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WCRP (世界気候研究計画)とFuture Earthのシンポジウム (2017-07-28)に出席して

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

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2017年7月28日(金)、東京・目黒区駒場4丁目の東京大学駒場第2キャンパスで、 日本学術会議のシンポジウム「Future Earth 時代のWCRP」があった。

(このブログでは2017-07-04に[行事お知らせの記事]を出した)。

シンポジウムを企画した人たちによる報告が、国立環境研究所のウェブサイトの[公開シンポジウム「Future Earth時代のWCRP」が開催されました (2017-08-02)]というページに出た。そこに、各講演者のプレゼンテーションファイルもPDFの形で置かれている。

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ICSU (International Council for Science、国際科学会議、略称は過去の名称の頭文字による)が主導する(他の組織と共同の場合もある)、地球環境に関する科学研究の国際プログラムとして、次の4つが動いていた。

  • WCRP (World Climate Research Program, 世界気候研究計画) 1980-継続中http://www.wcrp-climate.org
  • IGBP (International Geosphere-Biosphere Program, 地球圏・生物圏国際協同研究計画) 1987-2015 http://www.igbp.net
  • IHDP (International Human Dimensions Program, 地球環境変化の人間的側面に関する国際研究計画) 1991-2014 http://www.ihdp.unu.edu
  • DIVERSITAS (International Program of Biodiversity Science, 生物多様性国際協同研究計画) 1996-2014 (http://www.diversitas-international.org ただし2017-08-08現在、内容が読めない)

そして、この4つの連携として、次の活動もあった。

  • ESSP (Earth System Science Partnership, 地球システム科学パートナーシップ) 2001-2013 (http://www.essp.org ただし2017-08-08現在、このウェブサイトのタイトルはEducation Science System Projectになっているが、それ以外の中身はEarth System Science Partnershipのままのようである。)

ところが、ICSUを含む学術研究推進組織の考えが変わって、地球環境科学関係の研究プログラムは

として再編成されることになった。(そのあたりの動きは、増田・浦島 2013の文章で紹介した。)
【Future Earthには頭文字略語はないが、このブログ記事中では「FE」と略すことがある。】

そして、IGBP, IHDP, DIVERSITAS, ESSPは解消してしまった。(それを構成していたプロジェクトのうちには、FE内のプロジェクトとして再構成されているものが多い。)

WCRPは、ICSUとWMO (世界気象機関)とUNESCOのIOC (政府間海洋学委員会)の3者の共同であり、とくにWMOとの関係が深いので、FEに組みこまれずに存続している。しかし、当然ながら、WCRPとFEとの連携も必要となっている。

なお、WCRPについて日本語で紹介したページ http://www.jamstec.go.jp/wcrp/ がある。2006年につくられ、2008年ごろまではよく更新され、2011年までは活動報告追加などの更新があったが、その後は更新が止まっている。現在のではなくて2008年ごろのWCRPを知る資料としては役だつと思う。

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7月28日のシンポジウムの前半では、WCRPが何をやってきたのかの紹介があった。

  • WCRP全体の紹介 (講演は木本昌秀さん)
  • WCRPの(現在の) 4つのコアプロジェクト【[2017-08-09] 各プロジェクトの英語フルネームとウェブサイトの情報を補足した。】
    • CLIVAR (Climate and Ocean - Variability, Predictability, and Change) http://www.clivar.org (見延庄士郎さん)
    • SPARC (Stratosphere-troposphere Processes And their Role in Climate) http://sparc-climate.org (佐藤薫さん)
    • CliC (Climate and Cryosphere) http://www.climate-cryosphere.org [2017-08-09現在、内容が読めないが、Googleキャッシュで8月7日現在の内容が読めた。] (榎本浩之さん)
    • GEWEX (Global Energy and Water cycle Exchanges) http://www.gewex.org (松本淳さん)
  • WCRPと世界気象機関 (WMO) (鬼頭昭雄さん)
  • 気候変動に関する政府間パネル (IPCC) へのWCRPからの貢献 (河宮未知生さん)

WCRPからIPCCへの貢献はいろいろあるのだが、河宮さんの話は、WCRPの結合モデル作業グループ(WGCM)の活動であるCMIP (結合モデル相互比較プロジェクト)についてだった。

後半の最初には、植松光夫さんが、これまでのIGBP、とくにそのコアプロジェクトであったAIMES、GLP、IGAC、iLEAPS、IMBER、LOICZ、PAGES、SOLASをふりかえり、気候研究との関連について述べた。(これらのプロジェクトの大部分はFEのGlobal Research Projectsに引き継がれているが、名まえや性格の変わったものもある。)

