【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】
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コペルニクスといえば、まず Nicolaus Copernicus (1473 – 1543) である。わたしは今学期 (2024年度 後期) 「自然観の変遷」という授業を担当しているので、コペルニクスの地動説について話すこともある。
しかし、地球環境の研究者としてよくであう Copernicus はこの人名ではない。ふたつあって、どちらも、ヨーロッパに本拠をおく情報サービス機関なので、注意しないとどちらの話だったかまぎらわしくなる。
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そのうちひとつは、「EGU の雑誌をだしているところ」として知っていた。
EGU は European Geoscience Union (ヨーロッパ地球科学連合) という学会で、ウェブサイトは https://www.egu.eu/ だ。2002年に、European Geophysical Society (EGS) と the European Union of Geosciences (EUG) が合併してできた。地球物理学と地質学の両方をふくむ地球科学の学会だ (アメリカに本拠をおく学会にも国際学会的なはたらきをしているものがあるが、地球物理学と地質学の両方をひろくカバーしているものはそちらにはない。) だいたい毎年 4月にウィーンで大会をひらいている。
EGU がだしている学術雑誌は、EGS や EUG、それにいたるまでに合併された各国の学会からひきついだものもあるし、EGU ができてからはじめられたものもある。その雑誌を、紙版、オンライン版とも、出版しているのが Copernicus なのだ。
ただし、Copernicus が出版している雑誌 (そのおおくはオープンアクセスで、https://publications.copernicus.org/open-access_journals/ に列挙されている) は、EGU が編集しているものばかりではない。Copernicus 自身の企画によるものもあるらしい。また、他の学会の雑誌の出版をひきうけていることもある。
その一例だが、IAHS (International Association of Hydrological Sciences、国際水文科学会、ウェブサイトは https://iahs.info/ ) は、ながらく、査読済み論文をふくむ会議録を出版してきたのだが、2014年から「Proceedings of IAHS」という題名になって Copernicus が出版をひきうけている (https://piahs.copernicus.org/) 。ただし、それよりもまえの会議録は IAHS が直接あつかっているようであり、雑誌 Hydrological Sciences Journal は別の出版社からでている。
Copernicus のウェブサイトによれば、 Copernicus は、1988年に非営利法人として発足した。ドイツの国立研究法人である Max Planck Institute に勤務する科学者が主導し、 EGS をサポートした。2001 年に会社を設立し、雑誌発行や会議運営業務を会社でやるようになった (こちらのウェブサイトが https://www.copernicus.org/ )。非営利法人も存続している (こちらのウェブサイトは https://www.copernicus-gesellschaft.org/ )。
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もうひとつの Copernicus を、わたしは「ECMWF 再解析データを発信しているウェブサイト」として認識していた。
ECMWF (European Centre for Medium-range Weather Forecasts、ヨーロッパ中期天気予報センター、ウェブサイトは https://www.ecmwf.int/ ) は、1975年にできた、ヨーロッパの政府間機関である。EU の機関ではなく、EU加盟国ではないスイスやノルウェーも当初からくわわっているし、イギリスがEUを脱退してもそれによる変化はない。本部はイギリスの Reading (レディング) にある。
ヨーロッパ各国にはそれぞれ気象庁があって天気予報をだしてきたのだが、天気予報をだす業務や、天気予報のもとになる数値予報という予測技術のうちでも1日や2日の短期の予報については各国気象庁のやくわりとしたまま、1週間から2週間さきの天気を予測する「中期」の数値予報の機能を共同でやろうということになって設立された。のちに、数か月から1年ぐらいさきの「季節予報」のための大気・海洋結合の数値予報の機能ももつようになった。しかし、いわゆる地球温暖化予測のような気候変化の予測型シミュレーション (projection) は業務としていない。
【このブログでは、[(2016-04-01) Equatorial Center for Medium-range Weather Forecasts (赤道域中期天気予報センター)] の記事で ECMWF にふれた。まぎらわしくなってしまったが、その記事中の「Equatorial ...」は架空の構想の話で、「European ...」は実在する組織の話である。】
ECMWF では、数値天気予報モデルに観測データをとりこむデータ同化技術の応用として、過去にさかのぼった長期間の観測データを一定の予報モデルにとりこんで質がなるべくそろったデータセットをつくる「再解析」 (reanalysis) という事業もおこなっている。([(2016-05-18) 再解析 (reanalysis)] 参照。) ECMWF の再解析データの配布は、1980-90年代には磁気テープによっていたが、ちかごろはウェブサイトからのオンライン配布がふつうになっている。その配布サイト名として copernicus という名まえがでてきたのだが、わたしは (たまたま) まだ利用していなかったのだった。
