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パーセントとppm、濃度と湿度

【この記事は 2018-11-04 に増補改訂した。これからも書きかえるかもしれない。いつどこを書きかえたかをかならずしも明示しないことをおことわりしておく。】

-- 1 : 割合の表現 --
大きな量に対する小さな量の割合を示すときに、次のような表現をよく使う。

  • 百分の1、10-2 ... パーセント (per cent, %)。cf. 対応するSIの接頭語は c (センチ)
  • 千分の1、10-3 ... パーミル (per mil, ‰)。cf. m (ミリ)
  • 百万分の1、10-6 ... ppm (parts per million)。cf. μ (マイクロ)
  • 十億分の1、10-9 ... ppb (parts per billion)。cf. n (ナノ)
  • 1兆分の1、10-12 ... ppt (parts per trillion)。cf. p (ピコ)

ここでのbillion、trillionはアメリカ式である(イギリス式ではない)ことにも注意しておこう。

割合にもSI接頭語を使えばよさそうなものだが、割合は同じ量どうしの割り算で得られる無次元量であり、SIには無次元量の単位がないので[注]、SI接頭語を使った表現をうまく構成することができず、ほかの表現が使われるのだ。

  • [注] 角度は弧の長さを半径の長さで割った無次元量とも言えるのだが、その単位の「ラジアン」は角度以外には使えない。

-- 2 : 濃度 --
ここに示した割合の表現は、濃度を表わすのに使われることが多い。濃度は、混合物の中で注目している成分がしめる割合だ。ただし、何の何に対する割合をとるかが、なんとおりもある。

【「濃度」ということばを、分母を混合物の体積とした場合にかぎって使う流儀もあることを知ったが、わたしはその流儀にしたがっていない。】

- 2a: 分数の分子にあたる量を分母のほうにもふくめるか? -
割合を分数の形で考えたとき、分母に、注目する成分自体も含むのか、それを除外するのか、の、両方の考えかたがありうる。溶液の場合、たとえば砂糖水つまりショ糖の水溶液ならば、ショ糖が「溶質」、水が「溶媒」だ。濃度とは、「溶質の量 / 溶液の量」だろうか、「溶質の量 / 溶媒の量」だろうか? すでにできている溶液を考えるのならば、「溶質の量 / 溶液の量」のほうが考えやすいが、これから溶液をつくるのならば、「溶質の量 / 溶媒の量」のほうが考えやすいと思う。液体どうしの混合の場合や、気体の混合の場合も、同様に考えることができる。

- 2b: どんな物理量の比をとるか? 結果は無次元量か有次元量か? -
どんな「量」の割合を計算するのか、という問題もある。濃度には「体積あたりの質量」や「体積あたりのモル数」など違う物理量の比を使うこともある。その場合は、濃度は、物理量の次元をもった量になり、(さきほどの例では kg/L とか mol/L のような)単位をつけてあつかう必要がある。分母と分子に同じ物理量をとった場合には、結果は無次元量になる。

同じ物理量どうしの比として得られる無次元量の濃度のうちでも、その物理量としては質量重さ分子数モル数体積が考えられる。重力加速度は一定とみなすので、「重量比」は「質量比」と同じことだ。「モル数比」は「分子数比」と同じことだ。「体積比」は、一般に混合では体積が合計にならないので意味が不明確なのだが、理想気体がよい近似になっている気体の場合に限っては、「分子数比」と同じことであり、直接測定できない分子数よりも測定できる体積に基づいた表現が好まれることが多い。

ここで仮に「質量比」と表現した、溶液でいえば「溶質の質量 / 溶液の質量」の無次元量を、「質量比濃度」と呼ぶことにする。「質量濃度」と呼ぼうと思ったのだが、「質量濃度」は「溶質の質量 / 溶液の体積」をさすのが正しいとしている記述も見るので、それとちがう意味で使うのは避けることにしたのだ。質量比を百分率で示す場合の「質量パーセント濃度」はよく見かけるが、特定の10のべき乗の係数をかけた形ではなく割合自体を論じたいので、見慣れない表現だが、「質量比濃度」とした。

