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NHK BS1 「気候クライシス -- IPCC特別報告書からの警告」について

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたか、かならずしも明示しません。】

【この記事は、気候変化についての専門家として書いています。事実の説明の部分と、専門家としての意見の部分があります。ただし、わたしは、話題になっている報告書そのものを読んでいないし、番組については、部分的に録画を再生して確認した部分もあるものの、全体をくわしく記録しておらず、おおざっぱにのべているところもあります。】

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NHKの衛星テレビ放送 BS1 で、「気候クライシス -- IPCC特別報告書からの警告」という番組があった。最初の放送は 2020年1月13日(月) 23時から50分間、再放送が 2020年3月1日(日) 19時からだった。NHKのウェブサイトの「BS1スペシャル」のページ https://www4.nhk.or.jp/bs1sp/ の下に、内容紹介のページがしばらくあったのだが、3月7日に見たら、1月13日、3月1日のいずれの回のも消えてしまっていた。3月1日の回 https://www4.nhk.or.jp/bs1sp/x/2020-03-01/11/10364/3115799/ [リンクぎれ] にあったテキストを引用としてつぎにしめしておく。

「気候変動により人間が暮らせる場所が地球から次々と消失する」。国連機関、IPCCが発表した報告書が国際社会に衝撃を与えている。去年、温暖化による気象災害が各地で発生し、世界中に広がった抗議デモ。中心となった少女、グレタ・トゥーンベリが信頼する科学者たちの分析だ。共同議長のインタビューを軸に報告書を読み解き、気候危機の実態と対策を検証。映画「アバター」を制作したキャメロン監督の取り組みも紹介する。
【語り】萩原聖人

  • 気候クライシスの実態を科学的に描き出し世界に衝撃を与えたIPCCの特別報告書
  • 海面上昇の影響で半世紀ぶりの高潮に襲われたベネチア
  • IPCCは2050年までに温室効果ガスの排出量をゼロを提言

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IPCC (気候変動に関する政府間パネル) は、2021-22年に第6次評価報告書を出す準備をしているが、そのまえに、2019年8-9月に二つの特別報告書を出した。

  • [陸地] 『土地関係特別報告書 (Special Report) Climate Change and Land (SRCCL) https://www.ipcc.ch/srccl/ 2019年8月
  • [海と氷]『海洋・雪氷圏特別報告書 Special Report on the Ocean and Cryosphere in a Changing Climate (SROCC) https://www.ipcc.ch/srocc/ 2019年9月

[ ... ] にしめした略称は、わたしが仮につけた。

『 ... 』にしめした日本語の名まえは、環境省の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(AR6)サイクル」のページ http://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/index.html に書かれたものにあわせた。そのページに、それぞれの報告書の簡単な紹介と、「政策決定者のための要約」(SPM)の日本語訳がある。

なお、[海と氷] について、日本では、2019年10月21日に、笹川平和財団 海洋政策研究所の主催、環境省の共催で、公開シンポジウムがあった。その開催報告が、笹川平和財団のウェブサイトのつぎのページにある。https://www.spf.org/opri/news/20191015_2.html

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NHK BS1の番組は、この二つの特別報告書のおもな内容を紹介しようとして企画されたもののようだ。しかし、内容の大部分が、IPCCの役員 (これはわたしの暫定的表現で、意味はあとでのべる) をしている二人の科学者の話をつたえる形で進められていた。

  • [海と氷] については、Hans-Otto Pörtner さん (番組では「ポートナーさん」とされていた。この かたかな表記には疑問があるが、ひとまずわたしもあわせておく)。海洋生態学者で、本務はドイツのAlfred Wegener 海洋・極地研究所 ( http://www.awi.de ) の教授。IPCCでは、第2作業部会(Working Group 2)の共同議長 (co-chair)。
  • [陸地] については、Youba Sokona さん (番組では「ソコナさん」とされていた)。アフリカのマリ出身で、持続可能な開発 (sustainable development)の研究者。IPCC副議長 (vice chair)。

