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「地球環境と夏時間を考える国民会議」報告書(1999年)について (2)

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

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「地球環境と夏時間を考える国民会議」が1999年に出した報告書については、[2018-08-08の記事]で紹介した。まだその全体をよく読んだわけではないが、目をとおした範囲での内容について述べる。

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ここでいう「夏時間」(報告書本文ではおもに「サマータイム」という表現が使われている)は、夏のあいだ国じゅういっせいに時刻をずらすことで、その直接の目的は太陽光を活用して照明を節約することと考えられてきた。ずらす時間として想定されているのは 1時間であり、2018年8月7日に突然出てきた「2時間ずらす」といったことは考えられていない。

【この「会議」ができる少しまえにも「夏時間」の提案についての議論があって、それはおもに、労働者の多くが昼間の定時勤務であることを前提として、勤務時間帯を朝のほうにずらすことによって、勤務時間が終わったあと余暇活動に使える明るい時間をふやしたい、という趣旨だった。余暇活動ができることが労働者やその家族にとってよいことだという立場と、それにともなって消費活動がふえて経済が拡大するのがよいことだという立場があった。】

この「会議」は、気候変動枠組み条約の締約国会議が1997年に京都で開かれ「京都議定書」ができたのを背景として、地球温暖化の対策にはさまざまな手段を組み合わせることが必要だという考えに立って、そのひとつの手段として「夏時間」が使えるかを検討するものだった。ただし、ここで地球温暖化の対策というのは二酸化炭素排出削減策のことだった。気候変化への適応策は話題になっていなかった。(当時、排出削減策を推進したい人びとは、適応策を話題にすると排出削減策は必要ないという議論が優勢になるのをおそれて、わざと話題にしなかったようだ。) また、二酸化炭素排出削減策はほぼ化石燃料の消費を減らすことと同じであり、それはほぼ「省エネ」と同じだと考えられた。(電力のすべてが火力発電ではないが、ここでは一次エネルギー源の変更を主題にしない文脈なので、電力を節約すれば一定のわりあいで化石燃料消費を減らせるという考えは妥当だと思う。)

【いまならばむしろ、ただでさえ暑い夏が、(たとえ排出削減ができても)温暖化でもっと暑くなる見通しなので、それへの適応策の文脈のほうが、重要だと思う。】

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報告書の構成は次のようになっている (indexページから写した)。

「地球環境と夏時間を考える国民会議」報告書

  • 1. 「地球環境と夏時間を考える国民会議」設置の背景
    • (1) COP3(京都会議)と我が国の地球温暖化対策
    • (2) 地球温暖化対策推進大綱と「地球環境と夏時間を考える国民会議」の設置
  • 2. サマータイム制度の概要
    • (1) サマータイム制度の概要
    • (2) 世界におけるサマータイム制度の実施状況
    • (3) 我が国において実施されたサマータイム制度
    • (4) サマータイム制度をめぐる国民の意識(世論調査の結果)の推移
  • 3. 国民会議等における検討状況
  • 4. サマータイム制度をめぐる主要論点についての考え方
    • (1) 省エネ・温室効果ガス削減効果について
    • (2) 労働に与える影響について
    • (3) ライフスタイルに与える影響について
    • (4) サマータイム制度導入に伴うコスト負担と対応すべき課題について
    • (5) その他の論点について
  • 5. サマータイム制度導入についての考え方
    • (1) 基本的な考え方
    • (2) サマータイム制度の実施期間
    • (3) サマータイム制度を導入する場合の対応策
    • (4) サマータイム制度を導入する場合の周知・準備期間
    • (5) サマータイム制度の呼称について
  • ・ 結び
  • ・「地球環境と夏時間を考える国民会議」検討経過
  • ・「地球環境と夏時間を考える国民会議」委員名簿
  • 報告書参考資料

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夏時間のおもな効用として、この報告書で考えられたのは、「省エネ」(エネルギー資源の節約)と、それにともなう二酸化炭素排出削減だ。その数値は報告書4節の(1)小節に示されている。試算によれば、おもに職場の勤務時間をずらすことによって省エネ効果はある(これを「直接効果」とする)。しかし、夕方の余暇活動が活発になることでエネルギー消費がふえる(これを「間接効果」とする)。

省エネは、原油換算で、直接効果が87万キロリットル/年、間接効果がマイナス37万キロリットル/年、あわせて50万キロリットル/年となった。
それにともなうCO2排出削減は、炭素として、直接効果が70万トン/年、間接効果がマイナス26万トン/年、あわせて44万トン/年となった。(換算に使った「原単位」は(2.16 t(炭素)/kL(原油) )であり、電力の源によって変わりうることの注意もある。)

