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気候変動についての政策決定にとっての科学者の役割

[2013-12-19の記事]では、そこでふれた2回の講演で話した内容のうち、気候変動についての政策決定にとっての科学者の役割に関する話題を省略した。それは、「地球環境問題解決に向けて期待される、専門知識をもつ人の役割」[2013-09-02の記事(STS学会予稿)][2013-11-17の記事(STS学会発表後)]の中でふれているのだが、今後の参照のため、関係部分だけ編集再録しておく。

=== (選択的再録) ===

IPCC (気候変動に関する政府間パネル)は科学と政策の界面を構成する巧妙なしくみである(Miller, 2004)。IPCCは気候変動枠組み条約締約国会議の政治的意志決定に直接関与せず、政策に関連する意義をもつが政策を拘束しない助言を行なう。IPCCの評価報告書(assessment reports)は、各専門分野の科学者から選ばれた執筆者が既に公開された文献を評価して原稿を作成し、査読を受けたあと、各国政府代表の承認を受けて完成される。

この制度のもとで、関連分野の科学者の役割は次の3つに分けられる。

  • a. 科学的知識の生産 (多数の科学者。自主的な研究と政策的に推進された研究事業とを含む)
  • b. 科学的知識のアセスメント・総合 (IPCCや国内の評価報告書の執筆者)
  • c. 政策決定者への直接の助言 (たとえば枠組み条約締約国会議政府代表団に加わる専門家)

文献

  • C.A. Miller, 2004: Climate science and the making of a global political order. States of Knowledge: the co-production of science and social order (S. Jasanoff ed., Routledge), 46-66.

=== (選択的再録 ここまで) ===

このように、国際交渉に向けての科学のかかわりかたは整備されてきたが、政策に関する国民の合意を形成するうえでの科学のかかわりかたは、遅れているように思う。わたしはむしろ後者について考えていきたいと思っている。