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太陽や星のあかるさ と エネルギーの流れに関する物理量

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】
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大学の「地学」の授業を担当している。参考となる図をしめすために、高校用の教材である「地学図録」(2019年度は「図説」)という本を使っている。

  • 「図録」数研出版 編集部 編, 2016: (視覚でとらえるフォトサイエンス) 地学図録。数研出版, 216 pp. ISBN 978-4-410-29092-3. [読書メモ]
  • 「図説」西村 祐二郎、杉山 直 監修, 2013, 2019: (七訂版) スクエア 最新図説 地学。第一学習社, 232 pp. ISBN 978-4-8040-4658-7. [読書メモ]

地球やそのほかの惑星にとどく太陽放射(電磁波)のエネルギーの流れの量を説明しようとして、教材の気象のところ(図録 132ページ; 図説 150ページ)にある、地球が受け取る太陽放射エネルギーを説明する図と、天文のところ(図録 186ページ; 図説 17ページ)にある、星からの距離とあかるさの関係を説明する図を使った。 そのとき、天文のほうに出てくる「みかけのあかるさ」とは、観測者にとどく星からの放射の単位面積・単位時間あたりのエネルギーのことだと考えてよい、ということにした。しかし、学生からたずねられて、わたしは自信をもってそう言えるほどよくわかっていないことに気づいた。

いくつかの本をめくったり、ウェブ検索で得られる情報を読んだりしてみると、専門家が書いたものどうしでも、用語の使いかたがちがうことがある。そのままつなぎあわせると、つじつまのあった用語体系にならない。しかし、くいちがいの構造の見当はついてきた。ひとまず、いま わたしがこの件をどのように理解しているかを書き出しておく。

【もしわたしの理解がまちがっていることに気づいたら修正していくことにする。ただし、わたしのブログではいつものことながら、まちがっていた記述をそう明記して残すことは約束しない。】

【ウェブから得た情報について出典を記録しなかったものが多い。わたしの記述を他のかたに有用なものにするためには出典を確認して記述すべきだと思っているが、いつまでにそうすると約束するのはむずかしい。】

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「あかるさ」の話題では、すくなくとも3つの専門分野の用語を考慮しないといけない。

  • 天文学。とくに光によって天体を観測し記載する分野。
  • 気象学。とくに放射(電磁波)の大気による吸収・散乱・透過などを考える分野。
    • (気象の知見には空の状態の定性的観察・記載もあるが、そこであかるさをどうあつかっているかは、わたしはよく知らないので、論じられない。)
  • 照明学(仮称)。わたしはこの分野がどうよばれているかさえ知らないので仮の名まえをつけたのだが、あかるさについて、ルクス(lx)やカンデラ(cd)などの単位をつかって論じている人たちがいる。ヒトがあかるさをどう認知するかについての心理学的専門分野と、採光(太陽などからの光の利用)や照明を設計する工学的専門分野にわたっているはずだ。

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ここでいう「放射」あるいは「輻射 [ふくしゃ]」は、どちらも同じ意味であり、電磁波によるエネルギー伝達をさす。天文学では「輻射」がふつうのようだが、ここでは、(1960年代以後の気象学の習慣にしたがって)「放射」と書く。気象の分野でのこの用語のつかわれかたについては、[2012-07-05「放射(radiation)、正味放射(net radiation)」]の記事で説明した。

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光は静止することがないので、「放射のエネルギー」を論じるときはほとんど、放射によるエネルギーの流れを論じることになる。【放射のエネルギーのたまりが形成されることはありうるが、それには、放射のエネルギーの流れが、反射されることか、吸収されてふたたび射出されることかが、くりかえされるようなしくみが必要だ。】

エネルギーの流れについての基本的数量は、単位時間あたりに動くエネルギーの量であり、SI単位は W (ワット、J/s)だ。

もうひとつの主要な数量は、ある面を通過する、あるいは面に到達する、あるいは面から出ていく、その面の単位面積あたりの、単位時間あたりのエネルギーの流れの量で、SI単位は W/m2 (ワット毎平方メートル、固有の名まえはついていない)だ。この物理量の基本的な名まえは「エネルギーフラックス密度 (energy flux density)」である (と、『理科年表』の物理・化学の部などを根拠として、わたしは理解している)。「エネルギーフラックス」は、本来は、エネルギーフラックス密度をなんらかの面積で積分した量で、SI単位は W になるはずだ。ただし、気象の分野での日常には、エネルギーフラックス密度のことを「エネルギーフラックス」と言ってしまうことが多い。[2012-04-27「フラックス、なんワット(毎平方メートル)?」]の記事で説明した。

放射の単位面積あたり・単位時間あたりのエネルギーの流れをあらわす量としては、「放射輝度 (radiance)」と「放射照度 (irradiance)」もある。わたしはこの2つとさらにエネルギーフラックス密度とのつかいわけが、残念ながらまだよくわかっていない。ここでは暫定的に「放射フラックス密度」という用語をつかうことにする。

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天文学のうちには、 全波長の電磁波によるエネルギーの流れによってあかるさを定義する流儀がある。 入門書のうちでは、Fleisch & Kregenow (2013 /日本語版 2014、以下「F&K」とする)の 第5章5.2節がそうだ。