まず、番組では、ポートナーさんのかたがきが「IPCC 共同議長」とされていたが、これは、まちがいだ。「IPCCの部会の共同議長」のような形にするか、つぎにのべる IPCC の Bureauを説明してその一員という形にしてほしかった。 【たとえていえば、大学の学部長を「学長」として紹介してしまったようなものだ。大学のばあいも、College が独立した大学なのか、Universityのうちの学部などにあたる内部組織なのかは場合によるので、訳語をつかいわける必要があるのだが。】

それから、番組では、ポートナーさんやソコナさんが言っていることと、IPCCという組織が言っていることとの区別がついていなかった。気候変化の見とおしに関する事実認識についてはまぎれてもよいことが多いが たまにまずいこともあり、世界の人間社会はどういう政策をとるべきかに関する規範的主張については区別しなければいけないと思う。番組は ポートナーさんの主張が IPCCの主張であるかのようにつたえているところがあり、IPCCについての誤解をあたえてしまったと思う。

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IPCCがどんな組織であるか、説明しておく必要がある。IPCCのウェブサイトの Structure のページ https://www.ipcc.ch/about/structure/ を参考に、わたしの理解にしたがってのべる。

IPCCは「政府間パネル」だから、各国の政府を代表する人があつまった総会がある。できあがった評価報告書は、総会で承認されてから正式のものとなる。評価報告書をつくりはじめる計画も総会できめられる。しかし政府代表が出てくるのはだいたい総会のときだけだ。また、(気候変動枠組み条約締約国会議の政府代表としては環境大臣などの政治家が出てくるのとちがって) IPCCの総会に出てくる政府代表はだいたい専門官僚だ。

IPCCの事務局は、スイスのジュネーブのWMO (世界気象機関)の本部に間借りしている。そこには常勤の職員が数人いる。それは事務担当者で、あまりおおきな権限をもっていない。そしてIPCCが継続して雇っているのはこの少人数の事務職員だけだ。

IPCCの報告書を書く実質的な仕事をしているのは、専門家のうちから各国が推薦してきた著者たちだ。IPCCは著者たちに、会議のための旅費などは出すが、給料をはらっていない。IPCCから見ると著者たちはボランティアなのだ。多くの場合、著者が所属している研究所などが、IPCC報告書のための仕事をする時間もふくめて給料を出すことによって、IPCCの業務をささえている。

著者集団は、3つの作業部会 (working group(s))に組織されている。それぞれの作業部会が、2人の共同議長 (co-chair(s)) と複数の副議長(vice chair(s))をもつ。また、作業部会の横ならびに、「温室効果ガスインベントリに関するタスクフォース」(TF) というものがあって、温室効果気体排出量のデータベースをまとめている。

IPCC全体には、ひとりの議長 (chair)と複数の副議長(vice chair(s))がいる。そして、全体の議長・副議長、作業部会の共同議長・副議長、TFの共同議長をあわせて、Bureau という組織をつくっている。Bureau の日本語定訳はないようだが、わたしは「役員会」に近いと思う。この記事では、Bureau のメンバーを「役員」ということにする。IPCCの役員は、IPCCの常勤ではなく、たぶんほかに本務をもつ。役員をしている人の発言であっても、IPCCの役員としての発言と明示されていないかぎり、「IPCCが言った」ということにはならない。

【2010年に、IPCCは、組織運営について、Inter-Academy Council (IAC) という組織によるレビューを受けた。([2010-08-31の記事] [2010-09-03の記事] 参照。) IPCCは、IACの勧告を受けて組織改革をおこなったが、専任の executive director (「専務理事」というべきか?) をおくべきだという勧告にはしたがわなかった。([2011-07-16の記事] [2012-02-26の記事] 参照。) もし executive directorがいれば、公開の場でのその人の発言は「IPCCが言った」とみなしてもよいということにできたと思うのだが、現状はそうなっていないのだ。】

