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世界の気候分布として何を教えるか? ケッペンの大分類まで?

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

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先日のJpGUの地学・地理教育のセッション([2018-05-14の記事]で予告した)で、わたしは[2018-02-17「地学・地理のうち大気水圏科学の部分、高校レベルで何を教えるか」]の記事と同じ趣旨の発表をした。

そこで、教えるべき項目のひとつとして、世界の気候帯の分布の概略をあげた。

しかし、そこでケッペンの気候区分にこだわるべきではない、とも言った。この件については[2016-07-08 「ケッペンの気候区分」を引退させてそれに代わるものを考えよう (気象学会予稿)][2016-11-01「「ケッペンの気候区分」をどうするか? (気象学会発表を終えて)」]で述べてきた。

それでは、何を教えるべきだろうか。わたしの考えは、まとまっていない。

そして、高校の次期学習指導要領の「地理総合」では、気候について何を教えるかは指定されていないので、それぞれの教師にまかせてよい、というのもひとつの見識だろう。

しかし、(高校教育の主目的が大学入試になってはまずいと思うけれども) 大学入試に使われることを考えると、教えられる内容についてのなんらかの事実上の共通理解がほしい。また、社会生活のうえで、たとえばマスメディアによる報道で情報が正しく伝わるためには、伝える側と受ける側で共通に理解された用語があるべきだ。

共通の基礎として、筋がとおっていて、しかも、教育現場でわかってもらえるものを考えたい。

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「地理総合」をとる生徒が、「地学基礎」をとっていると想定できるわけではないから、気候のメカニズムにもとづく概念からはじめるのは、現実的ではないだろう。

「地理総合」が自然環境と人間社会の連関に重点をおいていることから考えて、人間社会にとって重要な気候の特徴をとりあげるべきだろう。

人間は食料を第一次産業に依存しており、そのうち農業・林業は陸上生態系に依存している。また人間生活にとって目に見える景観は重要であり、植生はその重要な要素だ。だから、気候がどのように陸上生態系を制約しているかに注目するのは、ひとつの適切な案だと思う。(もうひとつの案は、地表面のエネルギー収支(熱収支)と水収支に注目することだ。こちらは、物理でエネルギーの概念を学んでいない人にわかりにくいことが欠点かもしれない。)

ケッペンの気候区分は、まさに気候がどのように陸上生態系を制約しているかを表現しようとしたものだ。ただし、のちの学問の進展からみて、その具体的な定式化(経験式)は時代おくれになった。

そこで、いまのわたしの考えとしては、ケッペンの大分類「A, B, C, D, E」を教えるのはよいと思う。ただし、その分類は厳密なものではないとことわっておく。その境界を与える数量の条件は、具体的に示された分布図を作った条件としては明確に示すべきではあるが、自然界に関する基礎知識とはしない。そして、大分類よりもくわしい中・小分類は、例として話題にしてもよいが、日本の高校教育で共通にすべき知識とはしない。

ケッペンの大分類の記号のつけかたは、de Candolle の植生分類の記号をおおすじでひきついだもので、気候についての理屈としてはあまり合理的なものではない。これを維持するか、合理的に決めなおすかは、迷うところだ。ひとまず、似ているがちがう体系を区別するのはやっかいだという理由で、引きついでおこう。

ケッペンの大分類の理屈のほうは、いくらか合理的に考えなおしてみる。

まず、乾湿によって、B (乾燥気候) と{A,C,D,E} (湿潤気候)が分岐する。この乾湿の境界は、降水量だけでは決まらない。温度が高いほど、「可能蒸発量」(これの精密な定義は提唱者によってちがうが、およそ、気温が同じで土壌水分がじゅうぶんあるときの蒸発量をさす)が多くなる。降水量が可能蒸発量よりも少ない場合が乾燥気候だといえるだろう。

それから、温度によって、{A,C,D} (木が育ちうる気候) と E (寒冷気候) が分岐する。(年平均の温度か季節に分けて考えるかはまだ検討していない。ケッペンのとおりならば最暖月気温 10℃。)

木が育ちうる気候は、もう少し細分したほうがよさそうだ。しかし、現実の森林は、常緑広葉樹、落葉広葉樹、常緑針葉樹、落葉針葉樹のさまざまな組み合わせがあって、どの分類境界が重要かは自明ではない。たまたまケッペンが注目したA, C, Dのわけかたがよいともかぎらないが、それに代わる有力な案があるわけでもない。便宜上、ケッペンのA, C, Dを引きついだうえで、その境のあたりの事例がどちらにはいるかはあまり問題にしない、というのが妥当かと、暫定的に思う。(そういう考えなので、ここでは「区分」ではなく「分類」と書いている。)

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「地理総合」で、「A, B, C, D, Eの気候が地球上でどこに分布するか」まで学んだとして、どのようなしくみでそうなったのかを考えるときに、「地学基礎」で学ぶ「地球の熱収支」や「大気大循環」の知識が役立つだろう。

温度がだいたい緯度帯によって分布するのは、太陽からくる放射の地表面面積あたりの量が、緯度により、低緯度のほうが多いことからきている。太陽放射の季節ごとの値よりもむしろ年平均値のほうがきいてくるのは、海洋が季節をこえてエネルギーを(「熱を」)たくわえるからである。

乾燥地帯が亜熱帯に多いのは、亜熱帯が大気大循環のうち熱帯の部分を構成する「ハドレー循環」の下降域にあたり、雲・降水がおこりにくいことからきている。(温帯にある、いわゆる「ゴビ砂漠」などはこれでは説明できず、「地学基礎」の範囲をこえる気象学の知識が必要である。)