macroscope

( はてなダイアリーから移動しました)

われわれ生物は放射能に適応しているか

ヒトを含む多くの生物(以下「われわれ」)の健康にとって、環境中に人工放射性物質(形成45億年後の地球上に自然には存在しない放射性同位体)が多くなることは、望ましくないことなのだと思う。しかし、それだから、「原子力利用は生物の自然に反するのだ」というのは理屈が飛躍していると思う。【[2012-08-11補足] 人間のやっていることを「生物の自然に反する」ものと「反しない」ものに分ける基準はいろいろ考えられる。考えようによっては火を使うことも「生物の自然に反する」とも言える。】

われわれは、生物として、放射線を感知するように進化してこなかった。したがって、放射性物質を積極的に利用するような行動をとることができないし、有害な放射線を避ける行動をとることもできない。この意味では、われわれは、自然のであれ人工のであれ、放射能に適応していない。【ただし、現代の人間は、からだの外の、科学に基づく機器によって、放射線を感知し、それを利用したり避けたりすることができるようになった。】

他方、われわれは、消極的な意味では、自然に存在するレベルの放射能に適応しているようだ。

第1に、DNAは放射線によって損傷を受けるが、小規模な損傷に対しては回復能力を持っている。これは放射性物質の種類にはほとんど関係がなく、さらに言えば放射線であるかその他の化学的あるいは物理的刺激であるかにもあまり関係がなく、DNA損傷作用の密度のようなものがある限度以内ならば耐えられるということなのだろう。

第2に、生物は環境中に自然の放射性同位体が存在する元素を強く濃縮してためこむことはないように進化してきたようだ。ただしこれは、強く(たとえば1万倍に)濃縮しないということであって、いくらか(たとえば百倍に)濃縮することはある。「生物は自然の放射性物質を濃縮しない」と言ってしまうとまちがいだ。他方、人工放射性同位体を含む元素を強く濃縮することはありうる(ただし実例があるかどうかわたしは知らない)。

もし、DNA損傷修復能力が乏しい生物や、自然の放射性元素を強く濃縮する生物がいたとしたら、すでに滅びているだろうという意味で、これらは適応なのだと思う。ただし、そのような生物が出現したことがあったかどうかは定かでない。