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新型コロナウイルス陽性患者数と人口密度

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたか、かならずしもしめしません。】

【[お知らせ (2021-05-03)] この記事にあった図 (地図) は、「新型コロナウイルス患者の東京・埼玉・千葉・神奈川の市区町村別分布を見る」のシリーズ(1)~(15)の記事にあった図といっしょに、個人ウェブサイトの[南関東4都県の新型コロナウイルス累積陽性患者数の市区町村別分布] のページにまとめました。このブログ記事に対応する図は、一覧表形式にしたうちの「2020-7-31」の行にあります。ただし人口密度の図は一覧表のページのいちばん上にあります。このブログ記事には、図のあったところに、日付と一覧表の列に対応する「図1」「図2」「図3」「図4」「図5」または「人口密度の図」という文字を置きました。】

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新型コロナウイルス感染症の患者数の地域別の傾向が、人口密度と関連しているという話題をみかけた。

人口密度は、面積あたりの人口である。人と人とのあいだの平均距離は、およそ、人口密度の逆数の平方根にあたる。だから、人から人への感染のおこりやすさが人口密度と関連しているというのは、もっともだと思う。

[2020-08-02 新型コロナウイルス患者の東京・埼玉・千葉・神奈川の市区町村別分布を見る (11) (7月31日まで)]の記事にしめした、4都県の市区町村別 (神奈川県は保健所管轄区域別) の陽性患者数 (2020年7月31日発表分までの累積) について、すこし作業してみた。

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作図につかっているGISソフトウェア、谷 謙二さんによる MANDARA 10 には、市町村や区の面積の情報がふくまれている。これと、各都道府県の推計による2020年3月1日現在の人口とから、人口密度を計算して、MANDARA 10 で作図してみた。(色づけはまだよく考えておらず、たまたま作業に使ったもののままである。)

[人口密度の図]

東京都千代田区だけが例外的に小さいが、そのほかは東京23区で大きく、そこからはなれるほど小さくなる傾向がみられる。

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同様に、2020年7月31日までの陽性患者数を、市区町村の面積あたりにして作図してみた。

[2020-07-31 図2]

千葉県東庄町に患者の集団発生による異常に大きな値があるのを別にすると、分布は人口密度とよく似ている。ただし、大きな値と小さな値のけたのちがいが、人口密度のばあいよりも大きい。

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そこで、人口あたりの陽性患者数 (分布図は2020-08-02の記事に出した) を、さらに人口密度でわったものを作図してみた。量の組み立ては「(陽性患者数 × 面積) / (人口の2乗) 」となるが、これはわけがわからない。しかし、陽性患者数がどのくらい人と人とのあいだの平均距離に依存しているかを考える、という意味では、このような数量を見てみることも 意味があるだろうと思った。

[2020-07-31 図4]

この色づけは、数値を確認する作業のためのもので、値が大きいところを紫や赤、小さいところを青でめだつようにし、中間のところを緑にしてある。大きな値も小さな値も、東京の都心から遠く人口密度の小さいところにあらわれている。患者数が少ない町村もあるが、たまたま患者が出てしまったところは人口が少ないので数値が大きくなるのだ。【なお、神奈川県の人口密度の小さい町村で大きな値ばかりが出ているのは、保健所管轄区域ごとの人口あたり患者数を 市町村ごとの人口密度でわったせいで、たぶん実際の分布とはちがう。】

この結果の要点は、東京とその近郊の大部分のところで、この数値が、300~3000という (数値がとりうる可能性にくらべれば) せまい範囲におさまっている、ということだと思う。 【作業過程で演算をかんちがいしたせいで、表示された数値の単位は「km2/百億人」という、変なものになっている。つぎには単位ももうすこしよく考えたいが、きょうはこうしておく。】

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患者数と人口密度の関係についての議論として、わたしが気づいたのは、山中 大学[まなぶ]さん(現所属は地球研)によるものだ。

2020年7月13日に日本地球惑星科学連合大会で発表した予稿がここにある。(わたしは発表を聞いていない。その時間は授業をしていた。)

ほぼ同じ内容が、地球研のウェブサイトのCOVID-19に関するページにある。

そこでは、日本の都道府県別、インドネシアの州(英語でprovince)別、アメリカ合衆国の州別、ヨーロッパの国別の、新型コロナウイルス総感染者数 (回復者、死者もふくむ) と、人口密度とを、両対数軸でグラフにして、おおまかに直線にのることをしめしている。(ただし、「おおまかに」であって、ばらつきも大きい。)