IPCCは、政策決定に直接かかわる組織ではなく、政策決定にかかわる 気候変動枠組み条約(UNFCCC)締約国会議(COP) や各国政府に対して、助言する組織である。政策に対して有意義(policy-relevant)ではあるが、政策を拘束するもの(policy-prescriptive)にはならないような助言をすることになっている。実際には、はっきりと「助言」をするのではなく、世界の科学的知見をレビューして報告書としてまとめるのが仕事になっている。IPCCの報告書は、これこれの政策をとるべきだという規範的主張をしない。「政策案AとBがあり、Xという観点ではAのほうがすぐれている」(*) というようなことは言う。それを、Xを重視する規範的たちばをとる政策決定者が読めば、政策Aを採用することを勧告されたと思うかもしれない。

笹川平和財団のシンポジウム開催報告のページに、ポートナーさんが[海と氷]の報告書を紹介したプレゼンテーションファイルのコピーがリンクされている。おもな話題は、地球温暖化の生態系への影響で、不確かな将来の見とおしだが、規範ではなく事実認識だ。対策の話題もすこしあるが、その部分の論旨はちょっと見たのではよくわからない。ちがう主張をもつ著者たちの合意が得られる記述にしたからなのだろう。BS1の番組でのポートナーさんの発言の論調はこれとはだいぶちがう。

しかし、(*)のような条件つきの言いかたはわかりにくい。IPCCを代表して報告書の趣旨を説明する役員たちが、わかりやすく説明しようとすると、役員個人の規範的前提がまざった説明になってしまうことがある。とくに COP のような場を IPCCの役員をするような専門家が見れば、もっとまじめに排出削減策にとりくんでほしいと言いたくなるのも無理もないという気もする。(世界には排出削減策は必要ないという主張をもつ専門家もいて、IPCC 報告書の著者にもふくまれるかもしれないが、そういう人が役員になることは、規範的よしあしはともかく、現実的にありそうもない。)

だから、もしかすると、BS1の番組は、COPなどの場で「IPCCが言っていること」としてしめされたことをつたえているのかもしれない。それにしても、番組制作者は、IPCCがどのような役わりの組織なのかを理解して、「IPCCが言っている」という表現はIPCCの報告書本文で確認できることがらにかぎり、そのほかは「だれだれが言っている。その人はIPCCの役員あるいは報告書著者でもある」という紹介のしかたにしてほしかった。

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番組では、ひとつのことがらをつたえるごとに、ポートナーさん(ソコナさんの場合も同様)自身がインタビューにこたえて話すこと、ナレーターが「ポートナーさんがこう言っている」という形でつたえること、「特別報告書にはこう書かれている」という形でつたえること、報告書と直接の関係はない (しかし報告書にとりあげられた問題が生じている現場とはいえる) 現地の景観や人の画像とナレーターによるその説明、などが、こまかくきざまれてまざっていた。ナレーターが話すそれぞれの部分が、報告書に書いてあることなのか、ポートナーさんの主張なのか、番組制作者の判断でのべたことなのか、よくわからないばあいもあった。

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[海と氷] のおもな話題は、地球温暖化が進むと、グリーンランド氷床をふくむ世界の氷河の融解が進み、水の質量が氷から海に移ることによって (また、番組では明示されていなかったが、海水の熱膨張による体積増加もあって)、海の水位が上がる、という見とおしだった。これによって、海岸の湿地は水没してしまい、湿地特有の生態系がうしなわれるおそれがある。さらに、温暖化によって台風が強まるだろうという見とおしもくわわって、高潮の災害がふえるだろうと考えられる。このあたりは、科学的知見として、定量的な不確かさはあるが、変化の向きについては確信度が高まってきたことだ。

湿地が減ることについては、(どのような二酸化炭素濃度シナリオで、なん年後の予想なのか、ききおとしたが) 「沿岸湿地が最大9わり消失」という表現をしていた。そこでは画面に特別報告書の英語の文字が表示され、「20-90 %」とあった。

(ここで一般論としてわたしの意見をのべるが) 報告書で はば をもつ数量がしめされたとき、報道が、危険を心配するたちばから、その大きいほうの値に注目することがよくある。その動機はもっともだ。しかし、一方で、報道を聞いた人がさらに情報をつたえるうちに「最大」ということばが落ちて、その値が代表的な将来みとおしであるかのようにつたわるおそれがある。これは誤報になる。他方で、シミュレーションが多数おこなわれている場合には、結果としてしめす数値のはばは、たとえば、平均値±標準偏差かもしれない。ほんとうの最小・最大はしめされた範囲の外にあるかもしれない。そのようなとき、しめされた数値のうちの大きいほうを「最大」としてつたえるのも、誤報になる。表現が複雑になってしまうが、はば をもつ数量は、なるべく はば をもつままつたえてほしいと思う。

