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「著作物等の利用円滑化のためのニーズ」 テレビ番組を録画して教材として使うこと

2015年7月7日づけ、7月27日しめきりで、文部科学省 文化庁 長官官房 著作権課 企画審議係から「著作物等の利用円滑化のためのニーズの募集」が出ていたことを、しめきりの1週間前くらいに知った。

著作権に関する制度の整備は、本来、人類の知識への貢献が目的のはずなのに、ここ数十年、著作物を商品として売る業者の立場ばかりを考えて進められているように思われる。わたしはこれは二つの面でまずいと思う。ひとつは、知的財産は商業財となるほかに公共財として提供されるものも重要だということ。もうひとつは、著作権にかかわる当事者は商品を売る立場だけでなく、著作物を読む・視聴する立場(不満のある表現だが便宜上「消費者」と呼んでおく)もあること。消費者は市場で商品を選択することによって販売業者を通じて意思表示することはできるが、それでは、知的公共財や、業者がまだ商品としていない知的資源に関する意思は伝わらないのだ。

だから、今回の募集もこの主張を伝える機会にしたかった。しかし、わたしは著作権制度については、10年ほど前に(入門書レベルではあるが)勉強したものの、その後、更新していないしだいぶ忘れている。今の法制度をきちんとふまえて、どこが問題で、どう改善すべきか、という文書を、しめきりまでに作ることはできない。しかしまた考えて、専門知識がこの中途半端なレベルにある人こそ公衆参加では期待されているのではないかとも思う。

それで、思い当たるいくつかの局面のうち、大学の非常勤講師として感じた、テレビ番組の録画を教材として使うことをもう少ししやすくしてほしいという希望(「読書ノート」のシリーズのウェブページでふれたことがある)を書いてeメールで送った。

募集のウェブサイトにはExcelとPDFのフォームが用意されていた。わたしの手持ちの技術ではPDFに書きこむのはむずかしいので、(公共部門の仕事で特定会社のソフトウェアのフォームを使うことにはとても不満であり、文書を表計算ソフトウェアの枠にはめることにもとても不満なのだが、今回はそれへのもんくは述べず) xlsx形式のファイルに書きこんでeメールで送った。

その内容を下につける。この字体の部分はフォームに書かれていた問いである。

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(1)どのような種類の著作物等をどのような場面,方法で利用するにあたり課題がありますか。現在又は将来想定される課題について具体的に御記入ください。また,そのような利用ができないために,既にビジネスに支障が生じている,又は支障が生じうることが考えられる場合は,それについても具体的に記載をお願いします。

テレビの教育番組、ドキュメンタリー番組、報道番組の一部などを録画して、大学の授業の教材に使うことがある。授業時間に見せることは教育用利用で問題ないと思われるが、学生に自習として見ることを勧めるのがむずかしい。大学の現場ごとの判断によるが、図書館業務と考えられた場合、図書館で上映可と明示された製品以外のビデオを保管・用することはむずかしいようである。

(2)(1)で挙げる利用は,現在の著作権法のどの規定(権利に関する規定・権利制限規定)との関係で課題がありますか。

映画の著作物に関する著作権著作隣接権が、商品化を念頭に置いてつくられており、公共的知識伝達にそぐわないのではないか。ドキュメンタリー番組などはビデオ商品として採算がとれる見通しのないものが多いだろう。著作隣接権者(出演者など)が多すぎて許諾確認が困難なことがあるとも聞く。非商用を前提としたルールづくりが必要と思う。

(3)(1)・(2)で挙げられた課題の解決方法について
①権利制限規定の見直しによって解決すべきであるとお考えの場合,具体的にどのような制度を望みますか。また,そのような制度設計が望ましいと思われる理由を述べてください。

教育用の許諾不要の範囲は現実にはファジーだと思うが、大学が授業関連の自習用に提供する場合について、ここまでは許諾なしで合法、その他はどの権利者に許諾申請すること、という指針が明示されるとよいと思う。また権利者の側にこまごました許諾申請を軽くこなす体制を整備することを政策側からも推進してほしい。

②権利制限規定の見直しによって解決すべきであるとお考えの場合,(1)に挙げた利用が著作権者等の利益を不当に害さない(著作権者等の正規のビジネスとの競合,衝突の有無や度合いを含む。)と判断する理由は何ですか。

ビデオ商品があって発売中の場合は、それを買うまたは借りる形をとればよいので、ここで問題にしているのは、商品化されなかった番組、またはもし商品化されていても絶版となっている(オンデマンド送信の対象からもはずされている)場合に限るとしてよい。

著作権の集中管理の促進など,ライセンシング体制の充実によって解決すべきとお考えの場合は,具体的にどのような環境整備を望みますか。

許諾使用料を有料とする場合、その支払い手続きが煩雑にならないような制度設計をくふうしてほしい。映像の公開のさまたげとなっているのが出演者などの著作隣接権者の許諾を得ることがむずかしいことであれば、番組の種類、出演者の役割、供用組織の利用条件などに応じて、許諾が得られなくても供用する道を開いたほうがよいのではないか(異議申し立て審査の道も必要となるが)。

④その他の解決方法について御提案があれば,理由とともに具体的に御記入ください。

NHKのものに限らず、商品化される可能性が乏しい番組について、多くの受益者が広く浅く負担することによって、公共的アーカイブを維持・供用するのがよいのではないか。(この件はささやかながら、著作権制度の枠の中でおさまる問題ではなく、それも人類の知的資源を活用するための手段のひとつという視野が必要な問題の例だと思います。)

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なお、文化庁あてのメールではふれなかったのだが、わたしがテレビ番組を録画してDVDディスクで持っているものは、(VHSで録画してダビングしたものと、チューナーつきパソコンで録画したものがあるが)みんな、アナログ放送の時代のものだ。ディジタル放送を録画するシステムには複製をじゃまするしくみがあり、とくに安いパソコン用製品の場合は録画したそのパソコンで再生することはできるが他の機械に移すことができなかったりする。ビデオ商品となる番組に関して私的複製がでまわるのを防ぎたい意図はわかるのだが、商品とならない番組に関しては、せっかく作った著作物が知られる機会を乏しくしていると思う。