この小節の表はHTML tableだったのでアーカイブに残っている。それを見ると、省エネのなかみは、おもに照明の需要が減ることで、家庭、ガソリンスタンド、自動車の照明などが含まれている。冷房の需要は、業務用が減り、家庭用がふえ、合計では減るのだが、照明よりは変化が小さい。【1999年といまの状況をくらべると、照明の内わけが、白熱灯や水銀灯が減り、LEDがふえ、蛍光灯はあいかわらずだろう。おそらくこれで照明への電力需要の総量が減っているので、夏時間にともなう節約効果の大きさも減っただろうと思う。定量的に評価してみないとわからないが、間接効果を含めると節約にならない可能性もあると思う。】

ここで示された夏時間の省エネ効果は、日本の一次エネルギー供給量に対して 0.1 % 程度であり、政策としてとりあげるには小さすぎるという意見もあった。しかし報告書の論調は、排出削減策はこまかいものの積み上げが必要だから、やれるものはやるべきだという意見が勝った感じになっている。【わたしは「小さすぎる」という認識のほうがもっともだと思うし、照明についての上記の補足が正しいとすれば、いまはさらに効果の重みが小さくなっていると思う。】

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夏時間の実施にともなって(日本社会全体として)しはらう費用については、4節の(4)小節で、「金銭的コスト負担」とそれ以外に分けて論じている。

「金銭的コスト負担」については次のように述べている。

サマータイム制度導入に伴い直接的に金銭的コスト負担が必要となるものを、全省庁及び主要産業界からのヒアリング結果等に基づき試算を行った。ハードウェア改修費とソフトウェア改修費に大きく整理して集計すると総額で約1000億円(考え方によっては850億円)のコスト負担が見込まれる。

それに続く表が、ウェブページでは画像ファイルだったのでアーカイブに残っていない(表の注は残っているが)。しかし、須藤玲司 (@LazyWorkz) さんの2018年8月7日のツイート https://twitter.com/LazyWorkz/status/1026792588437667840 で、他の資料からの孫びきで示されたのが、それと同じもののようだ。

それによれば、ハードウェア改修費 610 億円、ソフトウェア改修費 420 億円、合計 1030 億円となっている。

ハードウェア改修費のうちわけは、電力メーター 250億円、交通信号機 350億円、農薬散布用機材 10億円となっている。

農薬散布というのが奇妙だが、農業で対応しなければならない問題として大きいのは、朝のうちに市場に出すための農産物の収穫や牛乳の搾乳などだ。それは金額の見積もりが困難なので「金銭的コスト負担以外に想定される主要対応課題」の列挙のうちにあげ、付随的に出てきた農薬散布の労働力がたりない件だけ、(表の注の表現によれば)「ラジコンヘリ」(いまならば「ドローン」というところだろう)を導入すると想定して金額を見積もったらしい。

農薬散布を別とすると、ハードウェアとしては、時間帯によって運用を変える自立型の機器のとりかえだけを数に入れている。機器間のネットワークの情報処理について、夏時間のはじめ・おわりの際に調整しなければならないことは、ソフトウェア改修費のところでもちょっとだけ考慮されているようだが、大部分は「金銭的コスト負担以外に想定される主要対応課題」とされている。【これは、1999年当時としても過小評価だと思う。いまとなっては、店舗の在庫管理を本社でやるようなシステムがふえているから、対応が必要なところはけたちがいにふえていると思う。】

報告書の中でも3節「国民会議等における検討状況」の中では、情報ネットワークに関する懸念もいくつか示されている。たとえば「宅配便や貨物運送はコンピューター化されており、導入に伴いシステム変更するコストがかかる。」は「懸念意見」の中にある。しかし「産業界(特に金融機関のソフト変更)におけるコストが心配だ」という声は、「が、コストがかかっても環境を考えるきっかけとなるという点に重点を置くべき」と続いて「推進意見」になってしまっている。【この意見聴取は、夏時間はCO2排出削減策になると期待しているというふれこみは示されているが、効用と費用の数値はまだ出ていない段階のものではないだろうか?】

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労働に関しては、4節の(2)小節で論じられている。労働強化になる懸念は述べているが、そうならない可能性のほうをあとで述べている。

労働強化になる懸念としては「外が明るいと職場から離れにくい」と思う人が多いことがあげられている。

【わたしは、帰りの通勤の時間に野外が暑いことが重大な問題だと思う([2018-07-28の記事]にも書いた)。通勤で歩く人はもちろん、冷房のきいた乗りものを使うとしても野外との温度差が大きいのは人体に対する負荷になる。しかし、】この報告書では、1日の中の時刻による暑さのちがいを考慮した議論は、4節の(5)小節で、夜の蒸し暑さをとりあげ、1時間ずらしても大差ないと言っているだけである。【いま(2018年)は、明るさよりも暑さのほうが重大問題になっているので、1999年には見落とされていたことを考えなくてはいけないと思う。】

また、勤め人の余暇時間の需要にこたえるサービス業の労働時間がふえる懸念が述べられているが、論点があまり明確ではない。

【保育や介護の仕事に関する問題も、いまならば忘れないと思うが、1999年当時は気づかれなかったようだ。】