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AGU (アメリカ地球物理学連合) Fall Meeting参加

2012年12月3日から7日までサンフランシスコで開かれたAmerican Geophysical Union (AGU、アメリカ地球物理学連合)という学会の大会に参加した。主目的は、気候改変技術(杉山昌広さんの表現では「気候工学」)に関する調査について、共著者のひとりとしてポスター発表することだった。

当然ながらアメリカ合衆国に入国したわけで、石油を消費する飛行機にも乗ってしまったのだが、滞在中はほとんど会場とホテルとの間を往復してその付近で食事をしただけで、テレビなどでアメリカのニュースを見ることもほとんどしなかったので(ネットで日本の主要ニュースは見ていたのだが)、「アメリカに行った」と言いにくい。サンフランシスコの都心部の狭い範囲に行ったとは言える。

AGU(ウェブサイト http://www.agu.org )は、基本的には地球物理学(物理を手段とする地球科学)に関する学会である。Unionという名まえになっているが、個人参加による単一の法人で内部は一体の運営がされている。ただし専門分科による11のSectionと分野横断的な12のFocus Groupがあって、会員の多くはその1つから3つぐらいで活動していて、その他はあまり知らないことが多いと思う。地球物理学のうちでも気象学者は、気象学らしい話題ならばアメリカ気象学会(American Meteorological Society, http://www.ametsoc.org )に研究発表の場を求めることが多く、AGUのAtmospheric Sciences (大気科学)のsectionはどちらかというと気象と他の分野(たとえば地球化学)にまたがる話題の場として期待していると思う。地震学も似た状況だと思う。他方、伝統的に地球物理学に含まれず別の学会ももっている地球化学、地質学、生態学などから参加する人もいる。

AGUはいろいろな会議を開いているが、学会全体の「大会」と言えるのは年1回の「Fall Meeting」だ。2002年まではSpring Meetingもあって、春がアメリカ東部、秋が西部という慣例があったが、2003年からは春は他の学会との合同大会となって毎年趣向を変えている。秋のほうは、今AGUのウェブサイトで見られる2000年以後はずっとサンフランシスコで12月上旬から中旬に開催している。この時期をwinterでなくfallというのがアメリカの人にとってふつうなのかは確認していない[注]。ただしサンフランシスコに限っては、(平年値を見ると)同時期の東京よりも気温が高く、(今回の体験で、雨がちなのだが、雨が降っていない昼間ならば)屋外で食事をするのが快適なほどなので、「秋」でよいような気もする。なお、この大会の時期はほぼ毎年、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)の締約国会議(COP)と重なっていて、どちらに行くか迷う人もいる。

  • [注] [2017-12-16補足] 季節の定義はいろいろ考えられる([2017-08-14の記事]参照)。気象の人がデータを整理するときの習慣では北半球の秋は9・10・11月とすることが多いのだが、西洋での季節の「天文学的定義」と言われるものは spring が春分から始まるものなので、そちらにしたがうとすれば冬至の前までは fall でよいのだろう。

会場はMoscone Centerという会議場で、サンフランシスコの都心部の、BART (この都市圏の鉄道)・地下鉄・ケーブルカーの集まるPowell Street駅から、いちばん近いところどうしならば歩いて5分くらいのところにある。道をへだててSouth、North、Westの3つに分かれている。(ちょうど1年前、京都大学で、ある学会に出席したが、会場が吉田南キャンパス(昔の教養部)、吉田キャンパス(本部)、それに東大路の西側の吉田キャンパス西部にわたっていた。それは小さい学会だったので複数のキャンパスで同時に行事が進行することはなかった。AGUの会場の位置関係もこれと似ているのだが、行事が同時に進行する。) Southで受付、ポスターセッション、少数の口頭発表セッション、Northで大人数の講演、企業などの展示、Westで大部分の口頭発表セッションが行なわれた。

Westは3階だてということになっているが、各階の天井が高く、オフィスビルならば6階だてくらいの高さがある。いまどきはどの分野の学会でもそうだと思うが、地球科学の研究発表では昔から図を画面で見せることが重要なので、大きなスクリーンをもつこの会場が好まれているのだと思う。会場のパソコンはローカルネットでつながっていて、発表者はあらかじめ控室でプレゼンテーションファイルをアップロードしておくことになっている。有効なファイル形式はPowerPointとPDFとKeynoteとなっている。会場にあるパソコンはMacintoshで、Windowsユーザーのうちには操作にまごついている人もいた。(この学会の発表者には世の中一般よりはMacユーザーが多いようだ。MS-DOSよりもきれいな図を扱えた初期のMacを好んだ人と、Unix系OSを使い慣れていてMacOSBSDベースになった機会に使い始めた人を含めて。) 口頭発表セッションの時間帯は午前8時から午後6時まで、昼休み1時間20分と中間の休憩20分をはさむ2時間ごとの午前・午後各2こまに分けられていて、会場間を移動する人もあるので時間厳守となっている。各セッション内の構成は質疑討論と交代の時間を含めて各15分の8件が原則のようだが、セッション企画者の判断で件数を変えたり招待講演者に長めの時間を与えたりすることもある。

