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AGU GC51Hほか: 人類世、+4℃の世界

AGU Fall Meeting [12月10日の記事1参照]から。

The Anthropocene: Confronting the Prospects of a +4°C World」というセッション(口頭発表GC51H、ポスターGC53C)は、別々に提案された2つのセッションをくっつけたもので、両者の間で気分ははかなり違っていた。

Anthropocene (人類世)というのは、生態学者Eugene Stoermerが言い出して、大気化学者Crutzenが2002年にNatureに出した評論で有名になった用語で[この部分2013-09-18, 2016-02-08改訂]、人類による地球環境の改変が大きいので、地質年代でいう「世」の変わりめだと考えるべきだろうという提案である。ただし、いつを変わりめとするかは特定されなかった。

地質学者Zalasiewicz (Leicestter大学)と古生物学者Bernosky (California大学Berkeley)のそれぞれの発表は、地層に「人類世」に対応する「人類統」を定義することができるかという話だった。人類の影響が明確になってからの時間は地質年代としてはとても短く、海底堆積物には底生生物によるかきまぜがあるし、化石の出現の終わりは絶滅と一致しないので、境界を認めることはむずかしい。ただし、窒素(肥料)、放射性同位体、プラスチックの微粒子、道路舗装の層などに注目すれば、およそ1950年ごろを境界とみなすことができるかもしれない。なお、ポスター発表には、この話題に関連して、各地域の地層や考古遺物の調査によって、人類の影響がいつから現われているか見たものが多かった。

Kaplan (スイス連邦工科大学Lausanne)は、土地利用の変遷について述べた。他の研究者による復元推定では、産業革命前の土地被覆は自然状態に近かったとするものが多いが、Kaplanは3000年前から地中海沿岸やインドや中国の広い面積が人間活動によって改変されていたとする。そして、農業開始とともに大気中の二酸化炭素やメタンがかなり増加していたというRuddimanの説[Ruddiman (2005)の読書ノート]を支持する。わたしの印象としては、人間活動によって土地利用が改変された面積は確かにかなり大きいと思うのだが、それは自然林が二次林に置きかえられたような場合も含むので、Kaplanの言う改変がすべて森林破壊ではないと思う。Kaplanはまた、最終氷期最盛期のヨーロッパについて、気候からのモデルでは森林となるところで証拠からは草原とみられるところが多いことについて、人が(おそらく狩猟のために)火を使った影響だと推測している。これも一面もっともだと思うが、火がすべて人間によるものとは限らないとも思う。

Haff (Duke大学)は、人が意図的に固体のものを継続的に運ぶ流れを作ることを、流体の対流とのアナロジーで考え、需要と供給を制御する価格という変数が、対流の場合の境界層の厚さと似た制御パラメータだと考えていた。そして、地球環境問題の解決には、人間社会による物質代謝を活発化させたほうがよく、そのためにはエネルギー消費はふえたほうがよいのだと言っていたが、その理屈も、エネルギー資源をどう確保するつもりなのかもわからなかった。

Vidas (ノルウェー、Fritjof Nansen Institute)は、現在の国際海洋法が、海水準の変動が少ない完新世の環境を前提としてできていることを指摘した。海水準が変わると、領海や経済水域の基準となる海岸線も変わってしまう。ときには陸地としての国が消滅してしまうこともある。まだそれに対応できる法学的な枠組みがない。

後半の「+4℃の世界」というのは、温室効果気体の排出を減らす国際合意がなかなか得られないので、2009年ごろ考えられてきた「全球平均気温の産業革命前からの上昇を2℃以内にくいとめる」ことは無理と思われ、このままでは4℃くらいの上昇を覚悟しなければならなくなりそうだ、という話である。

Watson (イギリスDEFRA、元IPCC議長)の発表はU32Bの特別講演の短縮版だったらしい。もはや+2℃も、二酸化炭素濃度450ppmあるいは他の温室効果気体とエアロゾルを含めた人間活動起源の放射強制の二酸化炭素450ppm相当での安定化もむずかしいという見通しのもとで、しかし+4℃もやむをえないとあきらめないで、炭素の価格づけや人々の行動の変化を促進するような社会的手段と、技術的手段をあわせて、緩和策に取り組むべきだと主張していた。技術的手段の中には、とくに強調していなかったが、核分裂の利用は当然のように含まれていた。さらに、CCS(炭素回収隔離)などのまだ確立していない技術についてアポロ計画のような努力を向けるべきだと主張していた。

Bierbaum (Michigan大学)は、今も貧富の格差のある世界で、温暖化は貧しい国に大きな被害を与えると考えられるので、世界は+4℃に適応できるか疑問であり、緩和策と適応策の両方に力を入れる必要があると主張した。We must avoid the unmanageable and manage the unavoidable. と言っていた。

Kopp (Rutgers大学)は、社会的費用を考慮し、緩和策・適応策・気候工学などのさまざまな政策のリスクやトレードオフも考慮した費用便益分析が必要だと述べた。ただし、今までの統合評価モデルは経験的事実と合わないところが多く、また大がかりな気候モデルによる気候感度は分布のすその部分を表現していないようなので、社会科学・自然科学の両面でモデルの改良が必要だと主張していた。

Kahan (Yale大学)は欠席でセッション企画者のGulledge (Center for Climate and Energy Solutions)がその報告を紹介した。これは人々が温暖化問題をどう認知しているか、そして温暖化に関する科学的認識をどう伝えたらよいかという話だったので、それを主題とするセッションの話題といっしょに別記事[12月14日の記事1]で紹介したい。