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都心の国家公務員宿舎は業務継続計画の立場で活用を

政府(財務大臣)が東京の都心部にある国家公務員宿舎を手離す(売る)決断をした、と報道されている。慣例で「宿舎」と呼ばれているがその多くは実質的に賃貸住宅だと思う。賃貸料がその地域の相場より安いことが公務員の特権として非難されているにちがいないのだが、この件はそれとは違う観点で判断するべきだと思う。

緊急対応用は例外として国が持ち続けることになっているが、これはおそらく、24時間体制で警戒するために深夜・早朝も交代勤務があり、しかも非番のときに呼び出されることがあるような職種の職員のためのものだろう。ほんとうに「宿舎」というべきものかもしれない。

しかし、緊急事態への対応はそれだけではない。「業務継続計画」ということばが最近聞かれるようになった。英語のbusiness continuity plan (BCP)のほうが先らしい。業務の中心(会社でいえば本社)が災害などによってこわれても業務が全部止まってしまわないようにするための対策をあらかじめ用意しておくことだ。東日本大震災を受けて、政府がこれを用意していなかったことが問題になった。

災害などの緊急時にこそ、政府の活動が必要だ。ただし緊急事態にはいろいろある。都心部に公務員宿舎があったとして、それが壊滅し、遠くから通勤していた人だけが生き残る可能性もある。役所の本庁自体がこわれて、地方事務所で業務を再開しなければならない可能性もある。

しかし、都心部では被害があるとしても業務にさしつかえない程度だが、東京通勤圏の交通網の大部分が止まる、という事態は、さまざまな理由で起こりがちなことであり、今年はすでに3月の東日本大震災と9月の台風15号のときに起きている。それに備える意味で、職員のうちかなりの部分が歩いて通勤できる範囲にいることは、「望ましい」というよりもむしろ「必要だ」というべきではないだろうか。【そして、そのために職員に都心の相場の家賃を払わせるのは筋ちがいだろう。】

どの職場の業務を止めないことが重要かは、国全体としての価値判断をして決めてほしい。おそらく2段階にして、災害時にとくに重要になる業務に手厚くし、それ以外の業務も最小限の人を確保するようにするのがよいと思う。職場のうちだれが宿舎に住むかは、おもに個人の事情によるなりゆきまかせでよいのではないだろうか。前に述べたように、近くに住まない人のほうが必要となる緊急事態もありうるのだから。

公務員宿舎は、必ずしも国の所有物である必要はない。別の主体がもつものを国が賃貸契約してもよい。ただし、賃貸契約は緊急時でなく平時にするものであり、国は権力者ではなく民事契約の主体としてふるまわなければならない。国が契約更新をしようとしたとき、貸し主は、もっと高い賃貸料を払う借り主がいるとか、自社で使いたいとかの理由で、ことわる自由がある。【また、所有者には不動産を売り買いする自由もあるから、所有権が、たとえば、外国の政府と密接な企業や、政府が利害関係をもつべきでない業種の企業に移る可能性もある。】 そうすると国はあらためて本庁に近いところに不動産をさがし、職員を引っ越させなければならない。このリスクを考えると、公務員宿舎の不動産を国が所有することは、それを売って得られる収入よりも大きい価値があるのではないだろうか。【ただし、この段落で述べたことは、この文章全体の主張にとって必須の部分ではない。】

【朝霞宿舎については、もし霞が関が壊滅したとき代わりとなるべき場所が朝霞から歩いて通勤できる範囲にある場合に限って、ここまでの議論が適用される。そうでなければ、職員住宅が必要かどうかの一般論になる。】