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NHKテレビ 「2030 未来への分岐点 第1回 暴走する温暖化 ...」 (1) 大雨・洪水シミュレーション

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたか、かならずしも しめしません。】

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2021年になって、NHKが、「2030 未来への分岐点」という番組 (ちょっとドラマ的部分があるが、ドキュメンタリーと言ってよいだろう) のシリーズをはじめた。その第1回「暴走する温暖化 脱炭素への挑戦」の放送が、2021年1月9日 (土) 21:00-22:00、再放送が 1月14日 (木) 00:47- にあった。わたしは、再放送を録画再生して見た。

この番組については、気にかかるところがいろいろあるのだが、このブログ記事では、日本の研究者によるあたらしい科学的研究の成果を紹介した部分について、番組を補足する情報を出しておく。追って、別の記事として、番組が提示するメッセージについての意見をのべることにしたい。

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この番組の中で、台風による大雨とそれによる洪水災害が地球温暖化によってどのように変化するかについての研究の紹介があった。2019年台風19号で長野県の千曲川の堤防がこわれて洪水となり死者も出た水害について、地球温暖化の影響を評価した、というものだった。

研究者の名まえは、音声では出てこなかったと思うが、画面に文字で出ていた。(それを確認するために、録画のその部分を何度か再生する必要があった。) つぎの3人だった。ウェブ検索すると、それぞれの紹介ページがみつかった。(川瀬さんは雪の本([読書メモ])の著者でもあるが、大雨の研究もやっているのだ。)

この研究は「統合」(統合的気候モデル高度化研究プログラム) の一環だろうと思ったら、すくなくとも川瀬さんの話の部分はたしかにそうで、「統合」のウェブサイトから気象研究所のプレスリリースが紹介されている。

プレスリリースは、つぎの学術論文が (紙面わりつけがまたととのっていない形だが) 公開になったのでそれを報告するものだ。

  • Hiroaki Kawase, Munehiko Yamaguchi, Yukiko Imada, Syugo Hayashi, Akihiko Murata, Tosiyuki Nakaegawa, Takafumi Miyasaka, Izuru Takayabu, 2021 (予定): Enhancement of extremely heavy precipitation induced by Typhoon Hagibis (2019) due to historical warming. SOLA (Scientific Online Letters on the Atmosphere), DOI:10.2151/sola.17A-002

いわゆる event attribution 研究の一例で、実際に起こった大雨のうち、地球温暖化の影響を評価しようとしたものだ。領域がかぎられた気象モデルで、実際の海面水温と、領域の境界での大気の状態をあたえて、2019年台風19号の降水分布がどのくらいよく再現できるかを見る。そのうえで、海面水温を1980年ごろのものにさしかえて、比較実験する。番組でとりあげられたように単純化していえば、現在の海面水温での降水量と1980年ごろの海面水温での降水量との差が、1980年ごろから現在までの温暖化の効果だと考えられる。論文では、統計的評価もしているが、その対象は「関東甲信地域」の広域の降水であって、とくに千曲川流域に注目したものではない。

佐山さんと二瓶さんの話の部分は、「統合」、京大防災研、東京理科大のサイトを見たかぎりでは見あたらなかった。おそらく学会かプロジェクト研究発表会で発表された内容をNHKの人が見て取材したのだろう。

番組からわたしが理解したかぎりでは、千曲川やその支流の流路とその流域の水の動きの数値モデルを用意して、そこに川瀬さんの数値実験による降水量をあたえて、水位の変化を見たものだ。実際の海面水温をあたえた実験では、実際おきたような洪水がおこる。しかし、1980年ごろの海面水温をあたえた実験では降水量がすくなめなので、堤防は切れず、災害になるほどの洪水はおこらずにすむ。テレビ番組を見るたちばでは、とても印象的な研究成果だ。ただし、たぶん、科学的成果としてしめすには、もっといろいろな条件での数値実験をする必要があるのだろう。

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番組のあとのほうでは、もっと温暖化がすすんだ状態を想定した台風と洪水のシミュレーションも紹介されていた。

2019年台風19号を、「+4 ℃ 温暖化」(これはおそらく、いわゆる「産業革命前」+4℃で、現在の状態からは +2.8℃ だと思うが、確認していない) の海面水温を与えてシミュレートすると、降水量は 30% おおくなるという。

そして、関東ではとくに荒川の洪水リスクが高まり、東京都心部も浸水するおそれがあるという。そのばあいに、どれだけの深さの浸水がなん日つづき、死者が何人、という話もしていたが、もちろんこれはいろいろな仮定をおいたシミュレーションの結果だから、こまかいところまで信頼できる予測ではないだろう。しかし、対策が必要な問題であると意識するためには、具体例としてなんらかの数量をしめす必要もあるのだろう。