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科学技術社会論(STS)学会2014年度シンポジウムの企画案

科学技術社会論(STS)学会の2014年度シンポジウム企画担当になった。次のような案を2013年11月16日の理事会で認めていただき、総会でも趣旨説明した。今後改訂して、学会ブログhttp://blog.jssts.jp などで広報する予定。それに合わせてわたしのブログでもお知らせする(この記事を改訂するか、あらためて記事を書くかは未定)。

= 時期 =
2014年6-7月ごろ、日は未定だが仮に土曜を考えている。
= 場所 =
東京かその付近
= 主題 =
人類の持続可能性にかかわる社会的意志決定の課題と、それを助ける科学・技術の役割を考える。
= 方法 =
STS学会員から報告者(3人程度)をつのり、企画者と報告者で打ち合わせて問題群の分担を決め、各報告者が、複数の専門家からの取材と自分の考察をもとに、シンポジウムで講演する形にしたい。報告者には報酬は提供しないが、学会のシンポジウム経費の範囲内で旅費は出せるようにしたい。
= とくに考えたい視点 =

  • 人類の天然資源利用に注目した文明史的・人類生態学的視点。農業・漁獲や都市化などによる生態系改変、化石燃料(および核燃料)に依存した工業化文明、それを持続可能に変えていく可能性。
  • 長期的な視野をもつこととすぐ行動を始めることの両立、グローバルな課題とローカルな課題の両立が可能になるような、社会的意志決定(政策決定)のありかた。そこではどんな人がステークホルダー(課題当事者)としてかかわるか。科学者を含む専門家にはどのような知識提供の働きが期待されるか。
  • 持続可能な社会をつくるためにはどのような科学や技術が求められるか。その研究はどんな人によって主導されるか。それを実現するにはどのような教育や能力開発が求められるか。

(総会で報告した企画案はここまで。)

= 提案の背景となる問題意識 =
2012年の日本での「エネルギー政策に関する国民的議論」は政策決定への熟議的方法の試みであった。ただし、そこでの争点は原子力の利用に伴う放射性物質のリスクと電力供給の欠乏のリスクに集中し、よいと考えられる対策は化石燃料消費の増大を伴いながら電力供給を確保するものになりがちだった。もし地球温暖化へのリスクへの社会の関心が持続していたら、電力供給の必要性を疑う議論も出現しただろうが、議論の構造は複雑になり、合意形成はさらに困難になったと思われる。

他方、国際科学会議(ICSU)、国際社会科学評議会(ISSC)などによる地球環境研究推進の方針の再構築が進み、Future Earthという研究プログラムが開始されようとしている。ここでの大きな主題は人類の持続可能性であり、そのうちで地球環境問題として認識されるのはおもに、気候変動の対策(適応と温暖化抑制の両方を含む)と生物多様性・生態系サービスの保全である。研究の過程では研究者と対等にステークホルダーが関与するべきとされる。しかし、ローカルな環境問題ならばともかく、地球規模の環境問題ではどんなステークホルダーがどのように関与するのがよいかは自明でない。

地球環境問題は、今・ここでの人間活動が、遠い将来や、離れた場所での人間生活に支障を与えうるということである。対策には、行動の根拠となる知見を得るための科学の役割と、意志決定をするための国際・国内政治の役割がいずれも重要だ。科学と政策の連関、ローカルとグローバルの連関をどう築くか、また、必然的に不確かである遠い将来の見通しを意志決定にどのように取りこむかという課題がある。

地球環境が人間の生存を支える能力(エネルギー、水、食料を含むバイオマス資源など)には限界がある。たとえば、現在の世界の人口が、ひとりあたり現在の日本人の水準で資源を消費することは持続可能ではなさそうである。無策のまま資源の限界にぶつかれば、人類の絶滅には至らないまでも、人類人口の多くの部分が暴力的に命を絶たれる事態になりかねない。そのような悲惨な事態を避け、地球環境の限界の内で全人類が健康で文化的な生活ができるようになるためには、産業革命以来発達してきた工業化社会は、今よりも少ない物質資源によって生きていく必要があり、技術開発も持続可能性を前提としたものにシフトさせる必要があるし、経済政策や社会保障のしくみも再構築が必要だろう。