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地球の気候の大分類をどうおしえるかを考えている。地理と(理科の部分である)地学とでなるべく共通の概念をつかいたい。[2019-04-07の記事]では、ケッペンの気候区分の大分類 A, B, C, D, E をおおまかにひきついで、その意味づけを考えなおすことを考えてみた。
2019-04-07の記事でのべたように、ケッペンの体系は、陸上生態系に対して気候が制約条件となっていることをしめすものと解釈するのがよい。そのうち、E がわかれるところ、B がわかれるところは、いずれも森林限界であり、それぞれ、植物の生育にかかわるエネルギー要因による制約、水要因とエネルギー要因との比による制約として説明できる。また、CとDのさかいは、広葉樹林の限界であり、おそらく冬の最低気温による制約として説明できるだろう。しかし、AとCのさかいは、あまりきれいに説明できない。
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熱帯と温帯の区別は、むしろ、大気大循環を考えるさいに重要だ。
大気大循環での熱帯とはハドレー循環が主役である領域、温帯とは温帯低気圧が主役である領域だ。それにもとづく気候区分の試みとしては、中村和郎によるもの(中村ほか 1986の図5.9, 1996新版でも同じ)があり、増田(2003, 2019)でも紹介した。
そこではのべなかったが、ハドレー循環の領域と温帯低気圧の領域のさかいは季節によって南北に移動するから、夏も冬もハドレー循環の領域であるところを熱帯、夏にはハドレー循環、冬には温帯低気圧の領域になるところを亜熱帯、夏も冬も温帯低気圧の領域であるところを温帯とよぶことが可能だろう。(なお、この流儀では、わたしが紹介した図の情報が適切だとすれば、日本の本州以南は「亜熱帯」となる。)
ただし、この方法を気候区分として使おうとするとこまるのは、季節をしぼっても両領域のさかいは明確な線にならないことだ。ハドレー循環の下降域も、温帯低気圧帯の低緯度側のへりも、地上では高気圧であって、気圧でみても降水のすくなさでみても、つながってしまっている。「区分」とするのをあきらめて、おおまかな気候帯の認識として使うことは可能だと思う。それにしても、教材となる地図上のどこにさかいをひいたらよいのかの判断はむずかしい。( 増田(2019)の図3は、中村ほか(1986)の図をトレースして簡略化しただけで、わたしが線の位置をきめたわけではない。)
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大気大循環の熱帯と温帯のさかいは、上空の特徴に注目すれば、もうすこし位置をくわしくきめることができるかもしれない。熱帯と温帯では、圏界面 (対流圏と成層圏のさかい、「対流圏界面」ともいう)の高さがちがい、そこには不連続があるのがふつうなのだ。ただし、各地点の鉛直温度分布で圏界面をきめると不規則なものもでてくるので、空間的連続性をみて熱帯、温帯それぞれの圏界面を判断する必要があり、データ解析型の研究課題になる。また、気候の「区分」が必要だと思うのは地理の教育を受けた人が多いのだが、そういう人は気候を人間生活に関係の深い地表面付近の大気の状態としてとらえる人とかさなっていることが多い。せっかく対流圏上端の特徴に注目してデータ解析をして気候区分をしたとしても、賛同してくれる人はすくないだろう。
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また、気候が変化することを考えると、ケッペンのような気候が他のものにおよぼす効果による気候区分と、大気大循環による気候区分とをまぜることは、まずいことになりうる。地球全体の気候が温度が高いほうにずれたとすれば、ケッペンの意味での熱帯は高緯度側にひろがるだろう。しかし、大気大循環の意味では、熱帯も温帯もそれぞれ温度があがって、さかいめは移動しないかもしれない。(降水過程のききかたがかわるから、移動するかもしれないが、どのように移動するかは自明でない。) 温暖化でおこることを記述するさいには、両者を区別して論じないといけない。
- ひとまず今回のまとめ -
教育用の気候大分類として、「ケッペンの大分類を基本とするが、AとCのさかいは大気大循環できめる」というのを考えてはみたが、これも満足のいく案ではない。
文献
- 中村 和郎, 木村 龍治, 内嶋 善兵衛, 1986 (新版 1996): 日本の気候。岩波書店。
- 増田 耕一, 2003: 「4.1 現在の地球の大気と海洋」「4.2 気候変動の原因論」の2節。 『第四紀学』 (町田 洋 ほか 編著, 朝倉書店), 76 - 88.
- 増田 耕一, 2019: 地理教育・地学教育の中で気候・気象のどのような内容を扱うか。『地理』(古今書院) 2019年3月号 20-27ページ。[2019-02-25の記事]で紹介した。