  • Daniel Fleisch & Julia Kregenow, 2013: A Student’s Guide to the Mathematics of Astronomy. Cambridge University Press.
  • [日本語版] ダニエル・フライシュ、ジュリア・クレゲナウ 著, 河辺 哲次 訳, 2014: 算数でわかる天文学。岩波書店, 254 pp. ISBN 978-4-00-005414-0.  [読書メモ]

F&Kでは、物体(恒星を想定している)の「光度 (luminosity)」は、 その物体が単位時間あたりに出す放射のエネルギーのことである。

【「光度」ということばのよみは「こうど」であり、 同じよみの「高度」が太陽のみかけの位置をしめすのに出てきて「高さ」と言いかえると意味がちがってしまうおそれがあるから、 わたしはこのことばをなるべく使いたくない。 それでわたしの表現は「太陽が単位時間あたりに出す放射のエネルギー」のような まわりくどいものになってしまう。 】

F&Kでは、「みかけのあかるさ」は、観測者の位置で単位面積あたり・単位時間あたりに受ける放射のエネルギーのことである。 これをF&Kは「パワー密度」ともいい、「エネルギーフラックス」とも言っている(天文学でも「密度」は省略するのがふつうなのだろう)。 ここでは「放射フラックス密度」と呼ぶことにする。

星からの放射が、あらゆる方向に一様にひろがり、直進するとする。また、星と観測者のあいだにある、放射を吸収したり反射したりする物質は無視できるとする。すると、星からいろいろな半径の球面を考えたとき、どの球面に達するエネルギーの流れの総量も星の光度と同じだが、球の表面積は半径の2乗に比例して大きくなる。したがって、球面の単位面積あたりに達する放射エネルギーの流れは半径の2乗に反比例する。星からじゅうぶんはなれたところでは、星を中心とする球面の面積あたりで考えても、星に正面を向けた(星と観測者をむすぶ線に垂直な)平面の面積で考えても、数値はほとんど同じになる。したがって、放射フラックス密度は星からの距離の2乗に反比例する。

星の「等級」はつぎのように導入される。1等星のみかけのあかるさは6等星のみかけのあかるさの100倍であり【この部分2018-10-15訂正】、 等級間の差は、みかけのあかるさの比に対応するのだ。 このように決められた星の等級を「みかけの等級」というのは、 星から観測者までの距離に依存する量だからだ。 もし標準の距離にあったら みかけの等級はどうなるはずであるかにあたる量が「絶対等級」で、 これは星の光度の対数と1次関数の関係にある。 (その係数は、絶対等級が定義されたいきさつに依存している。 標準の距離は 10パーセクとされた。 1パーセクは年周視差が1秒角(1度の1/3600)となる距離だ。)

ここでの「みかけのあかるさ」として、星が出す全波長にわたる放射フラックス密度をつかう定義による「等級」は、「放射等級」、英語では bolometric magnitude とよばれる。これと対照されるのは「実視等級」や「写真等級」だ。それぞれ、ヒトの視覚や写真の感光剤の感じる波長帯にかぎり、さらにそれぞれの感度のおもみをかけた放射フラックス密度をつかうものだ、と、わたしは理解している。

【なお、世の中には「実視」を「みかけの」と同じ意味でつかっている解説などをよくみかけるが、それはまちがった記述だそうだ。】

みかけの等級にせよ絶対等級にせよ、単に「星の等級」と言ったら、実視等級をさすのがふつうだろう。ただし、いまではその数値は実視観測にもとづくのではなく、分光放射計などによって、可視光の波長帯の放射フラックス密度を波長別にわけたもの(に相当する量)を測定し、それにヒトの視覚の感度にあわせたおもみをかけるような手順で得られているだろう。

理科年表 2019』の天文の部を見ると、「おもな恒星」の中の「等級」の説明(天32ページ)で、「次表の等級は実視等級である」とある。実視等級の定義は見あたらないのだが、つぎの「色指数」の説明で「実視光で測った等級(V)」とある。そして、「等級の種類と有効波長、空間吸収」(天46ページ)に、いろいろな波長帯を限定した等級のきめかたが紹介されており、「実視」と書いてあるのはUBV式のVのところだけなので、このVを「実視等級」という、と推測できる。有効波長 0.55 μm、半値幅 0.083 μm とある。[この段落と次の文献は 2019-10-26 補足] 

  • 国立天文台, 2018: 理科年表 2019。丸善出版。[読書メモ]

F&Kでは、等級に関する5.3節のはじめで、ヒトの視覚の感度の件にふれているから、等級としては実視等級を想定しているらしい。しかしそこを注意して読まないと放射等級の話としてうけとってしまう。みかけの等級、絶対等級、星から観測者までの距離の関係の理屈の理解のためには、実視等級について考えても放射等級について考えてもかまわないのだが。 

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照明学(とわたしが仮によぶ分野)でつかわれるおもな数量としては、「光度」(単位はカンデラ、cd)、「照度」(単位はルクス、lx)などがある。

正確でないかもしれないが、およそ、「光度」はF&Kでいう光度(区別のためには「放射光度」とよぶべきだろうか)、「照度」は放射フラックス密度に、それぞれヒトの視覚の感度を代表する波長別のおもみをかけたものにあたる、と、わたしは理解している。

照明学と天文学でのヒトの視覚の評価は別々におこなわれているようなので、両者の波長別おもみづけは、おそらく似ているだろうが、数量として同じではないだろう。