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海外出張・旅行は1か月がかりの時代がまた来る

小宮山(1999, 69ページ)の言いかたによれば「水平輸送のエネルギーの理論的極限はゼロである。」しかし現実には、われわれのエネルギー資源消費のうち、かなりのものは移動・輸送のために使われる。

とくに飛行機は、移動距離あたりのエネルギー資源消費が大きい。

そして飛行機の動力を内燃機関以外の方法で得ることはむずかしいようだ。これからは石油が貴重品になる。バイオマスから内燃機関燃料を作ることはできるが、食料生産や自然植生保護と競合するから栽培面積をあまりふやせないので、飛行機燃料になりうるバイオマス燃料は石油よりも貴重品になるにちがいない。

そうすると、たとえ金銭的に豊かな国の人々でも、娯楽のための旅行や、会議出席のための出張に、飛行機で行くことは、たいへんなぜいたくということになるだろう。

飛行機の利用は、貴重な資源を使う目的として国民の了解が得られたものに限られることになるだろう。大気中にいることに意味がある、たとえば大気汚染物質のサンプル採集や、地上を上から見ることに意味がある、たとえば航空写真測量や、なるべく大気の影響を避けて外を見ることに意味がある、たとえば太陽表面の観測については、飛行機を使うことが認められてほしいと思う。また、特殊な技能をもった人に必要とされるところに緊急に行ってもらうためにも飛行機は必要とされ続けるだろう。

しかし、単なる顔合わせや会議は通信でやれということになるだろう。電話会議はあまり便利とは言えないが、いわゆるテレビ会議で、顔や手の動きを見ることができ、文書や画像は別にインターネットで送って共有することができるのならば、かなり意思疎通ができるようになってきた。ただし、テレビ会議で効果があがるのは、その前に直接対面したことのある相手との場合のような気もする。少なくとも今の通信技術ではまだ伝えきれないものを、会えば共有できることがあるのだと思う。

海にかこまれた日本では、外国に行くには、飛行機がだめならば、船しかない。船による移動にもエネルギー資源を使う。理想的にはゼロでも現実には摩擦があるからだ。しかも、現状ではほとんどの船が化石燃料を燃やして動いている。化石燃料が貴重になると、ふたたび風力の活用を考える必要があるだろう。帆船が復活するか、風力で発電して電気を動力に変える形になるのかはわからないが。ただしすべてを風力でまかなおうとがんばるのではなく、燃料で補う形になると思う。こちらは内燃機関である必要がないので固体燃料も使えるだろう。摩擦を小さくする船の設計のくふうも進むことを期待したい。飛行機の場合と違って船ならば、一般市民も、旅行や出張で外国に出かけることもできる時代が続くだろう。とくに若手研究者には、外国の同業者を訪問して次からはテレビ会議で話ができる顔見知りをふやすことを奨励することになるだろう。

ただし水をかきわける船はあまり速くはなれない。たとえば、日本から北アメリカへ行くのは片道10日はかかるだろう。そうすると、行った先にも少なくとも10日くらい滞在することにしないともったいないので、一度の出張は1か月仕事ということになるだろう。

文献

  • 小宮山 宏, 1999: 地球持続の技術岩波新書