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大学の日本語名についてのおぼえがき (「東京都立大学」をめぐって)

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたか、かならずしも しめしません。】

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[2020-02-08 都立大学は復活するのか? ともかく「都立大学は都立大学駅前にありません」は復活する。]の記事を書いたとき、日本語での大学の名まえについて、いろいろ考えたのだった。そのときのメモをすこし整理して出しておくことにする。

「首都大学東京」は変な名まえだ、と、まえから言っている([(わたしが出あった問題な日本語) 首都大学東京])。しかし、「東京都立大学」という名まえも、考えかたによっては、変な名まえだ。設置者が「東京都」であることと、団体の類別が「大学」であることだけを言っていて、その両方をとりのぞくと、無になってしまう。しかし、これはながらくみとめられてきた。

これをきっかけに、大学の名まえについて考えてみる。社会のなかの団体(人びとからなる組織)の名まえの例でもある。

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大学の名まえは、団体の類別名としての「大学」をふくむことに、日本ではきまっている。そして、日本語では(漢語でも同様)、「大学」が最後にくることによって、名まえのそれ以外の部分は、「大学」を修飾する構造になる。

日本の大学の名まえはこの構造をきちんとまもっている。これは、設置申請をうける国の窓口が、大学の名まえがそうなっていないと、申請をうけられないと言ってさしもどしたのだろうと思う。大学院だけをもつ大学であっても、「大学院」で終わる名まえはみとめられなかったようで、「大学院大学」でおわる名まえになっている。

ところが「首都大学東京」はみとめられてしまった。申請者が石原 慎太郎 都知事だったので、役所がいつものお役所しごとをするのをためらったのだろうか?

(わたしは、「大学院大学」は単に「大学院」でよかったと思うが、「首都大学東京」は申請をさしもどすべきだったと思う。)

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大学には設置者がある。日本では、いまでは大学をもつ主体は大学をもつための法人であることが多いが、その法人をつくった主体を設置者とよぶべきだろう。国立では日本国、公立では都道府県や市町村だ。正式名称の部分になっていなくても、設置者名を大学の名まえのまえにつけてしめすことがある。

ときどき、大学の正式名称のはじめの部分に、設置者をしめすことばがつくことがある。東京都立大学の「東京都立」はその例だ。(考えようによっては、「東京」は地名で、「都立」が設置者をしめすことばだということもできるが。)

しかし、公立大学であっても設置者をしめすことばがはいらないばあいもある。たとえば、会津大学は福島県立だが、大学の正式名称に「福島県立」ははいっていない。

東京都がつくった大学である「産業技術大学院大学」は、2020年の4月から「東京都立」 を名称にふくめることになったそうだ。(しかし、ただでさえ長いから、実用上は省略されるだろう。)

公立大学には「公立」ということばをいれるものもある。単純な都道府県立や市町村立でなく、複数の自治体が共同で設置したもののばあいがおおい。

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大学の名まえを構成する要素には、類別名と設置者のほかのものは、つぎのように整理できるだろう。

  • 地名
    • 必ずしも設置者ではなく、都道府県名や市町村名がはいることもある。
    • 地方名。例、「東北」。
    • 所在地名。移転して旧所在地のこともある。 例、「一橋」。
  • 教育内容をあらわすことば
    • 例「工業」「電気通信」
    • (複数の要素がつづくばあい、日本語の複合語では助詞が消えるので、「AのB」か「AとB」かはわからなくなる。)
  • 教育をうける人の属性 ... 例「女子」
  • その他の固有名
    • 人名 ... 例「北里」
    • 元号 ... 例「明治」
  • 大学の特徴をあらわすことば、理想をあらわすことば、など。

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きちんと列挙してかぞえたわけではなく、思いあたるものの印象にすぎないが、大学の名まえは次のような構造のものが多いと思う。

  • 国立大学では、地名+「大学」、地名+教育内容+「大学」が多い。地名のつかない「電気通信大学」は例外的だ。
  • 公立大学では、設置者+「大学」、設置者+教育内容+「大学」が多いが、設置者をふくめない 地名+「大学」、教育内容+「大学」のこともある。
  • 私立大学は多様で、まとめにくい。

