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有機農業産物は健康によいとはかぎらない。「オーガニック給食」推進論には「待った」

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

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学校給食の内容を「オーガニック」にしようという運動をしている人たちがいて、地方自治体の政策に採用されたところもある。この「オーガニック」は「有機農業」の「有機」とおなじで、学校給食の食材を有機農業でつくられたものにしよう、ということらしい。

「有機農業」ということばは (わたしが積極的につかうことばではないのだが、世の中の人びとのつかいかたをわたしが理解したかぎりでは)、化学合成によってつくられた肥料や化学合成によってつくられた農薬をつかわない農業をさしている。天然物を肥料としてつかうことや、天然物による病虫害防御は、かまわないとするわけだ。

わたしは、人間社会が持続可能であってほしいので、農業も持続可能なものであるべきだとかんがえている。化学合成にはエネルギー資源が必要であり、いまはおもに化石燃料がつかわれているが、化石燃料の利用は (それ自体の有限性や供給の不確実性にくわえて、地球温暖化の原因であるので) へらしていくべきであり、それ以外のエネルギー資源も無尽蔵ではないから、化学合成への依存をへらしていくべきであるとおもう。しかし、現在の世界の人口をささえる食料の量は、すくなくとも空気中の窒素からの窒素肥料合成にたよらないと生産できなくなっている。人類の食料生産全体を有機農業でまかなうことはできない。それを持続可能にするためにとりくむべき農業の改良の方向は、有機農業とおおまかに同じ方向をむいてはいるが、有機農業そのものではない。

このあたりの議論は、[2017-12-27 持続可能な農業・環境にやさしい農業と、有機農業との距離] に書いた。

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有機農業を推進する人たちのうちには、有機農業の産物のほうが健康によい、という主張をする人がいる。化学合成による農薬からくる有害物質がふくまれていない、というのはもっともではあるが、天然物を農薬のようにつかうならばそれが有害なばあいもあるし、作物自体が防御のためにつくるヒトにとって有害な物質が有機栽培のほうがおおくなることもあるそうだ。有害物質についても、栄養価についても、有機農業の産物と、ふつうの農業 (慣行農業) の産物と、どちらが健康によいかは、個別にかんがえないとわからない。

この問題について、最近、Fukano Yuya (深野 祐也) さんがレビューを note に書いている。

さらに、有機農業によるほうが食材の原価が高くなることがおおいから、おなじ予算で有機農業産物をつかうと栄養価は平均として低くなるだろう。このこともふくめると、給食に有機農業産物をつかうという政策は、子どもの健康によい食事を提供するという目標には、逆行するおそれさえある。

給食をなるべく子どもの健康によいものにしようと親たちや地域の人たちが努力するのはよいことだとおもうが、そのためにとる方針として「オーガニック給食」は まとはずれなのだ。

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「オーガニック給食」を推進する運動をしている人たちは、ほかの動機ももっていることがある。有機農業産物あるいは自然物を材料とした食品や化粧品などを製造販売していることがある。また、有機農業を推進することが特定の宗教的信念にもとづいており、その宗教的信念をひろめようとしていることもある。給食についての自治体や学校への提案に、商業的あるいは宗教的な動機がまぎれこまないように警戒する必要がある。

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そのひとつとして、「EM」 (いわゆる「EM菌」) をひろめる活動がある。これはもともと「有用微生物群」といい、琉球大学 農学部の教授であった 比嘉 照夫氏が 堆肥をつくるための たね として開発した微生物群をふくむ農業資材である。そのかぎりでは、特別に優秀ではないようだが、有用である。しかし、比嘉氏は、これが万能の環境浄化の効果をもつと、たぶん自分で信じるようになってしまったようだ。EM推進者が、ときには地方自治体や学校をまきこんで、川などの水質浄化を意図して「EM」をふくむ泥だんごを投入する活動をしているが、環境科学者からみて、これは水質にとって無益でありいくらか有害な活動である。

「EM」については、このブログで なんどかとりあげた。それぞれの時点で書いたまま整理されていなくてもうしわけないが、リンクをあげておく。

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2025年2月9日にひらかれた「第4回オーガニック学校給食フォーラム」という行事のお知らせが、2025年1月16日に公益財団法人「自然農法国際研究開発センター」のサイトからでていた。この財団は、この行事を実行した複数の団体のひとつである。

自然農法国際研究開発センター (https://www.infrc.or.jp/ ) は、岡田 茂吉 (1882-1955) がはじめた運動体をひきつぐものである。

その評議員には、比嘉 照夫 氏 ( このサイトのページでのかたがきは「琉球大学 名誉教授・名桜大学 国際EM技術センター長」、名桜大学のサイトによれば国際EM技術センターはすでにないようであるが) がふくまれており、理事長 (代表理事) の 黒田 達男 氏は「株式会社 EM研究所 顧問」である。

