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地球温暖化と、いくらかの関係はあるが、区別して認識する必要があることがら

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

[前の記事]と同じく、「地球温暖化について質問にお答えします」という試みをしたときに考えたこと。

専門外の人と話していると、その人には、「地球温暖化」と、それと区別されるべきほかのものごととの区別がついていないと思われることがある。世界の森羅万象のうちから「地球温暖化」というものごとを切り出すのは、専門知識を背景とした判断であり、しろうとの人に区別ができないのはむしろ自然なことなのかもしれない。しかし、混同したままだと、因果関係について何がわかっているかの話も、対策の話も、うまくできないので、専門家による区別をしろうとにわかる形で提示して、それに合わせてほしいとお願いするしかなさそうだ。

そういうとき、「地球温暖化と X とは無関係だ」と言いきれるのならば話は簡単なのだが、実際には、いくらかのかかわり(「Y」としておこう)があることが多い。「無関係だ」と言うとうそになってしまう。しかし、Yが、地球温暖化にとっても、Xにとっても、欠かせない要素でないならば、「地球温暖化と X とは関係が薄く、別々のものごととして扱うのが適切だ」とは言えるだろう。X として、4つの例をあげてみよう。

(1) 地球温暖化とエルニーニョ現象

「気候変動」ということばを、前の記事で述べたように、すなおな意味でとらえ、しかも、「変動」と「変化」の区別をしないとすれば、地球温暖化も、エルニーニョ現象も、気候変動の部分だ。

ただし、両者は次のような点で区別できる。

  • 地球温暖化は時間規模50年から百年の一方的変化だと考えられている。エルニーニョ現象は(厳密な周期現象ではないが)周期数年(たとえば4年)の振動型の現象である。
  • 地球温暖化は気候システムが温室効果気体濃度増加という強制を受けて起こる現象である。エルニーニョ現象は強制がなくても起こる気候システムの内部変動である。
  • 地球温暖化に伴う地表温度の偏差は(例外はありうるが基本的に)どこでも同符号である。エルニーニョ現象に伴う地表温度の偏差は西太平洋と東太平洋で逆符号である。

しかし、次のような連関もある。

  • エルニーニョ現象は(温室効果気体による強制とは独立に)世界平均地上気温にいくらかの正の偏差をもたらす。(振動現象の逆位相であるラニーニャ状態では負偏差となる。)
  • 地球温暖化が進行すると、エルニーニョ現象の現われかたにもなんらかの変化があるだろう。(ただし、強くなるか弱くなるか、頻度がふえるか減るか、などの具体的予測はまだ定まっていない。)

(2) 地球温暖化と都市の温暖化(ヒートアイランド現象)

(1)と同様に、地球温暖化も、都市の温暖化も、気候変動の部分だ。さらに、どちらも、人間活動起源の強制を受けて起こっている現象だ。

ただし、両者は次のような点で区別できる。

  • 地球温暖化はグローバル(全世界規模)な現象だ。都市の温暖化はローカルな現象だ。
  • 地球温暖化をもたらす強制の主要部分は温室効果の強化である。これは都市でも働くけれども都市の周囲でも同様に働くので、都市で周囲よりも温度が高いという意味でのヒートアイランド現象の原因にはならない。都市の温暖化をもたらす強制のうちには人工廃熱がある。これはローカルには無視できないが、全世界で平均すると温室効果の強化よりも2桁くらい小さい。

しかし、次のような連関もある。

  • 都市の温暖化をもたらす強制としては、人工廃熱よりもむしろ、地表面状態の変化による地表面エネルギー収支の変化が重要と考えられている。地表面状態の要素としては、蒸発効率、地表面アルベド(太陽光反射率)、粗度などがある。人間活動による土地利用変化は都市に限らず広範囲に起こっており、それによる地表面エネルギー収支の変化は、温室効果強化よりはだいぶ小さいけれども、地球温暖化の文脈でも無視できるとは限らない。
  • 各人の体験する気候の変化は、グローバルな原因によるものとローカルな原因によるものをあわせたものである。

