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相変化の用語。「昇華」の逆は「凝華」とするか

多くの物質は、固体、液体、気体の3つの「相」の状態になる。相の間をうつりかわる変化には名まえがついている。

ところが、このうち、固体から気体、気体から固体への変化の標準的な名まえは、いずれも「昇華」(英語では sublimation)だ。【わたしは、1970年代前半、中学・高校生のころに読んだ教材的な本にそう書いてあり、不合理だと思いながらも約束として覚えた記憶があるが、見たのが学校の教科書だったかほかの本だったか覚えていない。】 逆向きの変化を用語で区別できないというのはとても不便だ。

最近、ネット上で、この用語が話題になった際に、細矢(2013)の論文が紹介された。この論文によれば、まず、「昇華」が両方向きを意味するようになってしまったのは、固体物質を精製する方法としての「いったん蒸気にしてふたたび固体にする」ことをさしたことから来たものだと推測されている。そして、逆向きの変化を区別する表現としては、中国語では気体から固体への変化をさす「凝華」(ninghua)ということばがあり、最近は中国でも台湾でもこれを教えるようになっているので、日本語でも「凝華」を使うことが提案されている。わたしも「凝華」が定着するのが望ましいと思う。発音の面から考えると、「ぎょうか(する)」は同じ文脈で同音衝突することばは見あたらず、「凝固」との区別に注意しさえすればよさそうだ。(なお、「しょうか(する)」のほうは消化、消火などとの同音衝突に注意が必要だ。)

ただし、「凝華」は日本語にとって新語であり、充分に説明の時間をとれるとき以外にはまだ使いにくい。わたしとしてはとうぶん、固体から気体への変化を「昇華蒸発」、気体から固体への変化を「昇華凝結」という表現を併用しようと思う。【気体から液体への変化は物理科学共通の用語では「凝縮」だが、気象学で水の相変化について述べるときには「凝結」がふつうなのだ[2013-04-28の記事]。なお、「凝結」ということばは専門分野によって違う意味に使われており、ここでいう「凝華」にあたる意味で使う分野もあるらしい。】

3相間の変化の用語について、図式でまとめてみる。ただし、このブログでは図を直接かけないので(画像ファイルを置くことはできるが)、ひとまず(あまりきれいな形にならないが)表をつくる機能を使って図を表現しておく。斜体は細矢さんの提案による用語。「[気]」は気象学のいわば方言。

気体
↓凝縮([気]凝結)凝華 (昇華凝縮) ([気]昇華凝結)
↑蒸発昇華 (昇華蒸発)
液体←融解固体
→凝固([気]凍結)

文献