【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたか、かならずしも しめしません。】
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英語の 「effective」という形容詞に対応する表現として、日本語では「有効」と書かれることがおおい。
わたしの授業で地球の気候をおおづかみにとらえるときに、「有効放射温度」という用語をもちだすが、これは英語の「effective radiation temperature」または「effective radiative temperature」の訳語のつもりである。【ただし、英語表現については、このように書き出してみると、これでよいのか、自信がなくなってきた。後者のように形容詞をかさねるのは不自然な感じがするし、前者ならばまず「radiation temperature」 (放射温度) がきちんと定義されているべきだがそうしていないのだ。】 これは、現実の地球が出す放射 (電磁波によるエネルギーの単位時間あたりの量) と同じだけの放射をだす黒体 (という理想的な物体) の温度をさしている。現実の地球と同じだけの放射という effect (効果) をもたらす物体の温度だから effective なのだ。それを日本語で「有効」というかは、あやしい。むしろ、あとでのべる電流のばあいにつかう「実効値」と概念が共通なので、「実効的」といったほうがよさそうだ。そうするとわたしの授業でつかう用語も「実効放射温度」にするべきだろうか? (まだ変更にふみきっていない。)
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比嘉 照夫 氏が「EM」というものをひろめている。これは「有用微生物群」にあたる英語の effective microorganisms」の略だとされている。
比嘉氏は「EM」にさまざまな効果があるとするが、そのうちに、たとえば放射能を消滅するなど、現代の自然科学の常識からみてありえないものをふくんでいる。わたしは、比嘉氏の言説を政策や教材の根拠として採用するべきではないとおもう。そのことはこのブログに何度も書いてきたが、それ以上の活動はなかなかできていない。
比嘉氏の活動を批判することに熱心な「呼吸発電」(@breathingpower) という Twitter アカウントの人がちかごろ、「effective microorganisms」ならば「有効 . . . 」とするべきであって「有用」はまちがいだ、という議論をしている。わたしは、呼吸発電氏による比嘉氏への批判の大部分に賛成なのだが、この用語の件については、日本語では「有用」のほうがよい用語であり、英語では「effective」とするのもまちがいではないとおもう。(実際に比嘉氏の会社が提供する商品がeffective あるいは有用であるかどうかは別の問題として。) なぜそうかんがえたかをのべておきたくなった。
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日本語の「有効な」という形容語 (学校文法用語でいう「形容動詞」) の基本的な意味は、「効果がある」 (A) と同じと言ってよいだろう。その否定は「無効な」つまり「効果がない」である。これは基本的には「ある か ない か」の2値分割だ。実際には、効果を定量的にとらえ、シグナルとノイズにわけて、ノイズレベルの効果しかないものは「無効」とみなすことがおおいだろうが。英語の effective も、この意味でつかわれることがあるとおもう。「無効な」にあたるのは ineffective である。
しかし、日本語の「有効な」は、むしろ「効果が大きい」「効果が強い」 (B) の意味につかわれることがおおいとおもう。なにかの課題に対して「有効な対策をもとめる」と言ったときはそのような意味だろう。ここで、ひとつの課題に対して有効な対策は複数あってよい。そのうちひとつにしぼりたいときは「いちばん有効な」のような限定表現を追加する。「効果が小さい」「効果が弱い」ものは「有効」ではないが、かならずしも「無効」でもない。英語の effective がこの意味につかわれることもある。
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理工系の学術用語として「effective ...」という形のものがでてくることがたびたびある。それに対する日本語が「有効 ...」であることもそうでないこともある。気象学のばあいについて、つぎのブログ記事で話題にした。
- [有効温度 (effective temperature)、相当温度 (equivalent ...)、仮温度 (virtual ...)、温位 (potential temperature)] (2020-06-02)
気象学では「effective temperature」「有効温度」は あいまいな表現で、文脈をきめないと意味が確定しない。ここでは「有効放射温度」にしぼって説明したい。すべての物体は熱放射 (電磁波) をだしている。物体がもし黒体ならば、温度がきまれば熱放射の量もきまる。現実の惑星は、さまざまな物質からなっており、温度も場所によってちがう。ここではひとまず、惑星が出す放射の (単位時間あたりのエネルギーの) 総量を「効果」とかんがえることにしよう。一様な温度をもつ黒体によっても同じ「効果」をあげることができる。その黒体の温度がその惑星の「有効放射温度」である。