海面上昇によって移住をせまられる人たちが出てくるだろうというのは、将来みとおしとしてはほんものだ。ひとつのありそうなシナリオ【「2℃」と言っていた。世界平均地表温度が産業革命前+2℃ にちがいないのだが、次にのべる2050年にその値になるということなのか、2100年ごろにその値になるということなのかはわからない】で、2050年までに、10億人が海面上昇の影響をうけ、2億8千万人が現在住んでいるところに住めなくなる、という見とおしも、かなり現実的なシミュレーションにもとづく知見なのだと思う。ただし、シミュレーション結果の数値がはばをもつうちで、分布の中央付近をもってきたのか、(ここでは「最大」という表現はなかったと思うが、それでも) 危険寄りの値をもってきたのか、明示してほしかった。

テレビのドキュメンタリーでは現実の画像が重要だから当然だろうが、すでに移住がはじまっている北極圏の村の例が出てくる。その村に海水がおしよせてきたのを地球温暖化による海面上昇の影響がすでにあらわれているという話になっていたが、その因果認識が適切なのか、わたしは疑問に思う。海面上昇はすでにおきてはいるが、その量はまだ小さいと思うのだ。おそらく海氷が減って波が高くなったのであり、海氷が減った原因としては温暖化がきいていると言えると思うが。ところがこの例の代表性に否定的なコメントをすると、将来みとおしの深刻さがつたわらない。むずかしい。

海面上昇は、海岸に面した大都市への影響が大きい。東京もそのひとつで、地面が海面よりも低い、いわゆる「ゼロメートル地帯」がふえることになる。【ここで、IPCC役員ではないが、[海と氷]の報告書の著者のひとりだった 須賀 利雄さん(東北大学)のインタビューをふくめていた。須賀さんの専門についてのナレーションが「海洋医学」と聞こえた。それはまちがいだ。「海洋理学」と言ったのかもしれず、それならばまちがいではないが聞きなれない表現であり、「海洋学」または「海洋物理学」のほうがよかったと思う。海面上昇の都市への影響は須賀さんの研究者としての専門ではないと思うのだが、IPCC報告書の著者として番組に採用されたらしい。】話題は、東京には海面上昇によって高潮などの災害がふえるリスクがあるということで、その対策に深入りはしなかった。

番組でのポートナーさんの発言のうち、「経済面から、すべての地域が困難をのりこえられるわけではない。海面水位の上昇は、予測をうわまわる可能性もある。人類は、沿岸地域をてばなすという決断にせまられる日がくるかもしれません。」というところは、(わたしはまだ特別報告書を確認していないので自信はないが、たぶん) 「IPCCがそう言っている」としてもよさそうだ。

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しかし、気候の「ティッピング」がおこる可能性があるという議論はIPCCもしているが、気温がどれだけあがるとティッピングがおこるかについて専門家の共通認識はまだないはずだ。そして、番組では、たぶんポートナーさんのことばとして、(ティッピングがおこれば)「灼熱地球になり人類が生息できなくなる」という見とおしをのべていたようだった。ポートナーさんが個人としてそう思っているならばそのようにつたえるのはかまわないが、IPCCの見解であるはずはなく、そうであるかのようにつたえるのはとてもまずいと思った。

また、ナレーションだが、ティッピングの関連で、「氷がとけると、そのなかにとじこめられた二酸化炭素が放出され、ティッピングに達する可能性が高まる」というようなことを言っていたが、これは事実認識としてまずいと思った。氷床の氷のなかにとじこめられた二酸化炭素は、過去の大気中の二酸化炭素量の指標としては重要なのだが、大気中の二酸化炭素の収支にとって重要なほどの量ではない。(海底地下のメタンハイドレートはひとまず別として) 凍土の氷がとけると、氷にまざっていたメタンが放出されて温室効果をつよめるという因果関係ならばありそうだが、それを単に氷がとけると言ってしまうのはうまくないし、メタンと二酸化炭素を区別して論じる必要がある。

