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研究基盤整備についての意見 -- 地球環境情報知識共有基盤について

きょう5月14日にはもうひとつ、国の意見募集の締め切りがあった。文部科学省「最先端研究基盤事業における選定の観点について(案)」についての、研究者の意見の募集だった。きょうになって知らされて、あわてて文章を書いた。主張はこのブログに今年初め以来書いてきたこととほぼ同じ。

【選定の観点について】
問1.支援対象の選定に当たっては、別添「最先端研究基盤事業における選定の観点について(案)」に基づいて行うこととしていますが、この案についてのお考えをお書きください。

最大3年間という時限はやむをえないことと思いますが、グリーン・イノベーションとは産業革命以来発達してきた現代社会のしくみを変えることですから、人間の一生に匹敵する時間スケールでの展望を前提に選択すべきだと思います。 人類の持続可能性のために化石燃料からの脱却は当然必要ですが、温暖化軽減の必要性から考えても、原子力二酸化炭素隔離貯留のできることは限りがあり、 今後のエネルギー資源の多くは自然エネルギー(地熱と潮汐を例外として気候システム内のエネルギー循環)に求めなければなりません。それは化石燃料に比べると空間密度が小さく時間に関して間欠的です。コストの低いエネルギー貯留技術を発達させることも肝要ですが、津津浦浦の生活者が地元のエネルギー資源賦存を時空間分布を含めて知りそれに適応した利用技術を選ぶことも必要です。それは変動する気候(温暖化と自然変動を含む)への適応策とも重なります。資源はエネルギーばかりでなく水資源、食料などの生物資源、金属などの材料物質資源もあります。また生態系および生物多様性保全も重要です。これらの多様な観点を総合した知識が、社会の持続可能性を高める政策的観点からも重要と思います。そのような知識をつくりだすには科学研究も必要ですが、知識を提供・交換する場(基盤)がとくに重要であり、その基盤を維持する人や、そこへの情報・知識提供を、専門の違う人や他職種の人のためにドキュメントを整備したり質問に答えたりすることを含めて担当する人も必要です。日本国内だけでなく、世界への貢献も必要であり、とくにアジアの情報共有については日本が指導的役割を果たす必要があります。このような機能を長期にわたって果たそうという意向をもっており実現可能性のある組織に対して、その開始を支援することを希望します。基礎科学、環境関連技術、情報技術、行政の連携が必要です。なお知的財産のうち少なくとも地球環境科学関係のデータおよび計算機ソフトウェアに関しては,収入源とすることを求めず、オープンソースソフトウェアに準じて世界の知的公共財に貢献するべきだと思います。

【支援すべき拠点について】
問2.あなたの専門分野において、今後、若手・女性研究者を惹きつけることができるような研究ポテンシャルの高い研究拠点や、当該拠点に本事業で支援したほうがよいと考えられる研究設備等があればお書きください。

基盤として、地球環境(大気、海洋、陸水、雪氷、生態系、生物多様性などを含む)に関するデータ、情報、知識を長期にわたって収集し、整理し,ドキュメントし、保管と提供を続ける組織が必要です。 とくに国際的には、日本を含めたアジア諸国の観測データを集めて、権利関係を整理し、世界に貢献するとともに、日本を含むアジア地域内の知識交流の要ともなるべきです。 有用な情報の消滅を避け、外国からの信頼を得るために、組織の基幹部分は時限でなく長期継続される見通しのものであることが必要です。適切な機関がなく、省庁を越えた国としての担当指定が必要です。 国の官庁でも独立行政法人でも自機関の観測データの公開は進んでいますが他機関データまで扱うのは業務外となります。また独立行政法人は持続可能性が不明です。設置法改正が必要と思います。大学ならば学内の計算機センターや博物館の改組で可能かもしれません。

【若手・女性研究者への支援について】
問3.本事業が目指す「頭脳循環」を実現するために、若手・女性研究者が研究を進めていく上で望まれる研究基盤・研究環境について、ご意見があれば簡潔にお書きください。

専門能力を持った人がキャリアパスに希望を持てること、いったん離れた人が専門職にもどれることが必要です。科学は先端的研究論文を書く人だけで成り立つものではありません。 データ・情報・知識提供組織には、情報基盤技術や知的財産制度の専門家に加えて対象分野に関する専門家が必要であり、目標設定が狭い意味の研究職と違い、複数の専門分野に関する準専門家であることが求められます。また、今後の気候変動への適応や自然エネルギー資源の活用を必要とする社会では、政策決定はもちろん、地方行政や産業(特に農林水産業)や市民活動の中で、地球環境の基礎知識やデータが必要となると思います。専門家以外も共有できる専門知識基盤を育てる人が評価される必要があります。設備面では、全国共同利用大型計算機センターを新時代の規模で復活し、そこで多様な人が多様なデータをいっしょに見て議論できる体制を望みます。