【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】
===== まえおき =====
文化庁国語課からでていた意見募集 ([2024-12-16 ローマ字のつづりかたについての意見 (パブリックコメント) 公募 (2025-01-13 まで)] ) に応じ、[2024-12-17 ローマ字のつづりかたについてのわたしの意見] に書いたことをまとめなおして提出した。
意見文のなかの「検討の整理 (案)」はつぎのリンクさきにある文書である。
- https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000284079 ローマ字のつづり方に関するこれまでの検討の整理(案)
意見文のなかで参照した「国土地理院の2004年の方式」は、つぎの記事に付録としてつけられているものである。
- 菱山 剛秀, 2005: 地名のローマ字表記。国土地理院時報 108集: 65-75. 第108集の目次ページ https://www.gsi.go.jp/REPORT/JIHO/vol108-content108.htm からPDFファイルへのリンクがある。
===== 提出した意見 =====
「検討の整理(案)」の全体にかかわりますが、おもに「5」についての意見です。
日本語圏でのローマ字づづりかたをひとつの標準にしたがわせようとすることは困難です。しかし、照合、整列、決定論的な検索などのためには、何か一定のつづりかたをきめておき (仮に参照方式と呼びます)、他のつづりかたを参照方式と同一視し、必要に応じて参照方式に変換できるようにしておくべきです。
各人がつかう多様なつづりのうち、参照方式へ機械的に変換できるものは自由につかってもらえばよいが、変換が一意的にきまらないものはなるべくつかわれないように誘導する政策をとるべきだとおもいます。
訓令式とヘボン式は、さいわいなことにほとんどのばあい混在してさしつかえありません。どちらを参照形式にしても機械的に変換可能です。訓令式のほうが五十音表との対応や動詞の活用形などの面ではすぐれていますが、ヘボン式のほうが駅名その他の普及ぐあいの面からよいという考えも理解できます。国土地理院は1984年に訓令式を採用しましたが2004年にヘボン式に変更しています。国土地理院2004年方式は、「ン」は常に n、「ッチ」は tchi としており、わたしもこれはよく考えられていると思います。(長音記号を省略可としている点だけは賛成しません。) もしヘボン式を参照方式にするならば、現行の訓令・告示の第1表と第2表を入れかえたのに近い形になるでしょう。(まぎらわしいので「第1表」「第2表」という表現はほかのものに変えたほうがよいと思いますが。)
両方式混在で例外的に困るのは、「ティ、トゥ」を「チ、ツ」と区別して示すことです。「検討の整理(案)」の「7」に該当するとおもいますが、現代の日本語でかかせない音韻になってきました。一案として「t'i, t'u」のようにアポストロフを使うことが考えられます。
「検討の整理(案)」の「5」にあげられた長音の件は重大です。長音記号を使う方式と現代かなづかいに準ずる方式は相互に機械的変換できません。
とくに、ou は、長音のばあいとたまたま o と u がならんだばあいの両方がありえます。たとえば、「kouri」は k-[oの長音]-ri (公理、行李など) かもしれないし、ko-uri (小売り) かもしれず、両者を区別する必要があります。わたしは、o の長音については、長音符号をつかう方式を参照方式とし、現代かなづかいに準ずる方式は奨励しないことにすべきだと思います。なお、長音記号としては山形と横棒のどちらを参照方式とするとしても他方も許容し、山形と横棒を明示的に同一視すべきだと思います。(手書きでは横棒のほうが普及しやすいですが、情報機器入力ではISO-8859-1コードのフォントがある山形のほうが普及しやすいです。)
「検討の整理(案)」の「5」では o の長音と e の長音が並列にあげられています。しかしわたしは、両者のあつかいはちがってよいと思います。音韻の構造の考察からは、o と e とを対称にあつかうのが妥当かもしれません。しかし音韻の歴史からは、ou には au が合流したが ei には ai が合流していないという非対称性があります。また日本語ローマ字表記の伝統をみると、1592年の天草本平家物語ですでに「平家」はFeiqe と ei をつかって書かれていましたが、「オウ」などは o に長音記号を使って書かれていました (当時「オウ」由来のものと「アウ」由来のものは発音がちがっていたので2種類の長音記号がありましたが)。それ以後、ヘボン式、日本式、訓令式のいずれでも、漢字音の「エイ」は ei、「オウ」は o に長音記号がつかわれてきた実績があります。いま、この実績にさからって、「eに長音記号」や「ou」を参照方式としたとしても普及は困難と思います。外来語を原語つづりでなく日本語の音韻によってつづるばあいについては迷いますが、英語由来のものに関するかぎり、漢字音のばあいにならって、e の長音は ei に寄せ、「オウ」は o の長音に寄せるのがよいだろうと思います。やまとことばの「ねえさん」など、現代かなづかいでも2拍めを「エ」としているものだけ、「e に長音記号」を参照形式とするのが妥当と思います。
===== ここまで =====
[2025-01-18 注] 読みかえして、用語の不統一があったことに気づいた。「参照方式」と「参照形式」、「長音符号」と「長音記号」は、それぞれおなじものをさしているので、統一するべきだった。このブログ記事では統一しないで提出したかたちのままにしておく。