質問に答えながら、次のようなことに気づいた。気候のしろうとの人のうちに、地球温暖化が進んでいることを実感しているという人がいる (温暖化に関する質問の場をたずねてくる人には世の中一般よりもそう感じている人が多いだろうとも思うが)。ところが、具体的な変化の話になると、地球温暖化が日本ですでに現われているものにしては大きすぎると(わたしには)思われることがある。その原因をさぐる会話はしなかったので、かってな推測にすぎないが、都市の温暖化が加わったローカルな温度変化をほぼ正確にとらえているのかもしれない。地球温暖化の理解と実感をつなげるのはなかなかやっかいなことだ。

また、「温暖化の対策として木を植えることが大事だと思う」と言っていた人がいたが、話の続きを聞いてみると、地球温暖化の対策と都市の温暖化の対策の区別がついていなかった。非常にローカルな個人の規模では、日陰ができることも重要だが、都市の規模で重要なのは、木には水を吸い上げて蒸散する能力があるので、(上に述べた表現を使えば)地表面の蒸発効率を高め、地表温度を下げる効果があることだ。(これは地球温暖化へのローカルな適応策のひとつにもなるかもしれない。) 他方、地球温暖化の「緩和策」(原因を減らすこと)としての木の意義は、光合成に伴って大気中の二酸化炭素を吸収することだ。

(3) 地球温暖化とオゾン層破壊

地球温暖化とオゾン層破壊はどちらも地球(global)環境問題の部分である。どちらも、人間活動によって出てきた物質が、全世界規模の環境に影響を与え、その影響が人間社会にはねかえってくるので、影響を小さくするためには原因を減らす予防策が重要と考えられている。

ただし、両者は次のような点で区別できる。

  • 地球温暖化は地球放射の赤外線にかかわる。オゾン層は太陽放射の紫外線にかかわる。
  • 地球温暖化は大気のうち主として対流圏で起こる。オゾン層破壊は成層圏で起こる。
  • 地球温暖化の最重要の原因物質である二酸化炭素は、オゾン層破壊には(直接には)関係しない。

しかし、次のような連関もある。

  • オゾン層破壊の原因物質であるクロロフルオロカーボン(フロン)は、温室効果気体(地球温暖化の原因物質)でもある。オゾン層破壊防止のためのフロン生産停止は温暖化緩和にも貢献する。
  • オゾン自体も温室効果をもつ。オゾン層破壊からの回復は、温暖化を強めてしまう。
  • 地球温暖化は成層圏の気温低下を伴う。これはオゾン層破壊に影響する。ひとつの因果連鎖は、オゾン破壊反応の場となる成層圏の雲がふえ、オゾン破壊を促進することだ。しかし他の因果連鎖もありうる。

(4) 地球温暖化と大気汚染

【温室効果気体(地球温暖化の原因物質)も大気汚染物質として扱うべきだという人もいるが、ここでは区別することにする。】

地球温暖化と大気汚染はどちらも環境問題の部分である。どちらも、人間活動によって出てきた物質が環境に影響を与え、その影響が人間社会にはねかえってくる。

ただし、両者は次のような点で区別できる。

  • 地球温暖化はグローバル(全世界規模)な現象だ。大気汚染はローカルなこともあり、全世界規模にわたる場合も、一様に広がるわけではなく、限られた場所で激しい汚染が生じることが多い。
  • 地球温暖化の原因物質は、大気中にふつうにある濃度では、直接健康に害をおよぼさない。大気汚染物質には、直接に健康に害をおよぼすものや、光化学反応によって健康に有害なオキシダント(対流圏オゾンなど)を生成するものがある。
  • 地球温暖化の原因物質は大気中で(わりあい)安定である。大気汚染物質は反応しやすいものが多い。たとえば、窒素酸化物のうちでは、反応しにくいN2Oは地球温暖化原因物質、反応しやすいNO、NO2は大気汚染物質となる。

しかし、次のような連関もある。

  • 炭化水素は、温暖化原因物質であるとともに、オキシダント生成にもかかわる。ただし、温暖化原因物質としてはメタンが主、オキシダント生成にかかわるのはメタン以外の分子が主である。
  • SO2は、重要な大気汚染物質であるとともに、大気中で、太陽光反射によって気候を寒冷化させる効果をもつ硫酸液滴エーロゾルに変わる。
  • すす(black carbon)は、大気汚染物質であるとともに、太陽光吸収と温室効果によって気候を温暖化させる効果ももつと考えられている。