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Planet under Pressure会議宣言文(非公式)日本語訳

英語原文(PDF)は http://www.planetunderpressure2012.net/pdf/state_of_planet_declaration.pdf
日本語訳は増田による。(作業の第1段階に市販のパソコン自動翻訳を使ったがその特徴はあまり残っていないはず。) 今後も改訂を重ねる。これについての増田の大まかな感想は[4月2日の記事]の中で述べた。

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「この惑星の現状」(State of the Planet)宣言は、Planet Under Pressure会議の共同議長リディア・ブリト(Lidia Brito)博士とマーク・スタフォード・スミス(Mark Stafford Smith)博士によるものであり、会議の科学的組織委員会によってサポートされた。われわれはこの陳述がPlanet Under Pressure会議の議事から出現した重要なメッセージを反映すると信じる。
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==「この惑星の現状」(State of the Planet)宣言 ==
圧力を受けている惑星: 解決策に向かう新しい知識

1. 研究によって、これまでなん世紀もの間人間の文明の健全性(well-being)を支えてきた地球システムの継続的な働きが危険な状態にあることが明らかになった。緊急に行動しないと、われわれは水、食料、生物多様性、そのほかの重要な資源に対する脅威に直面することがありうる。これらの脅威は、経済の、生態系の、そして社会の危機を強め、全地球規模の人道的緊急事態の潜在的可能性をつくりだすおそれがある。

2. ひとりの人間の生涯の時間のうちに、われわれの、ますます相互に結びつき相互に依存する経済・社会・文化・政治のシステムは、地球システムに基本的な変化を起こして、われわれを安全な自然の境界を越えるところまで動かすかもしれないほどの圧力を環境に与えるまでに至った。けれどもこの相互の結びつきは解決策の可能性も提供する。新しい考えが形成されて速く広がり、この惑星をほんとうに持続可能にするために必要とされる主要な転換に向かう勢いをつくり出すことができる。

3. われわれの時代の決定的な挑戦課題は、文明の健全性を保証する地球の自然プロセスを保護することだ。それを、貧困を絶滅させ、資源についての対立を減らし、人と生態系の健全性を支えることといっしょに進めなければならない。

4. 消費がどこでも加速し、そして世界人口が増加している中で、持続的発展という遠い理想に向かって働くだけでは充分ではない。全地球規模の持続可能性が社会の土台にならなくてはならない。それは国家の基礎と社会の基本構造の一部でありうる、そしてそうなるべきだ。

5. 国際科学会議(ICSU)がかかわっている複数の地球環境研究をプログラム[注1]が、この惑星の状態を査定して、さしせまった全地球規模の危機に対する解決策を探究するために、「圧力を受けている惑星: 解決策に向かう新しい知識」の会議を開いた。会議には、全地球規模の挑戦課題について議論し、新しい解決策を提案するために、合計3000人近い指導的専門家と意志決定者が集まった。さらに世界じゅうから少なくとも3000人の人々がオンラインで会議に参加した。

  • (1) DIVERSITAS, IGBP, IHDP, WCRP。詳しい名称は[別記事]参照。

- A. 新しい知識 -
6. 人類は巨大な跳躍をして、惑星スケールの力になった。重要な変化が1950年代から起こっている。そして変化速度は加速している。研究者は、われわれの全地球規模の文明社会にとって潜在的破局的な帰結をもたらしうる、安全でないレベルの汚染、生態系の変化と資源需要、を観察している。

7. これまでの10年間に、われわれが何を目撃しているかを明確にする、新しい科学的な理解の重要な領域が出現した:

