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シェールガス開発は慎重に

石油に続いて天然ガスも産出量ピークを迎えるのではないかと考えられてきたが、ガスのほうは最近になって産出量がふえる見通しが出てきた。それはおもにシェールガス(shale gas)の開発が可能になったからだ。シェールというのは頁岩(けつがん)という岩石だが、そのうちにメタンを主成分とする天然ガスを含むものがある。とくにアメリカ合衆国の本土に資源量が多いという。カナダにも資源があり、そこでの開発に日本の会社が参画するという。

人類の化石燃料への依存を減らすべきだと考えているわたしも、人間社会はもうしばらく化石燃料に頼らざるをえないと思う。化石燃料のうちで相対的には温暖化の影響が小さい天然ガスがまだあるのは朗報だ。ただし、温暖化が少なくてすむのは、採掘の際にメタンが大気中にもれなければ、という重要な条件がつく。これはなかなかむずかしいと思う。そのほかにも開発に伴う環境問題の心配がある。

シェールガスの開発には、頁岩に割れめ(fracture)をつくるために、水を主とする液体を注入して岩石を割る水圧破砕という作業をする。英語ではfractureから派生したfrackingという表現をすることが多い。

岩盤に割れめがふえることも、岩盤という自然資本の損失であるはずだ。地震がふえたり、その上に建つ建物がこわれたりする可能性もあるだろう。地下水脈が切られてこれまで使っていた水資源が得られなくなるところもありそうだ。しかし、こういったことはあまり問題になっていないようだ。評価が行なわれて可能性が低いことが示されているのかもしれないが、わたしはまだ確認していない。

問題になっているのは、純粋な水ではなく、ものを溶かした水を注入することだ。その内容は企業秘密のことがある。環境中に化学物質を放出する場合にはいろいろな規制があるが、fracking業者はそれへの例外として、物質組成を明らかにしなくてよいという特権をかちとってしまったらしい。物質がわかっていて、それ自体ふつう有害物とは認められないもの、たとえばベントナイトという粘土でも、飲み水に混入すると有害だという指摘もある。さらに、frackingの結果として起きる地下水や川に流れだしてくる水の成分の変化は、注入したものが出てくるのに限らず、岩石から溶け出したさまざまなものが含まれる。その中にはメタン以外にも大気中に揮発するものもあり、大気汚染の原因になる可能性もある。

アメリカ政府も問題を無視しているわけではなく、エネルギー省の下に審議会をつくって検討している。最近、その中間報告が出た。個人ブログを見て知ったのだが、次の報道ウェブページを紹介しておく。

(このウェブサイトはE&E Publishingという会社によるものだ。E&EはEnvironment and Energyだ。イギリスの雑誌Energy & Environmentとは関係ない。)
審議会の中間報告自体は次のものだ。

SEABはSecretary of Energy Advisory Boardで、エネルギー省長官の諮問委員会だ。
中間報告ではいくつかの提言をしている。そのうちには注入する化学物質の情報公開をすべきだということもある。健康影響問題の評価はこれからの課題として残されている。

シェールガスにはある程度頼らざるをえないのではないかと思うが、産出をあせらず、環境に害を与えないように注意しながら進めることが必要だ。