国別のばあいは、政策のちがいや国境での人の動きの規制もあるだろうから、国ごとの数値をみることも意味があるだろう。しかし、国のなかの行政区画のさかいめは、実際の人の動きの障壁になっていないところもあるだろう。(都道府県間の移動を規制するという話が笑い話としか思えない地方もあった。) 地方を分割したり統合したりするとグラフ上で上下に移動してしまうのも変な感じがする (1桁の個数の分割や統合では、両対数めもり上で大きくは動かないけれども。) わたしは、このような比較では、人口なり面積なりで規格化した感染者数を見たほうがよいような気がする (何で規格化するかによって、数値どうしの関係もかわってくるが。) 【そういうわけで、上の2-4節の例では、人口あたりの感染者数と人口密度とを対比しようとしたのだった。直接対比するグラフもつくってみようと思うが、ちょっとあとまわしにした。】

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日本語の範囲で「コロナウイルス 人口密度」などでウェブ検索してみると、もうひとつ見つかった。

  • 大学ジャーナル ONLINE 2020年6月21日: 新型コロナウィルスは人口密度と気温・絶対湿度が影響、名古屋工業大学が解析 https://univ-journal.jp/33036/

その記事に、「論文情報:【名古屋工業大学】人口密度と気温・絶対湿度が影響 ー新型コロナウィルスの拡大・収束期間、感染者数・死者数の分析結果についてー(PDF)」というリンクがあるのだが、2020-08-05 現在、リンクさきは「見つかりません」と表示される。

名古屋工業大学のウェブサイトを見にいくと、つぎのプレスリリースがある。

  • [プレスリリース 2020年06月17日掲載] 新型コロナウィルス、人口密度と気温・絶対湿度が影響 ~新型コロナウィルスの拡大・収束期間、感染者数・死者数の分析結果について~ https://www.nitech.ac.jp/news/press/2020/8366.html

この記事には「プレスリリース資料の詳細は、下記のページをご覧ください。」とあって、先端医用物理・情報工学研究センターのページ http://bpit.web.nitech.ac.jp/news/1600/ へのリンクがある。リンクさきのページは存在するが、そこにあるのは新聞やテレビで報道されたという情報で、内容の詳細はなかった。

ともかく、プレスリリースで名まえが大きく出ている研究者は 平田 晃正 教授なので、”Hirata Akimasa COVID" で Google Scholar 検索をかけてみると、つぎのふたつの論文が出たことがわかった。内容はプレスリリースと対応するようだ。

  • Essam A. Rashed, Sachiko Kodera, Jose Gomez-Tames, Akimasa Hirata, 2020: Influence of absolute humidity, temperature and population density on COVID-19 spread and decay durations: Multi-prefecture study in Japan. International Journal of Environmental Research and Public Health, 17: 5354. https://doi.org/10.3390/ijerph17155354
  • Sachiko Kodera, Essam A. Rashed, Akimasa Hirata, 2020: Correlation between COVID-19 morbidity and mortality rates in Japan and local population density, temperature, and absolute humidity. Int. J. Environ. Res. Public Health, 17: 5477. https://doi.org/10.3390/ijerph17155477

この研究では、日本の都道府県別の、新規感染者数の増加や減少を見ている。(対象となる都道府県がかぎられているのは得られたデータの制約によるようだ。) それを、気象要素である気温および絶対湿度と関連づけている。(絶対湿度の定義は見かけなかったが、空気の体積あたりの水蒸気の質量だろう。気象庁のデータにある相対湿度をもとに計算したそうだ。) しかし、気温や絶対湿度よりも大きな要因として人口密度がきいているようだったので、まず感染者数を人口密度でわって、その数値と気象要素との関係を見ている。

まだわたしは拾い読みしただけなので、この研究の知見が使いものになるか論評できないが、都道府県ごとの感染者数をそのまま見ることについて感じた疑問は5節と同様だ。それにしても、人口密度との関係はたしかにあるのだと思う。気温または絶対湿度との関係も、見かけ上の関係としてはあるのだと思う。ただし、気温や絶対湿度は、大都市圏から南北方向にどのくらい離れているかの代理指標になっているだけの可能性もあると思う。