ポスター発表はすべてSouthの大ホールで、1日ごとに入れかえとなる。大部分のセッション企画は口頭発表とポスター発表にまたがっていて、初めからポスターで申しこむ人もいるが、口頭発表の時間が限られているので各セッション企画者の判断でポスターにまわされることもある。同じ主題のポスターセッションと口頭発表セッションは同じ日のずれた時間に設定されることが多いが、会場が別の建物なので、口頭発表を聞いた人がポスターを見に行くとは限らないという欠点がある。他方、ポスター会場を歩きまわれば多数の分野の話題にふれることができるのはこの配置の長所かもしれない。

Northで開かれていた展示は、野外観測や分析の機器、ソフトウェア、鉱物標本、出版社などの企業のブースのほか、研究機関、National Academy of Sciencesなどの学術団体や、National Science Foundationなどの研究資金提供団体が事業を紹介するブースもあった。日本からは海洋研究開発機構が出展していたがその他は見あたらなかった(見落としたかもしれない)。ドイツは複数の団体が共同でブースを出していた。大学院生を呼びこみたい大学によるブース群もあった。

参加人数を調べていないが、口頭発表だけでも約20会場でそれぞれ50人くらいが参加したセッションが同時進行しているという概算で発表時間帯は常に約千人がいたことになり、ポスター発表や展示やロビーを含めると常にその倍以上の人がいただろう。

セッション番号は、最初に1文字または2文字のアルファベットでSectionやFocus Groupなどによる分類(UはUnion全体)、それから数字1-5で何日めか、続く数字1-4で時間帯(口頭セッションの4つの時間枠を標準として他もそれに準じる)、それからアルファベットで同分類・同時間帯の中の区別を示すようにつけられている。

わたしは金曜のポスター発表以外の大部分の時間、口頭発表セッションに出席した。ただし残念ながら質疑討論で発言はしなかった。質問できるほど知識がない場合もあったが、質問はできても答えが聞き取れる自信がなく遠慮してしまったこともあった。

ひとまず、出席したセッションを列挙する。それぞれの内容や感想は、追って別記事として書き、ここからもリンクするようにしたい。

  • 1日め(12月3日)
    • A11M. Atmospheric and Oceanic Variability Associated With the MJO in the Tropical Indian and Western Pacific Oceans (I)
    • GC12B. Sustainable Future: Climate, Resources, and Development [持続可能な未来 -- 気候、資源、開発] (I) [12月20日の記事1]
    • PA13B. Countering Denial and Manufactured Doubt of 21st Century Science [21世紀の科学に対する否認とでっちあげられた疑いに対抗する] (I) [12月11日の記事2]
    • GC14B. Hotspots on a Changing Planet: Identifying Water-Energy-Food Security Challenges Under a Changing Climate (I)
  • 2日め(12月4日)
    • A21I. Atmospheric Feedbacks and Climate Change: Observations, Theory, and Modeling [大気のフィードバックと気候変化: 観測、理論、モデリング] (IV) [12月17日の記事2]
    • GC22B. Communicating Climate Science -- Seeking the Best of Old and New Paradigms [気候の科学を伝える -- 新旧のやりかたからよいものをさぐる] (I) [12月14日の記事1]
    • IN23E. Data and Service Brokering: Mediating Interactions Across Diverse Resources [データ・サービス仲卸し: さまざまな資源の相互作用を仲介する] (II) [12月17日の記事1]
  • 3日め(12月5日)
    • B31G. Integrating Microbial Processes Into Ecosystem Models of Carbon and Nitrogen Cycling (I)
    • U32A. Towards a Global Cyberinfrastructure for the Geosciences [地球科学の全地球規模の情報基盤をどうつくるか] [12月17日の記事1]
    • GC33E. Climate Extremes and Impacts: Can Big Data Mining and Fusion Help Reduce Uncertainties? (I)
    • GC33F. Construing Uncertainty in Climate Science [気候の科学のうちの不確かさをどう説明するか] (I) [12月15日の記事1]
    • B34E. The Bioatmospheric N Cycle: N Emissions, Transformations, Deposition, and Terrestrial and Aquatic Ecosystem Impacts [生物圏と大気の窒素循環: 窒素の放出、変換、沈着、陸と水圏の生態系への影響] (I) [12月11日の記事1]
  • 4日め(12月6日)
    • B41H. The Bioatmospheric N Cycle: N Emissions, Transformations, Deposition, and Terrestrial and Aquatic Ecosystem Impacts [生物圏と大気の窒素循環: 窒素の放出、変換、沈着、陸と水圏の生態系への影響] (II) [12月11日の記事1]
    • この間の時間に企業などの展示を見た。
    • U44B. Communicating Geohazard Risk Assessments: Lessons Learned From the Verdicts in the L'Aquila Earthquake Case [地学的災害のリスク評価をどう伝えるか -- ラクイラ地震の件の判決からの教訓] [12月10日の記事4]
  • 5日め(12月7日)
    • GC51H. The Anthropocene [人類世]: Confronting the Prospects of a +4°C World [+4℃の世界という見通しに立ち向かう] (I) およびGC53C 同(II)ポスターセッション [12月10日の記事3]
    • GC53D. Climate Engineering and Carbon Sequestration Monitoring [気候工学および二酸化炭素隔離のモニタリング] (II) および GC51A 同(I)ポスターセッション [12月10日の記事2]