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コリオリ (Coriolis)の力(ちから)

多くの人が「コリオリ(Coriolis)の力(ちから)」は気象学特有の用語と思っていると思う。海洋物理学を知っている人はそう思わないだろうが、気象学と海洋物理学に特有の用語だと思うかもしれない。

実際には、これは物理学のうちの力学に共通のことばだ。わたしは大学の初級の物理の授業で聞いた覚えがある。また、回転する人工物(たしか、飛行機のエンジンの中身)の運動を研究している人の話でも聞いた覚えがある。

コリオリの力は実際の力ではなく、座標系が回転していることによる「見かけの力」だ。

Newtonの運動方程式は座標系が「慣性系」であることを前提としている。不正確を承知で大ざっぱに言うと、宇宙全体に対して止まっているか等速直線運動をしている座標系だと考えられる。地球は自転をしている。宇宙全体に対して何が動いているかを決めることはできないとはいえ、地球が止まっていて宇宙全体が回転していると考えることには無理がある。円運動しているということは円の中心に向かう加速度が働いているということなので、地球に対して止まっている座標系は慣性系ではない。

地球とともに回転している座標系が止まっているかのように(慣性系であるかのように)考えて運動を記述すると、Newtonの運動方程式が成り立たない。しかし「見かけの力」を追加すると運動方程式が成り立つようにできる。

見かけの力の第1は「遠心力」だ。回転系で止まっているように見える物体は、慣性系で見れば円運動しているのだから、円運動の加速度をもたらす力(向心力)が実際にあるはずだ。ところが回転系では止まっているので、運動方程式が成り立つためには合力はゼロであるはずだ。向心力を打ち消す力を仮定すればつじつまが合う。回転系に対して止まっている物体だけでなく、動いている物体にも、同じように遠心力が働いていると考えてよい。

ところが、気象学ではこの意味での遠心力は明示的に扱わない。地球自転の遠心力は同じ場所では質量によらず同じ加速度をもたらす力であるという点で、地球の重力と共通の性質をもつので、重力に含めて扱っている。重力と地球自転の遠心力の合力の方向を「下」とみなしているのだ。

回転する座標系に対して相対的に動いている物体については、遠心力に加えてもうひとつの見かけの力を考える必要がある。これがコリオリの力だ。これは回転系に対して相対的な速度の大きさを変えないが向きを変えるように働くので「転向力」ともいう。

コリオリの力は直観的にわかりにくい。それで気象学や海洋物理学の入門書の著者がそれぞれ説明をくふうしている。1つの説明がわかりにくかったら、いろいろ読み比べてみるとよいと思う。【[2016-04-10補足] ここで実質的説明をしなくてすみません。わたしの授業用教材では[大気と海洋の大規模な運動にかかわる力]のページで扱っていますが不充分なことは承知で、何かの入門書の説明に目をとおすことを勧めています。】

[ここからさき、2012-06-20追記, 2012-07-29部分改訂]
コリオリパラメータ
回転の角速度は、本来、3次元のベクトルのようなもの(詳しく言うとベクトルと区別するべきもので人によっては「軸性ベクトル」に分類するが)であり、直交する3つの軸のまわりの成分からなるとみることができる。

コリオリの力を考えなければならない運動は時間スケールがだいたい1日(地球の自転周期)以上のものだ。地球の大気・海洋ではそのような運動は水平スケールが鉛直スケールよりも桁違いに大きいものになる。したがって、速度ベクトルの水平2次元の成分が鉛直成分よりも桁違いに大きい。この条件のもとでは、水平の加速度の式に水平の速度によるコリオリの力がかかることだけを考えればよい。この場合、地球の自転の角速度のうち、その場の天頂(頭の真上)方向の軸のまわりをまわる成分だけが効く。それは緯度のサイン(正弦)に比例したものになり、北極では地球の自転角速度がそのまま効くが、赤道では0になる。

運動方程式の中で、単位質量あたりのコリオリの力は、風速の水平成分に 2 Ω sin φをかけた形で現われる。ただしΩは地球の自転角速度、φは緯度である。2 Ω sin φをコリオリパラメータと呼び、fという文字であらわすことが多い。

f平面とβ平面
大気や海洋の力学を理論的に扱うときは、地球が球であることを無視して大気や海洋は無限の平面上にあるとみなして式をたてることがある。

そのうち中緯度だけを扱うときは、コリオリパラメータ f を一定とみなすことが多い。これを f 平面という。

しかし、問題によっては、f が緯度によって変化することを考慮しなければならないが、それを1次関数で表現できればよい場合がある。南北方向の空間座標を y とすると、f = f0 + β y (ただしf0とβは定数) のような形にする。このような扱いをβ平面という。

赤道では f は 0だが、βはある。その意味では赤道上の現象にもコリオリの力は関係する。

鉛直の運動も考えると
鉛直の速度・加速度も考慮すると、地球の自転の水平軸まわりの成分も無視できなくなる。

鉛直の加速度の式には、速度の東西成分に 2 Ω cosφをかけた項が現われる。【気象学の話題を離れるが、この項は、測地学の重力の分野で、地球に対して移動しながら観測した重力加速度の値を、地球に対して固定している場合の重力加速度の値になおす際の補正項として知られており、エトヴォシ(Eötvös)効果と呼ばれることがある。[この部分 2015-04-09改訂]】

また、加速度の南北成分の式には、速度の鉛直成分に 2 Ω cosφをかけた項が現われる。

鉛直加速度が重要な役割を果たす代表的現象である積雲の時間規模は1日よりも短いので、気象学ではながらく、 2 Ω cosφ が含まれる項を実際に扱うことは少なかった。近ごろになって、積雲から大規模現象まで一貫して計算することが多くなり、この項を入れる必要がある場合がふえてきた [この部分 2015-04-09補足]。