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[陸地]のほうのおもな話題は、地球温暖化がすすむと、大陸上の土壌が乾燥するところがふえる、という見とおしだった。

ソコナさんのことばとナレーションをくみあわせて話がすすむのだが、「乾燥化」と「かんばつ」と「砂漠化」と「土地の劣化」が出てきて、どれとどれが同じ意味なのか、どれとどれが原因と結果の関係なのか、などがあいまいだった。

ここでいう砂漠化は、気候の変化によって降水と蒸発のバランスがかわって乾燥化することと、土壌が水をためこむ能力がおとろえることが組みあわさって、陸上生態系がおとろえることなのだと思う。そして、土壌の劣化の原因のひとつとして、大雨で草や木が流されることがあり、そこにも気候変化がきいてくる。ただし、土壌の劣化の原因は気候よりも直接の人間活動のほうが重要かもしれない。

乾燥化は、農業利用可能な土地の減少、食料不足、そして人間が生きていくうえでの困難をもたらすだろう。そのような連鎖がすでにおきている例として、インドの農業従事者の自殺と、マリで牧畜民族が農耕民族の村を襲撃した事件があげられていた。(このような例は、地球温暖化のせいだといっているわけではないのだが、地球温暖化が進むとこのようなことがふえる心配があるといっているのだ。)

ソコナさんは、構造的不平等があり、「気候変動で不利益をうけるのは、貧しい人々、貧しい地域」なのだということを強調していた。

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そして、ソコナさんの論調は、各国はもっと積極的に二酸化炭素排出削減をしなければならない、というものになっていった。さきほどのべたように、これを「IPCCが言っている」とつたえるのはたぶんまちがいだが、「ソコナさんが言っている。ソコナさんはIPCC副議長である。」ならばよいと思う。

「温暖化を1.5℃未満におさえるためになにをすべきか」という話になった。番組ウェブページにあった「2050年までに温室効果ガスの排出量をゼロ」というのは、それへのこたえとして出てくる。根拠はおそらく、IPCCが2018年に出した「1.5℃」の特別報告書で検討ずみなのだろう。IPCCのたちばは、ここでも、政策オプションによって1.5℃未満にするという目標を達成できる可能性を評価しているのであって、特定の政策を選択することを勧告しているわけではない。しかし、目標をぜひ達成したいという価値判断を前提にする人は、それが可能になる政策を勧告しているように受けとるかもしれない。

ソコナさんがやるべきだということには、次のようなことがある。

  • 世界のエネルギー源構成をかえる。2050年までに、大部分を再生可能エネルギーにし、石炭火力をほぼゼロにする。
  • 食生活をかえる。肉食(とくに牛肉)を減らし、植物由来の食品にかえていく。

番組は、COP で日本が石炭火力増設をやめるといわなかったことを、批判的な態度でつたえた。しかし、そのほかにエネルギー源の件にふみこんだ話はなかった。制作者がそれを軽視しているわけではなく、別の番組であつかっているからなのだろう。

肉食の件のおもな論点は、あたらしく開発されている農地の多くが家畜の飼料をつくるためのものであり、植物性食品ならばもっとすくない農地ですむということなのだ。[陸地]の報告書では重要な話題だっただろうと思うが、みじかい説明で視聴者にわかってもらうのはむずかしいと思った。

対策のうち[海と氷]のほうであつかわれた論点として、ポートナーさんが、海洋の藻類をふやすことを、二酸化炭素吸収 (いわゆる blue carbon)としても【こちらは気候政策のことばでは「緩和策」の一環】、台風や高潮から沿岸部をまもるためにも【こちらは「適応策」】、やるべきだと言っていた。

最後のナレーション「今すぐに行動をおこさなければならない。IPCC報告書は そう つきつけている。」は、IPCCの役わりをまちがってつたえていると思う。番組制作者がおもてに出たかたちで、「自分たちはIPCC報告書を読んで「今すぐに行動をおこさなければならない」と思った」と言うのならばよいのだが。