地上天気図には、地面のすぐ上(気温ならば2メートル上、風速ならば10メートル上が標準)で観測された数値が示される。しかし、天気図でいちばん重視される変数である気圧は、そのままではなく、海面の高さでの値になおして示されている。陸上のほとんどの場所で、そこには空気がない。そこにもし空気があったら気圧はどうなるはずかを、上のほうから外挿して求めた値なのだ。
気圧は水平方向よりも鉛直方向に大きく値が変わる。地上で測定された気圧をそのまま地図上に表示したのでは、そこに現われる情報は基本的に観測点の標高の分布になってしまう。気象にとって重要なのは、水平面上でどこが相対的に気圧が高いか、低いかだ。まぎれなく定義できる水平面は平均海面だ。(実は地球の質量分布が均一でないために、何が水平かはややこしい。専門用語でいうとジオイド(geoid)面を使うことになる。)
海面気圧(英語では(mean) sea level pressure)は仮想的な値なのだが、気象学的感覚では地上の測定値よりも「正しい」もののように思われる。それで、測定値から海面気圧になおす補正を「海面更正」という習慣がある。(「更生」でも「校正」でも「較正」でもない。) 英語ではたぶんreduction to the (mean) sea levelのような表現がふつうだと思う。
「海面更正」の計算では、地下に仮定する空気の温度・水蒸気量に関する仮定をおく必要がある。補正量が大きくなるにつれて、観測値としての値打ちが下がる。地上天気図では、だいたい海抜1000メートルよりも高い位置の観測点の値は重視しないほうがよい。高さ1000-2000メートルの広域の天気を概観するには、地上天気図よりも850 hPa面天気図を見たほうがよい。
なお、地上気温についても標高による補正をすることがある。しかし気温と高さの関係は気圧と高さの関係よりもさらに不確かだ。したがって地上天気図に示される気温は補正されていない。読む側で観測点の標高を知って判断する必要がある。