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津波火災、エネルギー貯留担体に関する注意

これもテレビ番組を見て考えさせられた件。NHKテレビ9月11日21時(15日0時15分の再放送を見たのだったかもしれない)の「NHK特集『巨大津波』」を見て、東日本大震災の被害のかなり重要な部分が「津波火災」によっていたことを知った。

地震の揺れに伴って火事が起こることが地震による被害の重要な部分を占めることは、大正関東大震災の教訓を断片的にでも聞いた人ならば知っているだろう。多くの場合は地震が火を起こすわけではなく、家庭の調理などで使われている火が制御不能になるのだが、同時多発し、消火活動もむずかしくなるという意味で、地震は重要な要因だ。そして、地震火災を防ぐための対策は、一方では人々の行動に対する注意に、他方では建築基準に向かっている。

津波の猛威も一般論としては知っていた。それが偶発的に火事の原因になっても驚かないが、津波をきっかけとして火事が多発するしくみがあったことは、このテレビ番組を見て初めて認識した。

ひとつは、住宅や商店などで使っていたプロパンガスボンベが、津波で流されるうちにこわれて、中のガスが出て燃えたということだ。

もうひとつは、海上で、漁船などの燃料に使われている重油が海面に広がり、またこわれた住宅の木材や根こそぎにされた木が流れてきて、いっしょに燃えたということだ。揮発成分の少ない重油も、ぬれた木も、それぞれ単独ならば火がつきにくいのだが、組み合わさると、木がろうそくのしんのような働きをして、よく燃えるのだそうだ。番組では制御できない船で漂流してかろうじて助かった人の話を伝えていたが、船が火でとりかこまれたそうだ。

このことは、今後のエネルギー資源とその利用の形を考えるうえで、むずかしい制約をつきつけてくる。津波が及ぶのは海抜50メートルくらいから低いところに限られると思うが、山地では地震と大雨が複合して土砂崩れが起こることなどにそなえる必要があるだろう。

都市ガスは日常に便利だし、地震の際にはガスタンクとその付近以外では供給が止まるので火事の原因にはなりにくい。しかし、地震で配管網がこわれると復活までに手間がかかる。こわれたときの復活を考えると、ネットワーク依存型よりも分散型のほうがよいのではないかと思った。しかし分散型として実績のあるのは家ごとにプロパンガスボンベか石油タンクをもつ形だが、それが同時多発型の火事のもとになりうることがわかってしまった。

これからは化石燃料よりも再生可能エネルギーを使っていくべきだと思うが、太陽光にしても風力にしても、また海岸で期待される波浪にしても潮汐にしても、ほしいときにほしいだけのエネルギーが得られるわけでも、常に一定のエネルギーが得られるわけでもない。需要をまかなうためには、エネルギーをためるしくみが必要だ。エネルギーをためる方法としていちばん有力なのは化学エネルギーにすることだ。ところが、エネルギーをためこんだ物質は、設計通りにエネルギーを取り出されるほかに、何かの衝撃でエネルギーを放出してしまうおそれがある。それが爆発や発火などの危険につながらないようにするには、物質を選ぶとともに、それを扱う装置を初めから安全を考慮して設計する必要がある。

わたしはこれまで、化学エネルギーをためる方法として、炭化水素を合成するのがよいと思ってきた。これならば従来の石油やガスを利用する設備でエネルギーを取り出せる。とくに、重油のような揮発しない液体か、プロパンのような常温常圧では気体だがいくらか圧力をかければ液体になるような物質がよさそうだと思った。ところが、重油もプロパンも同時多発火災のたねになってしまった。

エネルギーをためる担体は炭化水素に限る必要はない。たとえば、アンモニアを使うことが研究されている。これもいくらか圧力をかければ液体になるし、きれいに酸化すれば水と窒素になって有害物を出さずにすむ。もちろん、毒物だし悪臭のもとなので扱いに注意が必要だ。

どんな担体にせよ、分散型利用を可能にするためには、しろうとでも安全に使えるような設備の設計が必要だ。そこに、津波などによってタンクが動かされても火事にならないように、という条件が加わった。