  • A1. 地球システムに対する人類の影響は、氷期のような惑星スケールの地質学のプロセスに相当するものになった。われわれの働きによってこの惑星は新しい時代「人類世 (Anthropocene)」にはいったという共通認識が成長している。今や、地球システムの多くのプロセスと生態系の生きている基本構造が、人間活動によって支配(dominate)されているということだ。地球が過去に大規模な突然の変化に見舞われたことは、地球が将来類似の変化を経験することができるだろうことを示す。この認識に導かれて、研究者は、それを越えると受け入れることができない環境や社会の変化を起こしうる、全地球規模の、また地域規模の、しきい値や限界を認識するための第一歩を踏んだ。
  • A2. 地球システムは、複雑な、相互の結びつきを含むシステムであり、そのうちに、それ自体大いに相互に結びついていて相互に依存しあう全地球規模の経済と社会を含んでいる。このようなシステムは注目すべき安定性をもたらすことがあり、そして速いイノベーションを可能にする。けれどもそれらには、突然の速い変化と危機の可能性がある。それは全地球規模の金融の大崩壊や、全地球規模の食料システムの不安定さのような場合に見られる。
  • A3. 地球環境の変化を管理(govern)することに関する現在のメカニズムの査定によって、既存の国際取り決めがなぜじゅうぶん速く気候変動や生物多様性損失などの現在の全地球規模の挑戦課題に対処していないかがわかる。単一の包括的な方針が失敗するならば、地方の、国家の、そして地域規模の、政府とビジネスと市民社会とによる多様な協力関係 --惑星のstewardshipに対する多中心アプローチ-- が、不可欠な安全策を提供する、という証拠が強まってきた。

8. 最近の研究からのこれらの洞察は、惑星のstewardshipを支援する国家の責任と説明責任(accountability)についての新しい認識を要求する。これは普遍的な持続的発展を達成するために全地球規模の持続可能性にねらいを定めた到達目標設定を必要とする。決定的な変革は、健全性の主要な構成要素として収入をとりあげることから離れ、すべてのスケールにおいて健全性の実際の改善を測定する新しい指標を開発することだ。個人のレベルでの健康を改善し貧困を絶滅するための個人のレベルでの機会の平等も、惑星のstewardshipに向かう移行にとってかなめとなる役割を果たすだろう。

- B. 新しい解決策 -

9. 相互に結びついた課題は相互に結びついた解決策を必要とする。速い科学・技術的な進歩が --もし時宜を得て採用されるならば-- どこの社会についても、有害な帰結のリスクを減らすための解決策となりうるものを提供することができる。けれども技術革新だけでは充分ではないだろう。われわれは持続可能な繁栄に向かって、われわれの価値感、信念、願望を変えることができる。

10. 研究は、変化を監視し、しきい値を決定し、新しい技術とプロセスを発達させ、そして解決策を提供することに重要な役割を果たす。国際的な地球環境変化研究の共同体は、科学が政策に対してもっと賢明で時宜を得た政策決定ができるように情報を提供しなければならず、また、イノベーションのためには多様なローカルな需要と条件の情報も必要である、という認識のもとに、科学と社会の間で新しい契約を結ぶことを提案する。この契約は対象に次の3つの要素を含む必要がある:

  • B1. 全地球規模の持続可能性のための科学的証拠に基づいた統合された到達目標が、社会にとっての不可欠な目標を提供するために必要とされる。これを支えるために、国際的な科学共同体は、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)、IPBES(生物多様性と生態系サービスに関する政府間プラットホーム)そのほかの進行中の努力を基礎として作りあげられる既存の評価報告と連携して、全地球規模の持続可能性についての分析を定期的に行なう枠組みをつくることを求める。このような分析を、科学と政策とのインタフェースに首尾一貫性をもたらすように設計することができる。
  • B2. 圧力を受けている惑星が直面する挑戦課題は、研究への新しいアプローチを要求する。それはもっと統合的で、国際的で、解決志向のものでなければならない。われわれは、質が高くまとをしぼった科学研究を、全地球規模の持続可能性のための新しい政策に有用な学際的な努力と結びつける必要がある。この研究は、既存の研究プログラムや専門分科の境を越えて、すべての研究領域(domain)およびローカル知のシステムの境を越えて、「南」と「北」の境を越えて統合され、そして政府、市民社会、研究出資者と民間部門からの参加を得て共同で設計され実施されなくてはならない。この新しい協力関係の一部として、この会議で、(複数の)地球環境変化研究プログラムは、主要な研究イニシアティブ「未来の地球(Future Earth): 全地球規模の持続可能性のための研究」を支持する。
  • B3. さまざまな問題当事者(stakeholders)やさまざまなスケールの政策立案の共同体の間で、全地球規模の持続可能性に関する双方向の対話を容易にする新しいメカニズム。このような相互作用は、科学と政策のインタフェースに社会的意義と信頼をもたらし、そして速い全地球規模の変化に遅れないようにいっそう効果的に意志決定に必要な情報を提供できるように設計されるべきだ。

11. これらの到達目標に向けて、上記の構想(initiative)には次のような支援がされなければならない:

  • 全地球規模に、そして特に発展途上国での、科学と教育の能力開発に資金を提供して支援することについて、これまでよりも大きい約束(commitment)。
  • 純粋研究と応用研究の両方を推進するとともに、すべての研究領域を横断しさまざまな専門分科をいっしょに働かせるためにますます努力することについての、これまでよりも強い約束。
  • 特に発展途上国での、観測システムに対するもっと強化された支援。これには全球規模の持続可能性のための意志決定を支援するために必要な新しい観測を含む。新しいアプローチは、環境と社会的な課題のための全地球規模の観測システムを完全に統合するべきだ。
  • 知識の新しい領域の継続的な探検。たとえば、生態学的・社会的な転換点やさまざまなレベルでの不可逆性を扱う行動科学や経済学の理論的・応用的な研究。

- C. 新しい機会: 「リオ+20」を支える科学 -

12. 国連の「リオ+20」の会議は、世界がこの決定的な時点につかまえなければならない機会だ。国連事務総長の全地球規模の持続可能性についてのパネルの報告「Resilient People, Resilient Planet (回復力がある人々、回復力がある惑星)」は、科学と政策の間のインタフェースを強くすることを要求するとともに、持続可能な未来に向かう強い戦略的枠組みを提供する。「圧力を受けている惑星」会議でわかったことは、次のような主要な勧告を支持する:

  • C1. 進歩への障壁を克服し、効果的な地球システムのガバナンスに向かうためには、国内と国際の制度の根本的な方針変更と再構築が必要とされる。政府は、首尾一貫性を高め、また社会・経済・環境という複数の柱を横断して統合された政策と行動をもたらすような制度やしくみを支援するように行動をとらなくてはならない。現在の理解によれば、全地球のレベルで社会・経済・環境についての政策を統合するために、国連システムの中に持続的発展理事会をつくることが支持される。また、市民社会、ビジネス、産業をすべてのレベルでの意志決定に含めることによって、全地球規模のガバナンスを強めることも、強く支持される。
  • C2. 全地球規模の持続的発展の到達目標として、普遍的な「持続的発展の到達目標」(Sustainable Development Goals)の提案へのcommitmentが必要とされる。この到達目標群は、食料、水とエネルギーの安全保障、生物多様性と生態系サービスの維持管理、持続可能な都市化、社会的包含と生計、海洋の保護、持続可能な消費と生産、などの領域内および領域間の相乗効果と競合関係を考慮に入れながら開発されるべきだ。研究共同体は、相互に結びついた課題を認識し、そして健全性に関する既存の対策を基礎として、到達目標、目標、指標の開発にかかわるべきだ。このことは、すべてのレベルでのガバナンスに適用されるべきだ。
  • C3. 生態系サービス、教育、健康、海洋や大気などの全地球共通の資源を含む公共財の貨幣的・非貨幣的価値を認識すること。 これらは、経済活動が全地球規模の共有物に外部費用を課さないように、国やその下位のレベルでのマネージメントや意志決定の枠組みの中で適切に考慮に入れられなければならない。経費を内部化し共有物に対する影響を最小にする矯正策が選定(identify)され、そして規制や市場メカニズムを通して実行される必要がある。

- 2012年: 歴史上の決定的な瞬間 -

13. われわれの相互に高度に結びついた全地球規模の社会は急速に革新(innovate)する可能性を持っている。「圧力を受けている惑星」の会議は、新しい道筋をさぐるために、この可能性を利用した。それは地球環境変化研究に新しい方向を示した。国際的な科学共同体は全地球規模の持続可能性の解決策に焦点を合わせるために急速に再編成しなくてはならない。われわれは、知識を生産し、それを速く行動に転換するための新しい戦略を開発しなくてはならない。それは科学と社会の間の新しい契約の一部となり、両方からのcommitmentを得ることになるだろう。

14. 社会は、緊急の大規模な行動を延期することによって、リスクを大きくしている。われわれはすべてのレベルで指導力を示さなくてはならない。われわれはみな自分の役割を果たさなくてはならない。すべての問題当事者からの強い寄与によって、国連の「リオ+20」の会議を、われわれを持続可能な未来に向かって動かす全地球規模のイノベーションをひき起こす決定的な瞬間にするべきだ。われわれは世界に、この瞬間をつかんで歴史を作るように促す。

ロンドン、2012年3月29日