それから、FEとWCRPとの連携について、世界の複数拠点に分散しているFEの国際事務局のうち日本での仕事を担当している春日文子さん、FEのRegional Projectのひとつ SIMSEA (Sustainaiblity Initiative in the Marginal Seas of South and East Asia, アジア太平洋地域における人間安全保障への貢献)を主導している山形俊男さん、世界のFE科学委員であるとともに、FEのアジア地域の連携拠点を引き受けている地球研の所長でもある安成哲三さんの、それぞれの立場からの講演があった。

また、沖大幹さんから、国連の持続可能な開発目標 (SDGs) へのWCRPのかかわりの話があった。

江守正多さんの講演の題目は「WCRPと社会との関わり」となっていたが、話題はむしろ気候研究者が社会とどうかかわるかで、朝山・江守・増田(2017)論文([2017-07-04の出版物お知らせ記事]参照)にそった話だった。

中島映至さんの講演の題目は「WCRPの将来」だった。FEの構想が始まったころは、WCRPは気候の予測能力を高めることによってFEを通じて社会に貢献する、というような一方向の筋書きで考えていたが、どうやらもっと人間にかかわる発想の転換が必要のようだ(しかしその方向はまだ明確でない)、という話だったと思う。

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総合討論の時間に、わたしも少し発言した。ここに、発言した趣旨を、いくらか整理・補足して書いておく。

まず、WCRP関係者は知っていることだがほかの出席者向けの注意として、次のことを指摘した。
国際研究プログラムは各国の予算の持ち寄りで実施されており、日本の貢献も、そのプログラムの名の予算のついたプロジェクトによるとは限らず、各機関の運営費や科学研究費などさまざまな予算によるものの持ち寄りになっている。たとえばGEWEXへのアジアの貢献として企画されたもののうち、GAME (1996-2005年)はその名の文部省事業費によるものが大きな部分をしめたが、MAHASRI (2006-2015年)にはその名の事業費はなく、持ち寄りだった。

それから、共同で知識を作る仕事には継続的な情報交換が必要であり、とくにウェブサイトの役割が重要だろう、と述べた。ただし、ウェブサイトには

  • 国際研究プログラム(たとえばWCRP)に関する情報のサイト
  • 予算のついたプロジェクト(たとえば「気候変動リスク情報創生プログラム」(終了))に関する広報サイト
  • 公式の枠組みに関係なく関心のある人が参加できるサイト

がある。
現状では、予算のついたプロジェクトのサイトはつくられるのだが、内容がそのプロジェクトの広報に限られがちであり、プロジェクトが終わると消えるか更新が止まって有用性が乏しくなることが、あまりに多いと思う。

国際研究プログラムの活動について、日本の人(研究者も含む)によく知ってもらうためには、そのプログラムのきちんとした紹介、世界にある関連サイトへのリンク、活動報告などを含むウェブサイトがあり、頻繁に更新されて現状がわかるようになっていること (過去の歴史の情報もあったほうがよいが現状とちがうものはそれとわかるようになっていること) が重要だと思う。問い合わせに答えられることが望ましいが、必ずしも会話型のウェブサービスが必要ではないと思う。それだけでも、持続的に運営するのは簡単なことではない。第2節で紹介したWCRPに関する日本語ページは、時限の研究費で外注して作ってもらったのだが、研究費の時限が切れたり、発注した人のいる組織が再編成されてウェブサイト担当がだれにも引き継がれなかったりといった事情で、だれにも書きかえられないページになってしまった。いま、日本のWCRPのページがあるべきだと思うが、それは、持続的に維持される見通しのあるサイトに置き、WCRP関連の発信に意欲を持つ複数の人に書きこみ権限を与えるような運用が必要だろう。

わたしは、むしろ、国際研究プログラムに明確に参加しているかどうかにかかわらず、それに関する話題を持つ人が出入りするコミュニティで持つウェブサイトが重要だと思う。そこには、研究の成果である文書や(あまり巨大でない)データセットを置く場所もあったほうがよい。また、研究に関する情報交換や議論ができるような会話型の場(わたしが思いつく方法はブログのコメント欄くらいだが)もあったほうがよい。ただし、そのサイトには持続性がほしい。これの維持は、国際研究プログラムのウェブサイトよりもさらにむずかしいかもしれない。

なお、わたし自身ができそうな役まわりは「コンテンツを更新する人」だと思っている。残念ながら、ほぼ無所属なので、サイトを設定する責任者になることはできなくなってしまった。

文献

  • 増田 耕一, 浦島 邦子, 2013: 地球環境研究に関する国際プログラムの動向 -- Future Earthについて。科学技術動向 (文部科学省 科学技術・学術政策研究所), 2013年9月号, 18 -- 24. http://data.nistep.go.jp/dspace/handle/11035/2427