-- 3: 気象や海洋で出会う例 --
- 3a: 塩分 -
海水中の「塩分」は、標準とされる定義が変遷してきた。これについては[2016-12-05の記事]で論じた。基本的には、海水全体(塩物質を含む)のうちの塩物質の質量の割合であり、質量比濃度と言ってよいと思う。かつては、パーミル(‰)を使った「35 ‰」のような表現がよくみられた。それから「実用塩分」が標準とされた時代には、塩分は濃度ではないとされ、単位をつけない「35」のような表現をするべきだとされた。いまの定義はふたたび質量比濃度になっている。単位の書きかたは、わたしはまだ標準を確認していないが、「35 g/kg」のような形がよさそうだと推測している。

- 3b: 大気の成分 (水蒸気以外) -
気象学では「『注目している成分の量』/『空気全体の量』」をとることが多い。溶液のたとえで言えば「溶質の量 / 溶液の量」のほうだ。

大気中の酸素の割合が約 21% だというのは分子数比(体積比)で、質量比(重量比)では約 23% になる。これはどちらも使われるので、正確な数値が必要なときはどちらか確かめる必要がある。

大気中の微量気体成分のそれぞれの濃度を扱うときは、分子数比を使うことが多い。たとえば、大気中の二酸化炭素濃度が 400 ppmだというのは分子数比で、大気の分子が百万個あればそのうち400個が二酸化炭素だということだ。ただし伝統的に「体積比」という表現がされてきたので、「体積」にあたる volume の頭文字をつけて ppmv と書くこともある。

-- 4: 大気中の水蒸気量の表現 --
さて、気象学でパーセントがいちばんよく使われるのは湿度だが、「湿度なんパーセント」と表現される「湿度」は濃度ではない。(もし濃度ならば、湿度100%は純粋な水蒸気をさすことになるだろうが、そんなことはない。) これは専門的に言えば「相対湿度」(英語ではrelative humidity)というものだ。

まず水蒸気の濃度による表現をあげてみる。ただし、「(大気中の)水蒸気濃度」という表現はほとんど使われない。

水蒸気の質量比濃度、つまり「水蒸気の質量 / 空気全体の質量」を「比湿」(specific humidity)という。物理量の名まえでの「比 (specific)」は「比熱容量」のように「質量あたりの」という意味で使われることが多く、「比湿」も「湿」が物理量の名まえではないものの質量あたりの量ではある。比湿は無次元量だが、無次元のまま「0.02」のような形でなく「20 g/kg」のような形で表現することが多い。理屈のうえでは「20 ‰」でもよいはずだが、そのような表現は見かけない(相対湿度とまぎらわしい表現を避けるからだろう)。

水蒸気の「混合比」(mixing ratio)ということばもある。これは「水蒸気の質量 / 水蒸気を除く空気の質量」をさすとされている。溶液のたとえで言えば溶媒の量を分母とした質量比濃度だ。気象学で出会う条件では、水蒸気は空気のうち小さい割合をしめるので、混合比と比湿は似た値をとる。【そこで「混合比」という用語を「比湿」と同じ意味で使ってしまう人もいるようだ。】

絶対湿度」(absolute humidity)ということばは、「水蒸気の質量 / 空気全体の体積」をさして使われることがある。その場合、単位は g / m3などが使われる。しかし、比湿と同じ意味で使われることもあるようであり、まぎらわしいので、使わないほうがよいと思う。

ここから、濃度に関連するが直接には濃度でない数量をとりあげよう。

地球大気は理想気体でよく近似できるので、気圧は成分気体の圧力(分圧)の合計と考えることができる。「水蒸気圧」(vapor pressure)は、大気中の水蒸気の分圧である。単位は、気圧と同じ hPa が使われることが多い。

理想気体を前提として、気圧に対する水蒸気圧の割合は、分子数比あるいはモル比による水蒸気濃度にひとしい。質量比濃度は、これに水蒸気の分子量と空気の平均分子量との比をかけたものにあたる。

