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AGU A21I: 気候変化にかかわる大気のフィードバック

AGU Fall Meeting [12月10日の記事1参照]から。
「Atmospheric Feedbacks and Climate Change: Observations, Theory, and Modeling」という表題のセッションは、口頭発表がA14C, A21I, A23G、ポスターがA21D, A21Eがあったが、このうちA21Iに出席した。

Ghatak (Rutgers大学)は、温暖化が北極圏で強化されるという問題について、冬の水蒸気と下向き長波放射とのフィードバックに注目した。データとしてJRA25 (日本の気象庁と電中研による大気データ同化)を使ってくれたのはうれしいのだが、JRAの下向き放射は計算値でその材料となった水蒸気量と相関があるのはあたりまえであり (雲が違うふるまいをしていれば別だが講演によれば雲には明確な変化がなかった)、因果関係について何か言うのはむずかしい。

以下は各講演についてわたしが理解した限りの要約で、わたしからの意見はとくにない。

Stephens (JPL)のいう「スーパー温室効果」というのは、地球全体としての暴走温室効果ではなくてそれぞれの場所について、地上気温が上がると大気上端から出ていく長波放射が減る状況をさしている。ただし雲のない部分の放射を問題にする。衛星のAIRSセンサーによる放射と水蒸気のデータを解析すると、対流圏上部(100 - 500 hPa)の水蒸気が多いところでこの状況が生じている。これは熱帯で温暖化を強化するフィードバックになっているはずである。

Dessler (Texas A&M)は地上気温に対する雲のフィードバックを評価している。ただし2000-2010年の年々変動を見ているのでシグナルはおもにENSOであり温暖化の長期傾向に対するフィードバックとは違う可能性がある。Terra衛星のMODISセンサーで雲の情報を得て放射伝達を計算する方法と、CERESセンサーでエネルギー収支をみる方法を併用する。短波放射については両方の結果は一致してフィードバックは正である。長波放射についてはCERESによれば正、MODISによれば負となった。結果はIPCC AR4の不確かさを含む議論を変えるものではない。

Gordon (LLNL PCMDI)は、雲の光学的厚さが気温に及ぼすフィードバックが気候モデルの中でどうなっているかを、CMIP3に関連して行なわれたCFMIP1に参加した7つのモデルのコントロール実験と二酸化炭素倍増実験に基づいて論じた。これは寒い地域では正のフィードバックになるが、暖かい地域ではあまりきかない。コントロールの気候の中の変動を見ても二酸化炭素倍増への応答を見ても定性的には同じだが、前者のほうがフィードバックが強く見える。

Fasullo (NCAR)の話は、モデルが雲を含む大気のフィードバックをうまく表現しているか評価するのに、雲ではなく対流圏中層の相対湿度に注目しようというもの。大規模循環の下降域では湿度が低くなる。CMIP(3,5)の多数のモデルを比較すると、この特徴の再現がよくないモデルでは、雲の分布もよくない (たとえば、太平洋の熱帯収束帯が、実際は赤道の片側だけなのに、両側に現われたりする)。MIROC (CMIP3のhires)はハドレーセンターやNCARのモデルとともにうまくいっている例に含まれていた。気候感度(二酸化炭素倍増に対する定常応答)と比べると、比較した範囲では、乾燥域のバイアスが小さいモデルほど気候感度が高い傾向がある。

Feldman (Lawrence Berkeley Lab)の話は、下層雲(背の低い対流を含む)のフィードバックを評価する方法について。衛星で地球からの放射を波長域を細かく分けて観測することで情報が得られると期待する。気候モデルの結果を仮に真とし、MODTRANというプログラムで放射伝達を計算して、衛星で得られる情報をシミュレートする。このような観測は有効と考えられるが、較正が一定したものが30年程度継続される必要がある。

Po-Chedley (Univ. Washington)の話は、モデルでは温暖化が熱帯対流圏上部で地上よりも強いが、観測では必ずしもそうなっていないというくいちがいについて、新しいデータによる検討。観測データは衛星のMSUセンサーによる温度(T24とTLT、RSSとUAHの両方)を使う。モデルのほうは、CMIP5の大気海洋結合モデル実験と、AMIPの観測された海面水温を与えた大気モデル実験の結果をもとに、MSUによる観測値をシミュレートする。AMIPの結果は観測と似ているが、CMIP5は対流圏上部の感度が大きい。その原因はいくつかの可能性があってまだしぼりこめない。ここまでの結果をEnvironmental Research Lettersに出した。