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rate、率

英語の rate ということばには、関連はあるが、いくつか違った意味がある。

動詞の rate は「評価する」のような意味で、評価の結果は数量のこともあるが、階級わけのことが多い。ここではこの使いかたは追いかけないことにする。

名詞の rate は「割合」に関係のある数量をあらわすことが多い。ただし、まさに「割合」ならば ratio のほうが適切なことが多い。では rate と ratio とはどうちがうのかを説明するのはむずかしいのだが、rate は「一方の量から他方の量を導く」場合に使われるという特徴があると思う。

日本語にも「レート」の形ではいっているものとしては「為替レート」exchange rateがあるが、これは、たとえば1ドルが何円ということならば、1ドルの価値と1円の価値の比率と見ることもできるし、ドル単位の数値を円単位の数値に換算するための係数と見ることもできる。これは、次に述べる「単位時間あたりの」という意味の含まれない例である。

それに対して interest rate は利子率で、元金の額から利子額を導くときに使われる数値だが、利子は元金額に比例するとともに期間によってもふえるので、利子率は1年あたりとか1日あたりの値として示される。これは物理量ではないが「単位時間あたりの」という意味が含まれる例である。

人口動態に関する birth rate (出生率)、death rate (死亡率) なども「単位時間あたりの」という意味が含まれる例である(さらに「全人口あたりの」でもあるが)。

物理や工学で使われる物理量の場合には、rate は、単位時間あたりの数量を示すことが圧倒的に多い。対応して rate のつかない量がある場合は、rate のつく量の次元は rate のつかない量の次元を時間の次元で割ったものになる。時間のSI単位は秒だから、rate の単位は「なになに毎秒」のようなものになることが多い。

「単位時間あたりの数量」と仮にまとめたが、それには、少なくとも次の2つの類型がある。

  • 状態量(仮にSとする)の「変化率」。時間区間ΔtあたりのSの変化をΔSとしたときのΔS/Δt、あるいはそのΔtを小さくした極限 つまりSの時間に対する微分 dS/dt。
  • 流れの量の、時間区間Δtあたりの量をΔtで割ったもの、あるいはそのΔtを小さくした極限 (瞬間値)。

この両者の物理量の次元は同じであり、両者が同じ方程式の項として「+」(あるいは「-」) でつなげられてならぶことがある。

ただし、物理量であっても、単位時間あたりの数量でない rate もある。気象学用語の lapse rate (気温減率) [2012-06-06の記事]はその例で、単位量あたりの量ではあるのだが、分母は鉛直方向の空間座標(物理量としては長さ)である。

日本語では、「」ということばが英語の rateに対応することが多い。しかし、常に対応するとは限らない。

仕事率」は単位時間あたりの仕事であるが、英語では power であり、work rate とは言わない(と思う)。

Harte (1988)の本の日本語版(2010)では、用語の約束として、英語の「rate」にあたるところには徹底して「率」を使うようにした。その結果、日本語の物理や工学でふつうの用語とくいちがってしまったところがある。

たとえば「熱伝導率」ということばはふつうに使われるが、これは単位時間あたりの量ではないし、英語では thermal conductivity であって rate ではないので、Harteの本の日本語版ではこの表現は避けて、「熱伝導性係数」という見慣れない用語を使っている。

【「熱伝導率」のまわりには似た用語がある。{熱, 温度}×{伝導, 拡散}×{率, 係数}の組み合わせでできる8つの表現のうちのどれとどれが同じ意味でどれが違うのか、わたしは文献にあたって事例を確認しないと答えられない。】

また、化学の reaction rate は日本語ではふつう「反応速度」なのだが、Harteの本の日本語版では「反応率」としている。これはこの本の約束を知っていれば理解できるが、知らないで読むと別の意味(たとえば反応済みの物質量の反応前の物質量に対する割合という無次元の量)にとる人が多いだろうと思う。

わたしはこの本と逆に、「率」を rateの意味ではなく、割合(無次元)をさすのを原則としている。 ただし rateである「出生率」や、rateでも無次元でもない「熱伝導率」などは慣例に従って使うことがある。 英語の rate に対応するもののうち、「反応速度」は、「速度」と同じ次元でないという難点は認識しているが慣例に従っている。そのほかは適当な用語がなく、いちいち「単位時間あたりの...の変化量」などと表現することになってしまう。

文献

  • John Harte, 1988: Consider a Spherical Cow: A Course in Environmental Problem Solving. Sausalito CA USA: University Science Books. [同、日本語版] J. ハート 著, 小沼 通二 (こぬま みちじ)、蛯名 邦禎 (えびな くによし) 監訳, 粟屋 かよ子, 加納 誠, 中本 正一朗, 冨塚 明 訳 (2010): 環境問題の数理科学入門シュプリンガー・ジャパン (現在は丸善出版から発売)。[読書ノート]