しかし、評議員の青木 正敏 氏 (もと 東京農工大学 農学部 教授) は農業気象学、非常勤理事の 上野 秀人 氏は 土壌肥料学、馬場 健史 氏は生物工学 (とくにメタボロミクスという技法) の専門家であり、いずれもおそらく「EM」関係者ではないとおもう。この財団法人は長野県松本市に農業試験場をもち、有機農業やそれに適した育種の研究をしている。ウェブサイトから「EM研究所」やそのほかの「EM」関係のサイトへのリンクはみあたらない。「EM」への言及も、理事長の兼職のほか、わたしがみつけたのは、刊行物のうちの『有機農業・自然農法技術交流会資料集』の内容見本としてふくまれている目次ページに堆肥の関連として「EMボカシ」がでてくるだけである。ただし、つぎにのべる「EM研究所」のサイトで「企業情報」をみると「(財)自然農法国際研究開発センターの事業部門として平成3年 [1991] に設立。のち平成11年 [2000] に株式会社EM研究所として独立。」とある。この財団法人は、1990年代には「EM」に関する技術開発もしていて、それを別の会社にうつしてからは「EM」との関係はうすれているのだろう。

- 4b+1 [2025-08-01 補足] -
KokyuHatuden (@breezingpower) さんの tweet で知ったのだが、Google Scholar で 「"Effective Microorganisms" Kyusei」の文字列で検索すると多数の英語文献がみつかる。

そのうち多くは自然農法国際研究開発センターのサイトのものである。そのサイトの英語ホームページからたどると、つぎのページがある。

1989年から7回、国際学会のような感じの会議 (conference) をやっているが、その最後のものが 2002年である。「Kyusei」は世界救世教の「救世」と同じことばにちがいない。

ここからつぎのようなことが読みとれると、わたしはおもう。自然農法国際研究開発センターは、2002年よりあとの時期に、世界救世教との関係をよわめた。おそらく「EM」との関係をもよわめただろう。しかし、いまも、それ以前の活動を、自分の団体の活動として肯定的に紹介している。「EM」について批判的な態度に転じてはいない。

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株式会社「EM研究所」 (https://emlabo.co.jp/ ) は、静岡市に本拠をおく会社である。ウェブサイトは、副題にあるとおり「微生物を活用した農業用土壌改良資材などを製造販売」をする企業のサイトであり、社会運動や思想をひろめるものではないようにみえる。ただし、そこからリンクされている「Web Ecopure」(https://www.ecopure.info/) を運営する会社でもある。「Web Ecopure」のサイトには、比嘉氏や「EM」推進者による記事があり、そのうちには自然科学者であるわたしの観点からみてあきらかにおかしいものがある。たとえば「<特集>整流と結界」の記事群がそうである。また、上にのべた 2024-12-01 の記事でもふれた件だが、つぎの記事では、比嘉氏が、水域に「EM」をまぜた泥だんごを投入する活動を水質浄化としてほめている。

EM研究所のサイトには、「EM研究機構」へのリンク があるが、そのリンク (https://www.emro.co.jp/ ) をたどると実際は「EM Group Japan」のサイトになっており、「EM研究機構」「EM生活」「サンシャインファーム」 の3つの会社のサイトへのリンクがある。「EM研究機構」は 沖縄県 北中城村 に本社をおく会社である。この会社グループのサイトには、企業としての記事と、「EM」をひろめる運動体としての記事がまざっている。自然科学者からみておかしい記事の例をあげておく。

  • (EM GROUP JAPAN ) EM ニュース 2025.1.22 【イベント】比嘉セオリーをもっと理解するための宇宙学(2/23開催) | つながる健康サークル https://www.emro.co.jp/news/detail/2288

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わたしは、学校や自治体の活動に、「EM」を推進する人がはいりこむことは、「EM」関連の企業の利益になることや比嘉氏の思想をひろめることに誘導されるおそれがあるので、ふせぐべきだとおもう。「自然農法国際研究開発センター」は、直接の「EM」推進者ではなくなっているようなので、それがはいりこんではいけないとはいえない。しかし、「EM」推進者がまぎれこむ可能性について警戒が必要だとおもう。

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自治体や公立学校のたちばで、学校給食を、健康によいものにすることや、持続可能なものにすることは、よいことだとおもう。しかし、利益が特定の業者にばかり行ってはいけないし、費用がよけいにかかるならばじゅうぶんな根拠が必要だ。

わたしは、給食を「地産地消」型にしていくことならば、いくらか費用がふえても推進してよいとおもう。自治体内の農林水産業や加工業によってつくられる産物をつかうならば、自治体の産業振興政策に位置づけることができる。そして、もし自治体内の有機農業産物で給食の食材をまかなうことができ、他の農業者も反対しないならば、そこでは「オーガニック給食」を推進するのもよいだろう。「オーガニック給食」を、自治体の政策や公立学校の方針としてとりあげるのは、そのばあいにかぎるべきだとおもう。