作況指数にかわる指標, 卜蔵 (2001) がしめした作況指数との比較
さらに、卜蔵 (2001) がしめした作況指数とくらべてみた。(すべての年の値がそろっていないので、他の情報も線でつながないことにした。) 1955年以前の凶作年について、「仮作況指数」は卜蔵がしめした作況指数に近い値になっている。(1902年は低すぎるかもしれない。)

文献

  • 加用 信文 監修, 農林統計研究会 編, 1983: 『都道府県 農業基礎統計』。(財団法人) 農林統計協会, 824 pp. ISBN 4-541-00408-9. [読書メモ]
  • 近藤 純正, 1985: 最近150年間の東北地方における米収量 (作況指数) と夏の平均気温との関係。『天気』, 32: 23-29. http://www.metsoc.jp/tenki/ から検索して PDF取得可能。
  • 田中 稔, 1982: 『稲の冷害』。農山漁村文化協会, 266 pp. [読書メモ]
  • 卜蔵 建治 [ぼくら たけはる], 2001: 『ヤマセと冷害 -- 東北稲作のあゆみ』 (気象ブックス 010)。成山堂書店, 148+4 pp. ISBN 4-425-55091-9. [読書メモ]