この effective の意味は、定量的なもので、(読者が知っている効果の源と)「同じ効果をあげる」 (C) というものである。 3節にあげた2種類の意味とは、関連はあるが、ちがうものといえるだろう。
おくればせながら、高校生のころからいちおう知っていた、電気の交流の「実効値」が、effective value であることに気づいた。
電圧 V の直流電源と 抵抗 R だけからなる回路があれば、そこに流れる電流 I は V/R である。電力は V かける I、つまり V2/R である。
電圧 Va sin(ωt) の交流電源と抵抗 R だけからなる回路があると、電流は (Va/R) sin(ωt)、電力は (Va2/R) sin2(ωt) となる。これを電圧の変化の周期 (= 2π/ω) の整数倍の時間で平均すれば、sin2(ωt) の1周期平均は 1/2 だから、平均の電力は (1/2) (Va2/R) となる。これと同じ電力をもたらす直流の電圧は (1/sqrt(2)) Va である。ただしここで「sqrt(2)」としたのは 2の平方根である。これを電圧の実効値という。実用上つかわれている交流の電圧はこの実効値である。たとえば「100 V の交流」は、電圧の振幅 Va が 100 × sqrt (2) ボルト つまり 141 ボルトになるような交流なのだ。
日本語で、この「実効値」のことを「有効な値」とはいわない。「実効的な値」とはいう。(そこでわたしは「有効放射温度」という用語を「実効放射温度」にかえるべきか、まよっている。)
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「気候区分」についてしらべていたとき、矢澤 (1989) の本の目次で、「effective methodによる気候システム」という用語を見て、まごついた。
- 矢澤 大二 [たいじ], 1989: 『気候地域論考 -- その思潮と展開』。古今書院, 738 pp. ISBN 4-7722-1113-6. [読書メモ]
いまの記事の本題ではないが、わたしはここでの「気候システム」の意味がすぐにはわからなかった。大気・海洋・雪氷などがエネルギーや水をやりとりする物理的な系 (システム) としての「気候システム」の概念をすでに自分のものにしており、ここでの意味はあきらかにそれとはちがっていたからだ。矢澤先生は、地球物理学者たちが物理的な気候システムの概念をつくるよりもだいぶまえから、この本でいう「気候システム」についてかんがえてきたらしい。わたしなりの理解では、矢澤先生のいう「気候システム」は、(人が) 気候を分類するときの分類体系のことである。
そして、「effective method」ということばを見たときわたしは、ここでの (B) の意味だとおもって、ほかの方法よりも効果がすぐれた分類であるという議論をさがしたのだが、そういうものではなかった。
ここでいう「effective method」は、気候を分類するのに、気候自体の性質ではなく、気候がなにかほかのものにおよぼす効果によって分類することをさしている。たとえば、ケッペンの気候区分は、気候が植生 (陸上生態系) におよぼす効果によって分類したものだから、effective method なのだ。
ここでの effective は、「効果に関する」のような意味 (D) だろう。「effect」という名詞 に対応して「effect の」のような形容詞がほしいことがあり、effective がそのやくわりをするのだろう。(「effect の」には「effectual」のほうがあっているような気もするが、こちらも「効果がある」とか「効果が大きい」という意味にもなりうる。) この effective に対応する日本語は「有効」ではないし、たぶん「実効」でもない。
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「EM」の件にもどる。この微生物群はもともと、堆肥をつくるとき発酵をはじめさせるための「たね」 (starter) として有用だとされて商品になったのだった。批判的研究によれば、この商品はその効果についても他の資材にくらべて大きい (effective (B) ) とはいえないらしいが、その効果をもつ (effective (A)) とはいえるだろう。英語では、この「有用な」に対応する形容詞としては useful がよいとわたしはおもうが、(A) の 意味で effective をもってきてもまちがいではないとおもう。「EM」に関するかぎり、さきに「effective」があってその訳として「有用」がでてきたわけではないとおもう。したがって、「有効」とするべきだとは、わたしはおもわない。
「EM」の重大な問題点は、なんの目的に「有用」あるいは「effective」かを明確にしないまま、あらゆることに「有用」あるいは「effective」であるかのように宣伝されたことである。 (これは名称に対する批判ではない。名称は短くする必要があるから、そこに目的をあらわす語をいれなかったのは無理もないとおもう。)
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「effective」および「有効」ということばについての一般論にもどる。「effective」の意味のうち 4つの類をあげることができた。このうち「有効」は (A), (B) につかうことができ、(C) はありうるが疑問もあり、(D) にはつかえない。
- (A) 効果がある
- (B) 効果が大きい
- (C) (尺度となるものと) 同じ効果をもたらす
- (D) 効果に関連している