設置者名のはいりかたは、つぎのような傾向があると思う。

  • 公立のうち、都道府県立や市町村立では、設置自治体名+「立」を大学名のはじめにつけるばあいが多い。
  • 公立で「公立」ということばをいれるばあいは、地名+「公立」+「大学」という構成が多い。
  • 国立では「国立」をはじめにつけるものはなく、ふくむものも横浜国立大学だけだ(横浜の事情はあとの5節でのべる)。
    • (大学共同利用機関の研究所には「国立」をはじめにつけるのがある。設置者のちがう類似のものとの区別をしめしたかったか、英語のNational (USAでは「全国」のような意味で国立にかぎらない) にならったものか?)
  • 私立では「私立」をつけるものはない。学校法人名の固有名部分をはじめにつけるものはよくある(「立」はつかない)。

「都道府県の固有名部分(類別名なし) + 「大学」」は、大部分は国立大学だ。青森大学など、私立のばあいもある (青森県にある国立大学は弘前大学だ)。長野大学は公立大学だ(ただし県立ではない)。石川大学、栃木大学は存在しない (国立で、金沢大学、宇都宮大学がある)。

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横浜には、横浜国立大学、横浜市立大学、神奈川大学 (私立)があるが、いまの大学の制度(当時「新制」)ができたとき、この三者がいずれも「横浜大学」としようとしてぶつかり、いずれもこの名まえをつかわないことで合意したのだそうだ。横浜市立大学は、公立大学ではふつうの「設置者名+「大学」」なのだが、横浜国立大学は「地名+設置者名類別+「大学」」というめずらしい順序になった (ただし、ちかごろ、「公立」がはいる大学名がふえて、それを同類とみなせばめずらしくなくなった)。区別が必要という特殊事情だといえるだろう。

なお、 のち1988年に「桐蔭横浜大学」ができた。これが「横浜大学」と略されることはないようだ。「桐蔭」は 学校法人名「桐蔭学院」の固有名部分だ。

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東京都立の大学の名まえにちょっとこだわって考えてみた。(あまり実用性のない考察だが。)

「東京都立大学」は「設置者 + 類別名」だけで、この大学固有といえる部分がない。設置当時、東京都が設置者になった大学はこれだけだったから、これでじゅうぶんだったのだろう。ほかでも、自治体にひとつだけの大学のばあいは、この類型が多い。

のちに「東京都立工科短期大学」を 改組して (四年制)大学にすることになった。東京都立の大学ではある。しかし「東京都立大学」と区別が必要だ。そこで教育内容をいれて「東京都立科学技術大学」とした。ここで単に「科学技術大学」とすることも可能だったはずだ。そうならなかったのは、「科学技術」が一般的すぎて、どの地方にもありうるので、どこにある大学だかおぼえてもらうのがむずかしいという判断だろうか。(実際、1990年代に、都立大学の人は「科技大」でわかったが、その外、たとえば東大の人には「都立科技大」と言う必要があった、と思う。) ただし、それだけのことならば、「東京科学技術大学」でもよかったはずだ。国立の東京工業大学、東京農工大学、電気通信大学とはまぎれないだろう。それに設置者記述をくわえると「東京都立東京科学技術大学」となって、くどい、という判断はあったかもしれない。もしも、大学名に出現しにくいことばをいれて、(現実にありえたかどうかは関係なくつくってみた例だが)「東京都立メカトロニクス大学」としていたら、「東京都立」なしの「メカトロニクス大学」「メカトロ大」で通じただろう。

「東京都立〇〇大学」は、〇〇のえらびかたによって、実用上のよびかたが
-単に「〇〇大学」で通じる
-「都立〇〇大学」
-「東京〇〇大学」
となることがありうる。

もし、4大学合併で 正式名称が「東京都立総合大学」 となっていたら、 通称はどうなっていただろうか。 単に「総合大学」ではなにをさすのかわからないだろう。「東京都立大学」が同時になければ、やはり「都立大学」とよばれただろうと思う。

大学名にこれまでなかった語がはいったら、それがつかわれるかもしれない。(現実にありえたかどうかは関係なくつくってみた例だが)「東京都立メトロポリス大学」となっていたら、日常には 「メトロポリス大学」、略して「メト大」(など)とよばれただろうと思う。