水蒸気と液体の水だけが閉じた容器のなかにあって、一定の温度にたもたれていたとすれば、蒸発と凝結がつりあった相平衡状態がありうる。そのときの水蒸気圧を、その温度での「飽和水蒸気圧」という。凝結しない窒素・酸素などが共存する大気中でも、理想気体の近似がなりたつかぎり、液体の水と相平衡にある水蒸気の分圧はこの飽和水蒸気圧である。

大気中に液体や固体の不純物が非常に少なければ、水蒸気の分圧が飽和水蒸気圧よりも大きくても凝結が起こらないこともある。これを過飽和状態という。しかし、過飽和状態は不安定である。凝結核となる液体や固体の粒子がくわわれば、飽和をこえた水分はすぐ凝結する。

実際の水蒸気圧の、同じ気温での飽和水蒸気圧に対する割合が「相対湿度」だ。これは本来は(過飽和でないかぎり) 0と1のあいだをとる無次元量だが、ふつうパーセントの形で表現される。相対湿度が 100% だということは、その気温・気圧のもとで空気が水蒸気で飽和しているということだ。相対湿度 0% は水蒸気が全然ないことだ。

飽和状態の比湿は、気温のほかに気圧(水蒸気も含む空気全体の圧力)にもよる。相対湿度は、空気の比湿の、同じ気温・同じ気圧での飽和比湿に対する割合と言ってもよい。

温度が高いほど飽和比湿が大きいので、同じ相対湿度(たとえば60%)でも温度が高いほど実際に空気に含まれる水蒸気量は大きい。しかし、空気が湿っているか乾いているかに対する人間の感覚は、どちらかというと相対湿度の大小に近い。

-- 5: 同位体比について --
(本来の意味での)「同位体比」も、濃度のたぐいである。

ある元素の全部の原子数のうち、特定の同位体の個数の割合ならば、まさに濃度の一種である。

実際には、その元素の存在量の大部分をしめる同位体と、微量である同位体があるとき、微量の同位体の個数の、大部分をしめる同位体の個数に対する割合を使うことが多いようだ。これは厳密にはここでいう濃度ではないが、濃度とにたふるまいをする量ではある。

同位体比そのものを、この記事の1節で述べたような数量表現で示すこともある。しかし、同位体比を次に述べるように変換した「δ値」を示すことのほうがむしろ多い。

- 5a: δ値のパーミル(‰) -
環境中の物質の、水素、炭素、窒素、酸素などの元素の安定同位体比を「‰ (パーミル)」であらわしたものがよく出てくるが、これはたいてい、濃度に関係があるが濃度そのものではない量をあらわしている。

酸素の場合でいえば、質量数16の原子が圧倒的に多く、18のものは微量で、17のものはさらに少ない。酸素同位体比といえばふつう、酸素18の個数の、酸素16の個数に対する割合をさす。一般的な表現ではなくこの場かぎりの表現として、このような本来の同位体比を Rという文字で示すことにする。

環境中の物質の同位体比は似たような値をとる。その値のわずかなちがいが問題だ。そこで、標準物質の値との差を規格化したものを使い、δ (小文字のデルタ) 値という。酸素同位体比のδ値は δ18O のように書かれる。

δ = (Rサンプル - R 標準物質) / R標準物質

同じことだが

δ = (Rサンプル / R 標準物質) - 1

δ値は小数になるので、1000倍した数値を書き、パーミルとして示すのがふつうになっている。

(なお、大文字のΔは、このδ値とは別のものを示すのに使われることがある。)

- 5b: δ値のパーメグ (per meg) -
中澤ほか(2015)の本で知ったのだが、パーミルでも小数になってしまうような小さなδ値を示す場合は、百万倍した数値を書き、パーメグ(per meg)として示すのだそうだ。(この場合 ppm としないのは、ppmは濃度むきの表現であり、δ値は濃度そのものではないからだろう。)

文献

  • 中澤 高清、青木 周司、森本 真司, 2015: 地球環境システム — 温室効果気体と地球温暖化。共立出版。[読書メモ]