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地球温暖化の「検出と原因特定」の細部を気にしてもみのりは少ない

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

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[2016-12-02の記事「地球温暖化懐疑論について、2016年12月の時点で考えること」]の中で、「『温度上昇がすでに起きている』、そして『その原因は人間活動由来の二酸化炭素である』」ということの確認、つまり「検出と原因特定」(detection and attribution, D&A)は、地球温暖化の見通しにとって必須の部分ではなく、D&Aの主張がゆらいだとしても、地球温暖化の見通しがゆらぐわけではない、と述べた。

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D&Aの根拠としていちばん有力なのは、世界平均地表温度(陸上は地上気温、海上は海面水温)についての、気候モデルによるシミュレーションと、観測データに基づく実況との比較だ。IPCC第5次報告書(第1部会の巻、2013年)のそれに関する図を、[2015-12-07の記事「20世紀の地球温暖化をどう見るか」]の「- 3 -」のところで紹介した(ので、それ自体はくりかえさない)。

気候システムに放射強制をもたらすおもな原因として、自然起源のものに、太陽が出す放射の変動と、火山起源エーロゾルがあり、人間活動起源のものに、二酸化炭素・メタンなどの温室効果気体と、(石炭・石油の硫黄分に由来する硫酸などの)エーロゾルがある。

これらの強制をすべて与えたシミュレーションの結果は、それなりに、実況に似ている。

他方、自然起源の強制だけを与え、人間活動起源の強制を抜いたシミュレーションの結果では、20世紀後半以後の気温が実況とかけはなれている。実況では気温が上昇したが、自然強制だけを与えたシミュレーションではあまり上昇しないのだ。したがって、「20世紀後半の気温上昇はおもに人間活動起源だ」と推測できるのだ。

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20世紀前半については、この方法では、原因が人間活動起源だと認められる気温変化が検出されなかった。理屈のほうから考えて、人間活動の強制がいくらかは効いているにちがいないのだが、強制がなくても起きる自然変動と自然起源の強制による変動をあわせたものに比べて、定量的にだいぶ小さいのだ。

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シミュレーション結果と実況の時系列を詳しく比べると、似ていないところがいろいろ見つかる。それを、研究の欠陥として、あるいはD&Aの結論を疑う根拠として論じているのを見かけることがある。(そのような批評は、温暖化の見通しへの懐疑論を支えるものとして使われることが多いようだ。)

しかし、これは、詳しいところまで一致しないのがあたりまえなのだ。

まず、実況の推定の不確かさがある。観測機器や観測場所の条件の変遷という問題もあるが、とくに大きな不確かさをもたらすのは観測地点がまばらにしかない地域があることや地点分布が時代とともに変わることだ。世界平均地表温度については研究が進んでこの原因による偏りは小さくなったが、第2次大戦中と1900年以前についてはまだ疑問がある。

次に、与えた強制の推定の不確かさがある。二酸化炭素などの温室効果気体濃度については、世界じゅう均一に近く、1958年以後は直接観測が継続しており、それ以前も南極氷床コアのサンプルで代表性のある値が得られるので、あまり問題がない。人間活動起源のエーロゾルは空間的・時間的に変動が大きく推定はむずかしい。太陽からの放射の変動と火山起源エーロゾルも、定性的な変化はよくわかってきたが、変動の大きさには2倍・2分の1くらいの不確かさがある。D&A研究で使う過去の気候のシミュレーションをするためには、強制の値を、推定の不確かさの幅のうちで、どこかに仮に決めて使うしかない。(その値をいろいろ変えた実験を試みるだけの計算機資源や労働時間の持ち合わせはないことが多い。)

さらに、気候システムには外から強制を与えなくても「内部変動」と呼ぶのがふさわしい変動が起こる。時間規模が10年くらい以下の変動をならして見たとしても、10年より長い時間規模のPDO (太平洋十年規模振動)やAMO (大西洋数十年規模振動)などの変動はある。気候モデルで強制を与えなくても、また、現実の強制を推定したものを与えても、これらの振動は起こり、その周期や振幅は大まかに実況と似てはいるが、位相は合わない(タイミングが合わない)。そして、たとえばPDOの位相によって、海洋がたくわえるエネルギーの量(あるいは海洋の深いところまでの平均温度)はあまり大きく変わらないが、エネルギーの表面付近と深いところとの分配が変わるようだ。そこで、実況でもシミュレーション結果でも、地表温度の時系列は、深いところまでの温度のゆっくりした変化と、PDOなどによるエネルギー分配を反映した表面付近の十年規模の変化とが重なったものになり、ゆっくりした変化は(実況の推定や強制の推定がうまくいけば)一致すると期待されるが、十年規模の変化のほうは合わなくてあたりまえなのだ。(なお、シミュレーションのほうは、少しだけちがう条件で多数回やって「アンサンブル平均」をとれば十年規模変動はほぼ消えてなめらかになるが、実況はひとつなのでそのまま見るか時系列になめらかな曲線をあてはめて見るかしかない。)

したがって、世界平均地表温度のD&Aの研究は、50年くらいの大きな傾向を見るのはよいが、それより細かく見ても、みのりは少ないだろう。

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D&Aは、世界平均地表温度のほかにも、いろいろな変数や特徴について試みられている。

しかし、たとえば海洋がたくわえるエネルギー量については、過去にさかのぼると観測が乏しいので、不確かさが大きい。

他方、地域別の気温や降水量などは、世界平均の量の場合よりも、気候システムに対する強制による変動の割合が少なく、内部変動の割合が多くなるにちがいない。地域別の量のD&Aは、むずかしいのだ。それでも、人びとが関心をもつ量なので研究されているのだが。