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2024年1月10日に、ある人の tweet につぎのように書かれていた。
2023年は人為的な気候変動に自然現象のエルニーニョが加わり記録上最も暑い年に。EU気象局によれば人類が化石燃料を大量に燃やし始める前の長期平均より約1.48℃暖かかった。
EUは気象庁のような業務をもっていないはずなので「EU気象局」というのは変だと思って、tweetの情報源のBBCの記事にさかのぼってみた。
- (BBC) Mark Poynting & Erwan Rivault (2024-01-09) 2023 confirmed as world's hottest year on record] https://www.bbc.com/news/science-environment-67861954
The year 2023 has been confirmed as the warmest on record, driven by human-caused climate change and boosted by the natural El Niño weather event. Last year was about 1.48C warmer than the long-term average before humans started burning large amounts of fossil fuels, the EU's climate service says.
「2023年は ... 人類が化石燃料を大量に燃やし始める前の長期平均より約1.48℃暖かかった。」という発言をしたのは「EU の気候サービス」であり、その名まえは Copernicus Climate Change Service である、ということになっている。EUの機関でないECMWFの事業が EU の気候サービスというのはまちがいだろうと思ったのだが、これでよいらしい。
日本でいえば気象庁がやっているような、天気予報とその基礎となる気象観測などの業務を、weather service (気象サービス) という。世界各国の気象サービスのあいだの調整を WMO (World Meteorological Organization、世界気象機関) がやっている。
2010年ごろ、気象サービスと関連があるが別のものとして「気候サービス」が必要だ、という議論がされた。([(2010-07-26) 気候サービス] 参照)。そして、WMOにGlobal Framework for Climate Services (GFCS) という制度がつくられた (ウェブサイト https://wmo.int/site/global-framework-climate-services-gfcs )。そのウェブサイトに What are Climate Services? https://wmo.int/site/global-framework-climate-services-gfcs/what-are-climate-services というページもある。
EU は、気象サービスをやっていない (各国にまかせている) が、気候サービスの事業はあるのだ。
Copernicus Climate Change Service のウェブサイト https://climate.copernicus.eu/ をみると、まず Copernicus は EU の 地球観測プログラム (Earth Observation Program) である、とある。そして、そのうちの Copernicus Climate Change Service (C3S) は ECMWF が implement しているとある。EU の事業なのだが、それを EU の外の機関である ECMWF が請け負っているという関係らしい。そして、ECMWF の Copernicus 事業部は イギリスのEU離脱の影響をさけて 2020年からドイツの Bonn にある。なお、ECMWF は Copernicus の Atmosphere Monitoring Service https://atmosphere.copernicus.eu/ も請け負っている。切り分けは便宜的なものだとおもうが、データセット提供のやくわり分担についてみると、気象再解析は climate のほうで、大気成分 (大気汚染物質や温室効果気体濃度) と大気放射 (地上に達する日射量など) は atmosphere のほうで担当している。
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EU の事業としての Copernicus (ウェブサイト https://www.copernicus.eu/ ) は、EU の宇宙プログラムのうちの地球観測の部分だとされている。これと協力関係にある機関として、ESA (European Space Agency) などと並列に ECMWF があげられている。
そして Copernicus の事業としてCopernicus Services https://www.copernicus.eu/en/copernicus-services があり、そこには、Atmosphere, Climate Change のほかに、Marine, Land, Security, Emergency が列挙されている。
わたしにとっての「ふたつめの Copernicus」は大小二重構造としてとらえておく必要があることがわかった。EU の Copernicus Services という事業があって、そのうち Climate と Atmosphere の部分を ECMWF がひきうけているのだ。