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台風の名まえについて

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

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「台風」とはなにかについては、[2012-06-15の記事]を見てほしい。

西暦2000年以来、それぞれの台風に、国際的な約束で、名まえがつけられている。これについての公式な説明は、気象庁のウェブサイトの「台風の番号の付け方と命名の方法」のページ https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/typhoon/1-5.html にある。

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この約束を決めた「台風委員会」は、14の「国等」で構成されている。ここで気象庁が「国等」と言っているのは、世界気象機関(WMO)に加盟している国・地域のことで、香港・マカオはそれぞれ含まれているが、台湾は含まれていない。また、アメリカ合衆国も対象地域の国としてはいっているのだが、それは、直轄領のグアムがあるとともに、パラオ、マーシャル諸島などの気象業務を引き受けているからでもある。

名まえをつける対象は、北西太平洋で 英語でいう Tropical Storm (TS) 以上の強さに達したもので(Typhoonも含むがそれだけではない)、日本でいう「台風」と同じとみてよい。

名まえは、あらかじめ14の「国等」が10個ずつ出し合ってつくった表から、順番につけていく。表はくりかえし使うのだが、大きな被害を出した台風の名まえは再利用せずにほかの名まえに入れかえることがある。

名まえにどんなことばを選ぶかは、それぞれの「国等」にまかされている。日本が提出したものは、いずれも「星座の名まえ」とされていて、それ以上の説明はない。2018年の台風14号は「ヤギ (Yagi)」となる予定だが、その名まえの根拠は「やぎ座」であって、動物のヤギとの関連は示されていない。

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2018年の台風13号は、ローマ字では Shanshan、カタカナでは「サンサン」とされている。これは香港が出してきた名まえで、漢字では「珊珊」なのだそうだ。「珊」の字は、漢語ピンイン(北京音にもとづく)では shān だが、広東音では「サーン」のような音(zh.wiktionary.orgによれば「粵拼:saan1」) なので、そのように読んでほしいという注釈があったらしい。(ただし、わたしは注釈の存在をたしかめていない。) なお、このほかの香港から出てきた名まえのローマ字書きは、必ずしも漢語ピンインではないようだ。

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日本では、台風は、年ごとに通し番号で「1号、2号...」のように呼ぶ習慣がずっと続いている。そして、国際的にも、TS以上には通し番号がつけられている。台風委員会のつける番号と各国の気象庁などのつける番号がずれてややこしいことになることもあったのだが、そういう事態は減ってきた。

他方、アメリカ合衆国では、(いつごろからか調べていないのだが少なくとも第2次大戦前後には) 強い熱帯低気圧に女の人の名まえ(first name)をつける習慣があった。第2次大戦後、連合国が日本を占領していた時代には、日本でもアメリカ軍が決めた名まえが使われ、大きな災害をもたらした台風はその名まえで記憶されていることがある[つぎの 3X 節参照]。(ただし、アメリカ合衆国が国の制度として女の人の名まえをつけるようになったのは、NOAAのサイトの次のページによれば、1953年からだそうだ。https://www.nhc.noaa.gov/aboutnames_history.shtml )

しかし、1970年代までに、熱帯低気圧を女性あつかいするのは変だという議論が強くなり、アメリカ合衆国のNOAAでは、1978年(海域によっては1979年)から、男女の名まえを交互に使うことに変えた。

このアメリカの方式は、年ごとに、アルファベットの A から順にそれぞれの文字ではじまる名まえを使うものだ。あらかじめ複数の年のためのリストを用意してある。

北西太平洋の台風については、(ながらく、アメリカがつけた名まえはあったものの、国際的には番号だけだったのだが) 関係国のいろいろな意見を時間をかけて調整して制度をつくったようだ。各国による名まえは、人名、地名、神話・伝説上の存在、動物など、さまざまだ。こちらは、年ごとに表の列のあたまにもどることはなく、140個の名まえを順につかう。

そのうちで日本の気象庁の選択は、星座の名まえの一覧表から、ギリシャ神話などの固有名詞に由来するものは はずしているが、生物だろうが無生物だろうが無頓着、日本古来のことばだろうが近代に加わったものだろうが無頓着、明るい星があってみんなが知っている星座だろうが明るい星がなくて近代の天文学者が便宜上つくった星座だろうが無頓着に、抜き出したもののようだ。やる気がないがしぶしぶ、しかし失礼のないように対応したのでこうなった、と感じられる。日本の地名を使えばそこに被害をもたらした台風とまぎらわしいし、日本の神話・伝説上の存在や歴史上の人物の選択は政治思想がらみの賛否の論争になりうるので避けたいだろう。引き続き番号だけにしておきたいところだが、それが許されない状況なので、番号と同じ程度の連想しかひきおこさない名まえを出したのだと思う。(ただし、気象庁の担当者の考えをたしかめたわけではなく、これはわたしの想像にすぎない。)

この記事を「気象むらの方言」のカテゴリーに含めることにしたが、実際は、日本語圏に関する限り、台風を番号でなく名まえで呼ぶのは、気象専門家集団ではなく、その外の人がおもだと思う。

- 3X [2018-09-07 追加] -
第2次大戦後の日本に災害をもたらした、アメリカ軍がつけた名まえで知られている台風を、Wikipedia日本語版 (2018-09-07現在) 「Category: 昭和時代の台風」に含まれた記事にもとづいて、一覧にしてみた。

かたかな表記英語表記台風番号(日本)アメリカ名相当番号
カスリーンKathleen1947911
アイオンIone1948219
デラDella194924
ジュディスJudith1949910
キティKitty19491011
ジェーンJane19502810
キジアKezia19502911
ルースRuth19511517
ジュディJudy1953210
ここにあげた台風番号は日本の中央気象台(気象庁の前身)がつけたものである。当時のアメリカ軍の名まえのつけかたは、頭文字がアルファベットのAから順に(Q, U, X, Y, Zを除いて)ならんだ名まえの表を用意しておき、Tropical Storm (TS)以上の強さになったものに年ごとにAから順につけていった。したがって、たとえば、 J ではじまる名まえは10号、Kではじまる名まえは11号に相当する。日本の「台風」とアメリカの「TS以上」の基準は同じはずだが、当時の中央気象台とアメリカ軍とでは個別の熱帯低気圧の強さの判定はだいぶくいちがっていた。

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台風に国際名と並列に国内名をつけている国もある。フィリピンがそうだ。フィリピンに大きな被害をもたらした2013年台風30号は、国際名は Haiyan (中国が出したもので「海燕」)、フィリピン名はYolandaだった。