地震の「マグニチュード」と「震度」の関係が単純でないことが話題になっていたのを見た。これを機会に、自然現象(や、一部の社会現象)の大小の規模についての表現について、知識を整理しておきたい。ひとまず、資料調べをせずに、頭の中にあることを書き出してみる。あとで、まちがいがあれば訂正するが、この記事の目的は詳しい議論でなく概括的理解なので、とくに必要が生じなければ大まかなままにしておく。
世の中には、同類だが大きいものや小さいものが起こる現象がある。このとき、現象の大きさ(規模)あるいは強さを区別する尺度がほしくなる。近代科学的な測定が発達するにつれて、尺度は次のように発達してきたと言えると思う。
- 定性的表現
- 大小の比較による階級分け
- 準定量的な階級分け
- 物理量尺度
ここで「準定量的な階級分け」と書いたのは、階級の番号が、厳密ではないが現象の数量に関係すると考えられるようなものをさす。今使われているものでは、地震の震度と、気象のBeaufort風力階級がこれの例となる。人の感覚は数量の相対比率に注目する傾向があるので、階級番号は現象の数量の対数尺度に近くなることが多い。したがって、そこから物理量尺度に進む場合、物理量の対数尺度が採用されることが多い。
もうひとつ、現象全体の強さを論じるのか、観測する場所での信号の強さを論じるのかの区別も、関係してくることがある。
最初の例として、星の明るさの等級を考えてみる。
- 古代の人々が、目で見える星を一等星から六等星まで階級分けをした。
- 近代になって、これはほぼ、星から地球に達する光のうち可視の波長帯の放射照度の対数尺度で等間隔であることがわかった【ここでいう「準定量的な階級分け」にあたる】。そこで等級の定義を【「物理量の尺度」に】変更して、放射照度の対数尺度の実数値をさすことにした。これは地球から見える星の明るさの尺度なので「実視等級」という。
- 星自体の明るさ(星が出している光のエネルギー)が同じならば、光は直進するので、放射照度は距離の2乗に反比例する。星自体の明るさの尺度を得るために、実視等級と星から地球までの距離とから、星から標準の距離で観測したら得られるであろう等級値を求め、「絶対等級」という。
地震の場合は次のようになっている。
- 「震度」は観測場所での地震動の強さの階級である。人の感覚や建物などの被害によって定性的に定義されていた。最近は震度計という機械も使われているが、それは定性的に定義された震度を近似的に得る装置とされており、震度を物理量で定義しなおしたわけではない。震度は大まかには地震動の強さの対数尺度に似ているが、上限が約束によって(今のところ7で)打ち止めになっている。
- 「マグニチュード」は地震本体の強さの階級である。
- マグニチュードの初期の定義は、特定の機種の地震計を震源から標準の距離の位置に置いたらえられるであろう観測値の振幅の対数尺度だった。【これは星の明るさの絶対等級との類推で考えることができる。その地震計の実際の観測値の振幅の対数尺度が実視等級にあたるが、こちらには特に名まえはついていない。】
- マグニチュードの現在の代表的定義(モーメントマグニチュード)は、震源の断層運動の力のモーメントの対数尺度(これは震源の断層運動で解放されるエネルギーの対数尺度ともほぼ比例すると考えられている)を、初期の定義と互換性のあるスケールで表現したものである。 [この部分 2019-01-04 改訂]
残念ながら震度とマグニチュードとの間には、星の実視等級と絶対等級とのような単純な関係はない。
風の強さについては次のような尺度がある。(これはその場の数量であり、発生源から伝わってくるものではない。風力階級は風速に比例でも対数尺度でもなくその中間になっている。)
- 「風速」は速度の次元の量で、国際単位系(SI)の単位はm/sである。慣用でノット(knot)という単位も使われる。気象庁が業務で作っている天気図の風を表わす矢羽の数はノット単位の風速に対応している。
- Beaufort (ボーフォートまたはビューフォート)風力階級は、海上で風速計なしで波浪などの定性的観察から決めることができる風の強さの階級である。近似的に風速に換算することができる。日本のラジオ気象通報の「風力」はこれであり(風速の測定値をこの形に換算して示している)、それに従って作った天気図の矢羽の数はこれに対応している。
対数尺度の話題のついでに、音響関係やレーダー関係で使われるデシベル(dB)にもふれたほうがよいと思ったのだが、今回は見送る。