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AGU GC53Dほか: 気候工学 (気候改変技術、ジオエンジニアリング)

AGU Fall Meeting [前の記事参照]から。

地球温暖化を軽減するには二酸化炭素などの温室効果物質の排出を減らすのが本筋であり、それは「緩和策」と呼ばれている。もっとあらっぽい方法で地球温暖化を軽減しようとする方法をgeoengineeringということが多いが、このことばはトンネルを掘る技術などもさすので、とくに気候関係の...ということでclimate geoengineeringという表現も使われている。日本語では、わたしはこのごろ「気候改変技術」という表現を使うことが多いが、ここでは杉山昌広さんに合わせて「気候工学」という表現をしておく。

気候工学の提案は、大きく分けて

  • 気候システムの放射エネルギー収支を変えようとするもの
    • その大部分は太陽放射の反射をふやすものであり「太陽放射管理」(solar radiation management、SRM)と呼ばれる
  • 大気中の温室効果気体の量を変えようとするもの

がある。

今回わたしが発表したポスター(杉山さん、黒沢厚志さん、都筑和泰さん、森山亮さん、石本祐樹さんと共著)は、SRMのうちとくに成層圏への硫酸エアロゾル注入について、実行費用の見積もりと、さまざまなリスクの可能性の列挙をしたものである。これを「Confronting the Prospects of a +4°C World」というセッション[次の記事参照]に出した。われわれの調査は、環境省環境研究総合推進費の「地球規模の気候変動リスク管理戦略の構築に関する総合的研究」http://www.nies.go.jp/ica-rus/ の一環であり、地球温暖化を「危険」が発生しないレベルに抑制できそうもないという認識のもとで、気候変動のリスクと対策のリスクをあわせて評価する際に、対策のうちに気候工学も入れておくべきだという考えによるものだったからである。このセッション(口頭発表はGC51H、ポスターはGC53C)のうちには、ほかにも気候工学に言及する発表はあったけれども、それを主題にするものはわれわれの発表だけだった。

気候工学に関する発表は「Climate Engineering and Carbon Sequestration Monitoring」(口頭発表はGC53D、ポスターはGC51A)に集中していた。

ただし、このセッションの主題は二酸化炭素回収隔離貯留(CCS)のモニタリングも含んでいた。これは二酸化炭素を送りこむ先としての地層の適性の判断や、送りこまれた結果として地層のすきまに二酸化炭素がどのような状態でたまっているか、漏れていないか、などを測定する技術に関する話題だった。ふつう緩和策に含める燃焼排気からの二酸化炭素回収と、気候工学のうちのCDRに含める大気からの回収との両方にかかわりうるものだが、どちらかというと前者を想定していると思われた。Daley (Lawrence Berkeley Lab)が石油増進回収に伴って発達してきた地下モニター技術と現在の課題をレビューした。その他の発表は具体的な技法に関するもので、地震波の応用が多かった。

明らかに気候工学に関する発表は、放射収支を変えようとする技術に関するものだった。

Kristjansson (Oslo大学)は、雲を操作する方法のうちで、凝結核をふやして下層雲の雲粒を細かくすることによって太陽放射をふやす方法(SRMの一種)のほかに、氷晶核を与えて上層雲(巻雲)の雲粒を大きくして熱赤外放射収支を変える(温室効果を減らす)方法についても、数値実験に基づいて論評していた。

そのほかはみなSRMに関するものだった。

Kravitz (Carnegie Institution)が、多数の気候モデルチームが参加したGeoMIP (http://climate.envsci.rutgers.edu/GeoMIP/ )のG1実験の結果を報告した。これの設定は二酸化炭素濃度4倍の温暖化を全球平均で打ち消すように「太陽定数」を変えるというもので、反射をふやす実際の技術を特定していない。基準となる(現在の)気候に比べて、低緯度で低温、高緯度で高温になる。降水量は少なめになる(対流圏の成層が安定化するので)。火山噴火後の経験などから「モンスーンが弱くなる」ことが期待されたが、実験結果ではインドやサヘルの6-8月の降水量には決まった傾向は見られない。G1実験の想定は定常応答を見るものなので火山噴火への過渡応答と違うのかもしれない、と言っていた。(ただし図を見ると東南アジアで降水量が減っている。このことを質問者が指摘し、講演者も今後検討が必要だと言っていた。)

Bala (Indian Institute of Science)は、成層圏エアロゾル注入の緯度分布を変えることによってよりよく温暖化を打ち消すことを想定した大気大循環モデル実験結果を報告した。McCuster (Univ. Washington)は、SRMを停止したときの急な温度上昇を定量的に示した。Tilmes (NCAR)は、成層圏エアロゾル注入が行なわれたという想定のもとで、ハロゲンを含む分子との反応によって成層圏オゾンの変化が大きくなりうることを示した。

ポスターでは、海水を噴霧して海塩粒子をふやすことによって下層雲を操作する技法に関する発表が複数あった。Latham (NCAR/Manchester大学)を含むグループの発表が目立った。Stevens (Dalhousie大学)は、エアロゾル粒子の併合に関する理論計算により、適切な数の凝結核を与えることはなかなかむずかしく、すなおにやると5分以内に個数が半分くらいになってしまうと言っていた。また、海上だけ雲をふやすと海陸間の熱的コントラストが変わり循環が変わることも(未検討だが)心配だと言っていた。